朝、目覚ましは聞こえているのに体が動かない。立ち上がった瞬間に目の前が白くなる。電車で立っていると気持ち悪くなる。生理のときに、トイレで倒れそうになったことがある。
こういう不調があると、多くの方はまず「貧血かな」と考えます。そして鉄分のサプリメントを飲んでみる。けれど、あまり変わらない。
それは貧血ではなく、低血圧のほうかもしれません。この2つはまったく別の状態で、対処も違います。混同されたまま何年も過ごしている方が、とても多い領域です。
そしてもうひとつ、低血圧には「病気ではないから気にしなくていい」と言われやすいという特徴があります。たしかに、生活に支障がなければ治療の対象にならないこともあります。けれど低血圧の裏に、治療できる病気が隠れていることもあるため、「体質だから」で全部を片づけてしまうのは危険です。
この記事では、基準の数値から始めて、貧血との違い、危険なサインの見分け方、女性の体で何が起きているのか、そして今日からできることまでを順番に整理していきます。
- ① すぐにしゃがむか、横になる。「がまんして立っていよう」がいちばん危険です。転倒によるけがのほうが問題になります
- ② 横になれるなら、足を心臓より高くする。クッションや壁を使って足を上げると、頭に血が戻りやすくなります
- ③ 落ち着いたら、ゆっくり水分をとる。起き上がるときは、座る→数十秒待つ→立つ、の順で
意識を失った、けいれんがあった、胸の痛みや強い息苦しさを伴う——このときは迷わず救急要請(119)をしてください。
低血圧とは?基準の数値はどこから
まず知っておいていただきたいのは、低血圧には、高血圧のようなはっきりした国際的な診断基準がないということです。高血圧は「140/90mmHg以上」と明確に線が引かれていますが、低血圧はそうではありません。
そのうえで、実務的な目安として広く使われているのが次の数字です。
| 区分 | 上の血圧(収縮期) | 下の血圧(拡張期) |
|---|---|---|
| 低血圧の目安 | 100mmHg未満 | 60mmHg未満とされることが多い |
| 正常 | 100〜120mmHg台 | 60〜80mmHg台 |
| 高血圧 | 140mmHg以上 | 90mmHg以上 |
ただし、この数字はあくまで目安です。いちばん大事なのは、数値そのものではなく「症状があるかどうか」です。
上が90台でも元気な人と、110あってもつらい人がいます
血圧が低くても、まったく症状がなく、日常生活に何の支障もない方はたくさんいます。この場合、治療の対象にはなりません。
逆に、数値としては基準内でも、その人にとっていつもより低いと体が反応することがあります。ふだん115ある人が95まで下がれば、数字上は「境目」でも本人はつらい。血圧は絶対値だけでなく、その人の平常値からの下がり幅でも症状が出ます。
「血圧の下が低い(60台)」が気になる方へ
「上は普通なのに、下だけ60台で低い」という相談はよくあります。下の血圧(拡張期血圧)は、心臓が広がって血液をためこんでいるあいだの、血管にかかっている圧力です。
上と下の差(脈圧)が大きいことは、年齢とともに血管がかたくなってくると起こりやすくなります。若い方で下だけが低い場合は、体格や自律神経の働き、測定条件(測る前に動いた、腕の高さが合っていない)が影響していることも多くあります。
気になるときは、1回の測定で判断せず、朝と夜に数日ぶん測って平均で見るのが基本です。測り方は血圧の正しい測り方と記録にまとめました。
低血圧の症状|セルフチェック
低血圧の症状は、脳や全身に必要なだけの血液が届きにくくなることから起こります。だから、頭・全身・消化器と広い範囲に出ます。
よく出るサイン
| 場所 | 出やすい症状 |
|---|---|
| 頭 | 立ちくらみ、めまい、頭が重い、朝すっきりしない、集中できない |
| 全身 | だるい、疲れやすい、力が入らない、朝起き上がれない |
| 心臓・呼吸 | 動悸、少し動くと息切れする |
| 消化器 | 食欲がない、胃がもたれる、吐き気、便秘や下痢 |
| 手足 | 冷え、しびれ、顔色が悪い、唇の色が薄い |
| その他 | 肩こり、寝つきが悪い、天気が悪い日に不調が強くなる |
頭痛が天気に左右される場合は低気圧による頭痛(気象病)、日中の眠気が強い場合は寝ても寝ても眠いときも重なって考える必要があります。
セルフチェック|あてはまるものを数えてください
| No. | 項目 |
|---|---|
| 1 | 立ち上がったときに、目の前が暗くなったり白くなったりする |
| 2 | 朝、起き上がるまでに時間がかかる。二度寝しないと動けない |
| 3 | 長く立っていると、気分が悪くなる(電車、行列、朝礼など) |
| 4 | お風呂から上がるときにふらつく |
| 5 | 食後、強い眠気やだるさに襲われる |
| 6 | 手足が冷えやすく、夏でも冷たい |
| 7 | 疲れやすく、夕方には力が入らない |
| 8 | 朝は食欲がなく、朝食を抜くことが多い |
| 9 | 生理のときに、気分が悪くなったり倒れそうになったことがある |
| 10 | 健康診断で「血圧が低いですね」と言われたことがある |
| 11 | やせ型である、または食事量が少ない |
| 12 | 採血や痛みのある処置で、気分が悪くなったことがある |
数を数えたら|次にやること
| あてはまった数 | いまの状態の目安 | 次にやること |
|---|---|---|
| 0〜2個 | 日常生活への影響は少なそうです | とくに対応は要りません。健診の数値だけ覚えておいてください |
| 3〜5個 | 低血圧の傾向がありそうです | 朝と夜の血圧を1週間測ってみます。2週間の実行プランから1つ始めます |
| 6〜8個 | 生活に支障が出ている段階です | 血圧の記録を持って受診を。貧血の検査もあわせて頼んでください |
| 9個以上 | 背景に別の原因がある可能性も考えます | 受診してください。甲状腺・貧血・薬の影響を含めて確かめる価値があります |
「どこからがやばい」のか|数字より先に見るサイン
「低血圧 どこからがやばい」は、とても多く検索されている言葉です。答えは、数字ではなく症状で判断するです。上が90でも元気なら問題にならず、110でも意識が遠のくなら問題になります。
そのうえで、次のサインがあるときは、様子を見ずに受診してください。
- 意識を失った(失神した)——一度でもあれば必ず受診してください。原因の確認が必要です
- 胸の痛み、強い息苦しさを伴う——心臓の問題が疑われます
- 急に血圧が下がった——ふだんと違う下がり方をしているときは、出血・脱水・感染症などが背景にあることがあります
- 冷や汗、顔面蒼白、意識がぼんやりする
- 強い腹痛や大量の出血を伴う——妊娠の可能性がある方は子宮外妊娠も含めて緊急の確認が必要です
- けいれんがあった
意識消失やけいれんを伴う場合は、迷わず救急要請(119)をしてください。
「様子を見てもいいけれど、受診はしたほうがいい」ライン
- 立ちくらみで転びかけたことが、月に何度もある
- 朝、起き上がれずに遅刻や欠勤が出ている
- 以前は平気だったのに、ここ数か月で急に症状が増えた
- 新しい薬を飲み始めてから症状が出た
- 体重が短期間で落ちた
「急に変わった」は、体質ではなく原因があるサインです。ずっと低血圧だった人が今もそうであることと、最近になって下がってきたことは、意味がまったく違います。
貧血との違い|いちばん多い思い込み
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。低血圧と貧血は、まったく別のものです。
どちらも「立ちくらみ」「だるい」「顔色が悪い」といった似た症状を出すため、日常会話ではほとんど区別されていません。「貧血で倒れた」と言われる場面の多くは、実際には貧血ではなく血圧の問題です。
| 低血圧 | 貧血 | |
|---|---|---|
| 何が起きているか | 血管にかかる圧力が低い(血液を押し出す力の問題) | 赤血球やヘモグロビンが足りない(酸素を運ぶ材料の問題) |
| たとえるなら | 水道の水圧が弱い | 水そのものが薄い |
| 調べ方 | 血圧計で測る | 血液検査(ヘモグロビン・フェリチン) |
| 症状の出るタイミング | 立ち上がった瞬間、長時間の立位、食後、入浴後 | じわじわ続く。動いたときの息切れ、氷が食べたくなる |
| 主な対応 | 水分・塩分・下半身の筋肉・立ち上がり方・原因疾患の確認 | 鉄の補充と、鉄が失われている原因(過多月経など)への対応 |
| 鉄剤を飲んだら | 基本的に変わりません | 数週間〜数か月で改善が期待できます |
「両方ある」ことも、めずらしくありません
とくに生理の量が多い女性では、貧血と低血圧が同時に存在していることがよくあります。この場合、鉄剤だけでも、水分・塩分だけでも、症状は半分しか改善しません。
だからこそ、両方いっぺんに確かめておくのが近道です。
- 「立ちくらみが続いています。血圧と、貧血の血液検査を両方お願いできますか」
- 「生理の量が多いほうなので、ヘモグロビンだけでなくフェリチンも見ていただけますか」
- 「寝た状態と立った状態で血圧を測る検査はできますか」(起立性低血圧の確認になります)
フェリチン(体に蓄えられている鉄の量)は、健康診断では測られないのが一般的です。自分から頼まないと分かりません。詳しくは生理と貧血をご覧ください。
なぜ若い女性に多いのか
低血圧は、やせ型の若い女性に多いと言われます。その背景として説明されているのは、次のような要素です。
① 下半身の筋肉量が少ない
立っているとき、血液は重力で下半身にたまろうとします。それを押し戻しているのが、ふくらはぎや太ももの筋肉です(筋ポンプと呼ばれます)。筋肉量が少ないと、この押し戻す力が弱くなるため、頭に血が届きにくくなります。
同じしくみは足のむくみにも関わっています。むくみやすい人と立ちくらみしやすい人が重なるのは、偶然ではありません。
② 体格と循環する血液の量
体が小さい・やせている方は、体内をめぐっている血液の量そのものが少なめです。少し脱水になっただけでも、影響が出やすくなります。
③ 食事量が少ない・朝食を抜く
食事は、水分と塩分をとる主要な機会でもあります。朝食を抜くと、その日の午前中は水分も塩分も不足したまま活動することになります。ダイエットで食事量を減らしている場合は、さらに影響が大きくなります。
④ 自律神経の調節
立ち上がったときに血圧を保つのは、自律神経の仕事です。交感神経が働いて血管を締め、心拍を上げることで、頭に血液を送り続けます。この切り替えがうまくいかないと、立ち上がった瞬間に血圧が落ちます。
睡眠不足、ストレス、生活リズムの乱れは、この調節を鈍らせます。関連して、自律神経失調症や眠れないときの記事もあわせてご覧ください。
⑤ 女性ホルモンによる血管の広がりやすさ
エストロゲンには血管をやわらかく保つ働きが、プロゲステロンには血管を広げる働きがあるとされています。血管が広がると、その分だけ血圧は下がる方向に動きます。
これは妊娠中に血圧が下がることや、閉経後に血圧が上がりやすくなることの説明にもつながります。それぞれ後の章で扱います。
低血圧の種類|4つに分けて考える
「低血圧」とひとことで言っても、中身はいくつかに分かれます。どれにあたるかで、やることがまったく変わります。
| 種類 | どんなもの | 特徴的な場面 | 対応の方向 |
|---|---|---|---|
| 本態性低血圧(体質性) | 原因となる病気がなく、もともと血圧が低い | 健診でいつも低い。子どものころから朝が弱い | 症状がなければ経過を見る。あれば生活面の調整 |
| 起立性低血圧 | 立ち上がったときに血圧が落ちる | 朝、立ち上がった瞬間。長い立位。入浴後 | 立ち方の工夫、水分・塩分、下半身の筋肉、着圧 |
| 食後低血圧 | 食後に血圧が下がる | 昼食のあと。炭水化物の多い食事のあと | 1回の量を減らす、食後すぐ動かない |
| 二次性低血圧(症候性) | 別の病気や薬が原因で下がっている | 最近になって下がってきた。他の症状も増えた | 原因の特定と治療が必要 |
このなかで、いちばん見落としてはいけないのが4番目の二次性低血圧です。「体質だから」と思い込んで放置すると、治療できる病気が見過ごされます。背景に病気が隠れているときで詳しく扱います。
起立性低血圧|立ちくらみの正体
立ち上がったときに、目の前が暗くなる・白くなる。これがいちばん多い相談です。
何が起きているのか
横になっている状態から急に立ち上がると、重力によって血液が一気に下半身に移動します。健康な状態では、体が瞬時に反応して血管を締め、心拍を上げ、頭への血流を保ちます。
この反応が間に合わないと、脳へ届く血液が一時的に減り、目の前が暗くなります。医学的には、立ち上がってから3分以内に、上の血圧が20mmHg以上、または下の血圧が10mmHg以上下がる状態を起立性低血圧と定義しています。
起こりやすい場面
- 朝、ベッドから急に起き上がったとき
- お風呂から上がるとき(温まって血管が広がっているところに、立ち上がる動作が重なります)
- 長時間の立ちっぱなし(朝礼、行列、満員電車、立ち仕事)
- 暑い日、汗をかいたあと(脱水が加わります)
- お酒を飲んだあと
- しゃがんだ姿勢から急に立ち上がったとき
立ち上がり方を変えるだけで、かなり違います
- ① 起き上がる前に、足首を回す。横になったまま足首を10回ほど回し、ふくらはぎを動かしてから起きます
- ② 座って30秒待つ。ベッドの端に腰かけて、深呼吸を2〜3回。ここを飛ばさないことがいちばん効きます
- ③ 立ってからも、すぐ歩き出さない。立った状態で数秒その場にとどまってから歩き始めます
長く立たなければならない場面では、その場で足踏みをする、かかとを上げ下げする、片足ずつ体重を移すだけでも、血液が下半身にたまるのを防げます。「気をつけ」の姿勢で動かずに立ち続けるのが、いちばんつらい姿勢です。
思春期のお子さんの場合|起立性調節障害
中学生・高校生で「朝起きられない」「午前中に調子が出ない」という場合、起立性調節障害(OD)という状態が背景にあることがあります。思春期には体が急に大きくなり、自律神経の調節が追いつかないことがあるためです。
怠けや夜ふかしのせいだと決めつける前に、小児科で相談してみてください。朝の状態と午後の状態に差があること自体が、判断の手がかりになります。
食後低血圧|昼食のあとに眠くなる人へ
食事のあとに強い眠気やだるさに襲われる、めまいがする。これは食後低血圧かもしれません。
食事をすると、消化のために血液が胃や腸に集まります。そのぶん、全身に回る血液が一時的に減ります。ふつうは心拍を上げるなどして補いますが、その調整が追いつかないと、食後に血圧が下がります。一般に、食後2時間以内に上の血圧が20mmHg以上下がる状態を指します。
起こりにくくする工夫
| 工夫 | やり方 |
|---|---|
| 1回の量を減らす | 3食を4〜5回に分ける。昼食を軽くして、午後に軽食を足す |
| 炭水化物に偏らせない | 丼もの・麺類だけの食事は血糖と血圧の両方が動きやすくなります。たんぱく質と野菜を添えます |
| ゆっくり食べる | 早食いは一気に血液が消化管へ向かいます |
| 食後すぐに立ち上がらない | 食後20〜30分は座って過ごします。すぐ動かなければならないなら、立ち上がる前に足首を回します |
| 食後のお酒を避ける | アルコールは血管を広げるため、下がり方が大きくなります |
「午後の会議でいつも意識が飛びそうになる」という方は、昼食の内容と量を1週間だけ変えてみると、原因が食事側にあるかどうかが分かります。
背景に病気が隠れているとき
ここが、この記事でもっとも慎重に扱いたい部分です。低血圧そのものが病気ではなく、別の病気の「結果」として現れていることがあります。
とくに、「以前は普通だったのに、最近になって下がってきた」という経過のときは、必ず確認してください。
| 背景にあり得るもの | ほかに出やすい症状 | 確認のしかた |
|---|---|---|
| 甲状腺の働きの低下(橋本病など) | だるさ、寒がり、体重増加、便秘、むくみ、髪が抜ける | 血液検査(TSH・FT4) |
| 副腎の働きの低下 | 強い倦怠感、食欲不振、体重減少、色素沈着、塩辛いものが欲しくなる | 血液検査(ホルモン値)。まれですが見逃したくない病気です |
| 心臓の問題(不整脈・心不全・弁膜症) | 動悸、息切れ、胸の痛み、むくみ、失神 | 心電図、心エコー |
| 出血(消化管出血・過多月経) | 顔色が悪い、黒い便、生理の量が急に増えた | 血液検査、便潜血、婦人科での確認 |
| 脱水・感染症 | 発熱、下痢、嘔吐、尿が少ない | 問診と血液検査 |
| 糖尿病による神経の障害 | 手足のしびれ、立ちくらみが強い | 血糖・HbA1c |
| 薬の影響 | 薬を始めた時期と症状の時期が重なる | お薬手帳を持参して確認 |
薬の影響は、思っているより多くあります
次のような薬は、血圧を下げる方向に働くことがあります。心当たりがある方は、自己判断でやめずに、処方した医師か薬剤師に相談してください。
- 血圧を下げる薬、利尿薬(別の目的で処方されていることもあります)
- 心臓の薬
- 一部の抗うつ薬・抗不安薬・睡眠導入薬
- 前立腺や頻尿の薬(家族の薬を間違えて飲んだ、というケースも実際にあります)
- アレルギーの薬の一部
- ここ数か月で、明らかに血圧が下がってきた
- だるさ・寒がり・体重の変化など、ほかの症状も一緒に増えた
- 失神したことがある
- 新しい薬を始めたタイミングと一致している
- 生理の量が急に増えた、または不正出血がある(不正出血)
生理と血圧|生理中に倒れそうになるのはなぜ
「生理のときにトイレで倒れそうになった」「保健室に運ばれたことがある」。この経験がある方は少なくありません。
ここで起きていることは、実はひとつではなく、3つが重なっています。
① 血管迷走神経反射(いちばん多い原因)
強い痛みや緊張があると、自律神経のうち副交感神経が過剰に働いて、心拍がゆっくりになり、血管が広がって、血圧が急に下がることがあります。これが血管迷走神経反射です。
採血のときに気分が悪くなるのと同じしくみで、強い生理痛でも起こります。冷や汗、あくび、吐き気、目の前が暗くなる——この順で来ることが多く、「あ、来るな」と分かった時点ですぐ横になれば、失神は避けられることがほとんどです。
② 経血による鉄の消耗(貧血側の要因)
生理の量が多い状態が続くと、鉄が不足していきます。これは血圧ではなく貧血の問題ですが、症状が似ているため区別がつきにくくなります。大きな血の塊が出る、ナプキンが1〜2時間もたない、といった場合は過多月経を確かめてください。
③ プロスタグランジンによる血管の拡張
生理中は、子宮を収縮させるためにプロスタグランジンという物質が増えます。これは子宮以外にも作用し、血管を広げたり、腸を動かしたりします。生理中の下痢や吐き気と同じ背景です。
妊娠中の低血圧|下がる時期と仰臥位低血圧症候群
妊娠すると、血圧はいったん下がる方向に動きます。これは異常ではなく、体の自然な変化です。
妊娠初期〜中期に下がる理由
妊娠が成立すると、赤ちゃんへ血液を送るために、体は血管を広げて全身の抵抗を下げます。この結果、妊娠初期から中期にかけて、上の血圧が10mmHg前後下がることがあります。おおむね妊娠中期(20週前後)に最も低くなり、その後は妊娠前の値に戻っていきます。
この時期に立ちくらみが増えるのは、そのためです。つわりで食事や水分が十分にとれていないと、脱水も加わってさらに下がりやすくなります。
仰臥位低血圧症候群|あおむけで気分が悪くなる
妊娠20週を過ぎたころから、あおむけに寝ると気分が悪くなることがあります。これは、大きくなった子宮が背中側にある太い静脈(下大静脈)を押しつぶし、心臓に戻る血液が減ってしまうために起こります。
対処はとてもシンプルです。左を下にして横向きに寝ること。左側臥位やシムスの体位と呼ばれる姿勢で、抱き枕やクッションを膝のあいだにはさむと安定します。
妊婦健診の内診台や、歯科・整体などであおむけになる場面では、「妊娠中なので、気分が悪くなったら横を向かせてください」と先に伝えておくと安心です。妊娠週数別の過ごし方は妊娠6ヶ月以降の記事にもまとめています。
産後の立ちくらみ
出産のあと、初めてトイレに立つときにふらついた——という経験は、とてもよくあります。産院で「初回歩行は必ず看護師を呼んでください」と言われるのは、このためです。
産後に立ちくらみが起こりやすい理由は、いくつも重なっています。
- 分娩時の出血で、体内をめぐる血液の量が減っています
- 長時間ほとんど動いていないため、急に立つと調節が追いつきません(帝王切開のあとはとくに)
- 子宮が急に小さくなり、おなかの中の圧力が急に変わります
- 睡眠が細切れで、自律神経の調節が鈍っています
- 授乳と悪露で、水分と鉄が出ていきます
- 授乳のたびに水分をとる習慣にしてください。授乳中は思っている以上に水分が出ていきます
- 抱っこしたまま立ち上がる動作がいちばん危険です。赤ちゃんを一度置いてから立つ癖をつけてください
- 悪露が多い、動悸や息切れがある場合は、貧血の確認を。産後健診で相談できます
- 1か月健診より前でも、ふらつきが強ければ産院に連絡して構いません
更年期に血圧はどう変わるのか
ここは、多くの方が意外に思う部分です。閉経を境に、血圧はむしろ上がりやすくなります。
エストロゲンには血管をしなやかに保つ働きがあるとされており、閉経によってその分泌が大きく減ると、血管がかたくなりやすくなります。実際、女性の高血圧の割合は、閉経を境に上がっていきます。
「ずっと低血圧だったのに」という戸惑い
若いころから低血圧だった方が、40代後半以降に健診で「血圧が高めです」と言われて驚く、というのはよくあることです。これは体質が裏切ったのではなく、体の条件が変わったということです。
この時期は、「自分は低血圧だから高血圧は関係ない」という思い込みがいちばん危険になります。閉経を迎えたら、健診の血圧の数値は毎年確かめてください。
更年期のめまい・立ちくらみは、血圧だけの問題ではありません
更年期に増えるめまいや動悸は、血圧の変動、自律神経の揺らぎ、ほてりに伴う血管の急な拡張など、複数の要因が絡みます。血圧を測って「低くない」と分かっても、症状そのものは残ることがあります。
そういうときは、血圧の数字だけで判断せず、更年期症状として全体で相談するほうが早く進みます。
「低血圧だから朝が弱い」は本当?
低血圧といえば朝が弱い、というイメージは、日本ではとても強く定着しています。実際、朝に立ちくらみが起きやすいのは事実です。夜のあいだ横になっていた体が、起き上がるという急な変化にさらされるからです。
ただし、「血圧が低いから朝起きられない」という因果関係が、はっきり示されているわけではありません。朝の不調には、ほかの要因が同じくらい、あるいはそれ以上に関わっています。
| 朝が弱い理由として考えられるもの | 確かめ方 |
|---|---|
| 単純に睡眠時間が足りていない | 休みの日に何時間眠るか。9時間以上眠ってしまうなら不足しています |
| 眠りの質が悪い(途中で目が覚める、いびき) | 眠れないとき/寝ても眠いとき |
| 体内時計が後ろにずれている | 休日の起床時刻が平日より2時間以上遅い |
| 鉄が足りていない | 血液検査(ヘモグロビン+フェリチン) |
| 甲状腺の働きが落ちている | 血液検査(TSH・FT4) |
| 気分の落ち込みが背景にある | 朝がとくに重く、日中も楽しめない状態が2週間以上続く |
| 起立性低血圧・起立性調節障害 | 寝た状態と立った状態で血圧を測る |
ここで大事なのは順番です。「低血圧だから」で説明を終わらせると、対応できるはずの原因まで手つかずのまま残ります。朝がつらいことを性質や体質の話にしてしまう前に、上の表を1つずつ確かめてみてください。
「低血圧は長生きする」という言われ方について
これもよく聞く言葉ですが、低血圧そのものが寿命を延ばすという根拠が示されているわけではありません。
高血圧が心臓や血管の病気のリスクを上げることははっきりしているので、その裏返しとして語られてきた面があります。ただし、低血圧が別の病気の結果として起きている場合は、話がまったく変わります。「低いから安心」ではなく、「症状があるか」「急に変わっていないか」で判断してください。
食事と塩分|「食べてはいけないもの」の実際
「低血圧の人が食べてはいけないもの」という検索がとても多いのですが、先にお伝えすると、低血圧の人が一律に禁止すべき食品というものは、基本的にありません。
そのうえで、症状を出やすくする食べ方・飲み方はあります。禁止ではなく「量とタイミングに気をつけたいもの」として整理します。
| 気をつけたいもの | なぜか | どうするか |
|---|---|---|
| アルコール | 血管を広げるため、飲んだあとに血圧が下がります。脱水にもなります | 量を控える。飲むなら水を交互に。飲んだあとの入浴は避けます |
| 炭水化物に偏った食事 | 食後低血圧を起こしやすくなります | 丼もの・麺類だけにせず、たんぱく質と野菜を添えます |
| 一度に食べすぎる | 消化のために血液が大量に消化管へ向かいます | 1回を軽くして回数を増やします |
| 極端な減塩 | 塩分は体に水分を保つ働きに関わります | 持病がなければ、過度な減塩は必要ありません(下記参照) |
| 朝食を抜く | 午前中を水分・塩分・エネルギー不足で過ごすことになります | 食べられないなら、汁物や飲み物だけでも入れます |
塩分は「増やせばいい」のか
低血圧の対策として塩分が挙げられることはあります。ただし、これは誰にでもすすめられる方法ではありません。
- 高血圧、腎臓の病気、心臓の病気がある方、家族に高血圧が多い方は、自己判断で塩分を増やさないでください
- 妊娠中の方も同様です。妊娠高血圧症候群との関係があるため、必ず産院で相談してください
- いま40代以降で、将来的に血圧が上がる可能性がある方は、塩分を習慣化する前に医師に確認を
- 塩分より先に試したいのは水分です。こちらはリスクがほとんどありません
先に増やすべきは、水分です
体内をめぐる血液の量が足りていないと、血圧は上がりようがありません。1日1.5〜2L程度を目安に、こまめに分けてとってください(心臓や腎臓の病気で水分制限がある方は、その指示が優先されます)。
- 朝起きてすぐコップ1杯。これがいちばん効きます。夜のあいだに失われた水分を補ってから起き上がります
- 一気に飲むのではなく、1〜2時間おきに少しずつ
- 汗をかいた日、暑い日は多めに
- カフェインの多い飲み物だけで水分をとらない(利尿作用があります)
朝のコーヒーは有効?
カフェインには一時的に血圧を上げる作用があるとされ、朝の1杯が助けになる方はいます。ただし、毎日習慣的にとっていると効きにくくなること、夕方以降にとると眠りの質を下げることには注意が必要です。「朝だけ」「起きてから水を飲んだあとに」という使い方が現実的です。
鉄と、その他の栄養
貧血が重なっている場合は、鉄が必要です。ただし鉄は食事だけで急に増やすのが難しい栄養素なので、検査で不足が分かっている場合は、鉄剤を処方してもらうほうが確実です。食事のポイントは生理中の食事にまとめています。
日常でできること|2週間の実行プラン
対策はいろいろありますが、全部やろうとすると続きません。1週目は3つだけにしてください。効果が出やすい順に並べています。
| 時期 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1週目 その1 | 起きてすぐコップ1杯の水 | 枕元にペットボトルを置いておきます。起き上がる前に飲むのがコツです |
| 1週目 その2 | 立ち上がり方を変える | 足首を回す→座って30秒→立つ。この順番を体に覚えさせます |
| 1週目 その3 | 朝と夜に血圧を測る | 記録が判断材料になります。測り方は次の章のとおり |
| 2週目 その1 | 朝食に汁物を足す | 食べられないなら味噌汁やスープだけでも。水分と塩分が同時にとれます |
| 2週目 その2 | ふくらはぎを動かす習慣 | かかとの上げ下げを1日3セット×10回。歯みがき中・電子レンジ待ちの時間で十分です |
| 2週目 その3 | 着圧ソックスを試す | 立ち仕事・長時間の移動がある日に。医療用の弾性ストッキングは薬局で相談できます |
| 2週間後 | セルフチェックをもう一度 | 数が減っているか、血圧の記録に変化があるかを見ます |
そのほか、効果が期待できること
- 入浴は熱すぎない湯で、上がるときはゆっくり。浴槽から出る前に、湯船の中でしゃがんで一呼吸置くと安全です
- 下半身の運動。ウォーキング、階段、スクワット。筋ポンプを育てることが、いちばん根本的な対策です
- 睡眠時間を確保する。自律神経の調節は、睡眠不足で真っ先に鈍ります
- 長時間の立位を避ける工夫。足踏み、体重移動、可能なら壁にもたれる
- 急に暑い場所へ行かない。サウナ、満員電車、夏場の屋外は下がりやすい環境です
- 水分・立ち上がり方:1〜2週間。ここは早く出ます。変わらなければ、水分量が足りていないかを見直します
- 朝食・食事の分割:2〜3週間。食後の症状が減ったかを見ます
- 下半身の運動:1〜3か月。筋肉が増えるには時間がかかります
- 鉄剤(貧血がある場合):1〜2か月(蓄えが戻るには3〜6か月)
この期間を過ぎても変わらないときは、やり方が足りないのではなく、原因の見立てのほうを疑うタイミングです。二次性低血圧の可能性を含めて、受診してください。
場面別|働きながら・通いながら乗り切る
低血圧がいちばん困るのは、家の中ではなく外の場面です。すぐに横になれないところで症状が来るから、こわい。場面ごとに、現実的にできることを整理します。
| 場面 | できること |
|---|---|
| 朝礼・式典など長時間の立位 | その場で足踏み、かかとの上げ下げ、片足ずつ体重を移す。膝を軽くゆるめる(膝を伸ばしきって固定するといちばん危険)。前ぶれが来たら我慢せずしゃがむ |
| 満員電車 | 可能なら乗る前に水分を。ドア横に立って手すりを確保する。気分が悪くなったら次の駅で降りてベンチへ。優先席の利用をためらわなくて構いません |
| 立ち仕事 | 着圧ソックスを常用。休憩のたびに座って足を上げる。足踏みできる位置に立つ。靴はヒールより安定するものを |
| デスクワーク | 1時間に1回は立って歩く。立つときは机に手をついてゆっくり。デスクに水を常備(マグボトルを目に入る位置に置くと飲む回数が増えます) |
| 会議・打ち合わせ | 座席は出入口側を選ぶ。気分が悪くなったら「少し失礼します」で抜けてよい。無理に座り続けるほうがリスクです |
| 夏場・暑い場所 | 汗をかくと血液量が減ります。塩分を含む飲料も選択肢に。屋外の待ち時間は日陰へ。熱中症と症状が重なるので、水分は多めに |
| 入浴 | 湯温はぬるめ、長湯を避ける。湯船の中で一度しゃがんでから出る。脱衣所を暖めておく。ひとり暮らしなら家族に「入る」と連絡を入れておくのも手です |
- 立ちくらみや失神の傾向がある方が運転中に意識を失うと、取り返しがつきません
- 少しでもふらつきや目の前が暗くなる感じがあったら、安全な場所に停車してから対処してください。窓を開ける・音楽をかけるといった方法では足りません
- 失神したことがある方は、運転の可否を必ず医師に確認してください。原因によっては制限が必要になることがあります
- 自転車も同様です。ふらつきがある日は無理をせず、公共交通機関に切り替えてください
採血・献血・健康診断で倒れてしまう方へ
「注射で毎回気分が悪くなる」「献血で倒れたことがある」。これも血管迷走神経反射で、低血圧の方や痛みに敏感な方に起こりやすいものです。恥ずかしいことでも、意志が弱いことでもありません。
大事なのは、先に申し出ておくことです。医療者側にとっては珍しい相談ではなく、対応の方法があります。
- 「採血で気分が悪くなったことがあるので、横になって採らせていただけますか」——ベッドや処置台で採血してもらえることがほとんどです
- 「針を見ると具合が悪くなるので、反対を向いていてもいいですか」
- 「終わったあと、少し休ませてください」——立ち上がった直後に倒れるケースが多いので、5〜10分座っているだけでもかなり違います
- 前日から水分をとっておく/朝食を抜かずに行く。この2つで起こりにくくなります
健康診断のバリウム検査や胃カメラなど、絶食を伴う検査でも同じです。問診票の「気分が悪くなったことがある」の欄には、必ず印をつけてください。
「低血圧だから朝が弱いんでしょ」と軽く言われるとき
低血圧は言葉としてよく知られているぶん、「よくあることだよね」で流されてしまいやすいという難しさがあります。実際に遅刻や欠勤につながっていても、怠けだと受け取られることがあります。
ここでも、気持ちではなくしくみと数字で伝えるほうが届きます。
| 伝わりにくい言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|
| 「低血圧だから朝つらくて」 | 「朝の血圧が上90を切る日は、起き上がるまでに30分かかる。記録を取ってある」 |
| 「立ちくらみがするんです」 | 「立ち上がると上の血圧が20下がるので、転倒しないよう手すりを使わせてください」 |
| 「体質なので仕方なくて」 | 「原因を調べていて、いま貧血と甲状腺の検査をしているところです」 |
職場に配慮を求める場合も、「朝がつらい」ではなく「朝の始業時刻を30分ずらせると、遅刻を防げます」のように、してほしいことを具体的に伝えるほうが通りやすくなります。
血圧の正しい測り方と記録
低血圧の相談でいちばん困るのは、「なんとなく低い気がする」だけで、数字がないことです。記録があると、話が一気に進みます。
測り方の基本
| 項目 | 正しいやり方 |
|---|---|
| いつ | 朝と夜の1日2回。朝は起きて1時間以内・トイレのあと・朝食と薬の前。夜は寝る前 |
| 姿勢 | 椅子に座って背もたれに寄りかかり、足を組まない。1〜2分安静にしてから |
| 腕の高さ | カフ(腕帯)を心臓の高さに。低いと高めに、高いと低めに出ます |
| 服装 | 厚手の服の上から巻かない。腕まくりで締めつけない |
| 回数 | 1回目と2回目で差が出やすいので、2回測って平均を記録します |
| 避けること | 直前の運動・入浴・カフェイン・喫煙・会話 |
立ちくらみを調べたいときの測り方
起立性低血圧を確かめたい場合は、寝た状態と立った状態の両方を測ります。
- 5分ほど横になって安静にし、その状態で測る
- 立ち上がって、1分後・3分後に測る(ふらつくときは無理をせず中止してください)
- 上の血圧が20mmHg以上、下の血圧が10mmHg以上下がっていれば、その旨を診察で伝えます
ひとりで測るのが不安なときは、家族にそばにいてもらうか、医療機関で測ってもらってください。
記入例
| 日付 | 朝(上/下・脈) | 夜(上/下・脈) | 周期何日目 | 症状 |
|---|---|---|---|---|
| 8/1(金) | 92/58・62 | 104/64・70 | 2日目 | 朝、立ちくらみ。生理2日目で腹痛あり |
| 8/2(土) | 98/60・65 | 106/66・68 | 3日目 | とくになし |
| 8/3(日) | 90/56・60 | 102/62・66 | 4日目 | 昼食後に強い眠気 |
生理周期の何日目かを必ず入れてください。これがあるだけで、周期との関係が読み取れます。基礎体温をつけている方は、同じ表に並べると分かりやすくなります。
続かないときの、もっとラクな方法
毎日2回きちんと測って表に書く——これができれば理想ですが、続かなくても構いません。受診に持っていけるだけの情報が残っていれば十分です。
- スクショ方式:血圧計の表示画面をスマホで撮るだけ。日付と時刻は写真の情報に自動で残ります。診察ではその写真を見せればよく、書き写す必要はありません
- アプリのメモ方式:生理管理アプリのメモ欄に「92/58 立ちくらみ」とだけ入れます。周期との対応が自動で並びます
- 週2日だけ方式:毎日でなくても、「調子の悪い日」と「普通の日」がそれぞれ数日ぶんあるほうが、実は比較しやすくなります
- 症状が出た日だけ方式:立ちくらみがあったその場で測る。原因を探すうえでは、いちばん価値のあるデータです
いちばん避けたいのは、「きちんと測れないから、記録そのものをやめてしまう」ことです。週に2〜3回、2週間ぶんあれば、診察では十分に役に立ちます。
何科に行けばいい?検査と治療
低血圧の相談先は、症状によって変わります。迷ったときは内科で構いません。
| 受診先 | 向いている場面 |
|---|---|
| 内科・かかりつけ医 | まずここで十分です。血液検査で貧血・甲状腺まで一度に確かめられます |
| 循環器内科 | 失神したことがある、動悸や胸の痛みを伴う、心電図で指摘されたことがある |
| 婦人科 | 生理の量が多い、生理のときに倒れそうになる、更年期の症状が重なっている |
| 脳神経内科 | 強いめまい、手足のしびれ、ろれつが回りにくいなどを伴う |
| 小児科 | 中学生・高校生で朝起きられない(起立性調節障害の相談) |
受診のときに持っていくもの・伝えること
- 「立ちくらみが続いています。血圧を1週間測ってきました」(記録を見せます)
- 「貧血の検査もあわせてお願いできますか。フェリチンも見ていただけると助かります」
- 「飲んでいる薬はこれです」(お薬手帳、市販薬やサプリメントも含めて)
- 失神したことがあるなら、必ず最初に伝えてください。検査の優先順位が変わります
病院で行われる検査
| 検査 | 何を見るか |
|---|---|
| 血圧測定(寝た状態・立った状態) | 起立性低血圧があるかどうか |
| 血液検査 | 貧血、甲状腺、腎機能、血糖、電解質、必要に応じてホルモン |
| 心電図 | 不整脈がないか |
| 心エコー | 心臓の動きや弁の状態(必要に応じて) |
| ホルター心電図(24時間) | 症状が出たときに不整脈があるか |
| ヘッドアップティルト試験 | 失神をくり返す場合に、専門施設で行われることがあります |
治療について
症状がなければ、治療は行わずに経過を見るのが一般的です。生活面の調整で十分なことも多くあります。
日常生活に支障が出ている場合には、血圧を上げる方向に働く飲み薬(ミドドリン塩酸塩、アメジニウムメチル硫酸塩など)が使われることがあります。ただし、これは症状の程度や背景にある原因をふまえて医師が判断するもので、市販されているものではありません。
二次性低血圧の場合は、血圧そのものではなく原因になっている病気の治療が中心になります。甲状腺の働きが落ちているならその治療を、鉄が足りていないなら鉄の補充を、というかたちです。
費用の目安
| 項目 | 3割負担での目安 |
|---|---|
| 初診(診察のみ) | 1,500〜2,500円 |
| 初診+血液検査 | 3,000〜6,000円 |
| 心電図を追加 | +500〜1,000円程度 |
| 再診 | 1,000〜1,500円 |
| 家庭用血圧計(自費) | 3,000〜10,000円程度(上腕式がおすすめです) |
初回は5,000〜7,000円ほどあれば足りることがほとんどです。
よくある誤解を整理する
低血圧は、日常会話で語られる機会が多いぶん、誤解も多く流通しています。5つ取り上げます。
誤解①「立ちくらみ=貧血」
いちばん多い思い込みです。立ちくらみの多くは血圧側の問題で、鉄剤を飲んでも変わりません。両方あることもあるので、一度に両方調べるのが正解です。詳しくは貧血との違いをご覧ください。
誤解②「低血圧は病気じゃないから、放っておいていい」
症状がなければそのとおりです。けれど、最近になって下がってきた場合は話が別です。甲状腺、副腎、心臓、出血、薬——治療できる原因が背景にあることがあります。「ずっと低い」と「最近低くなった」を分けて考えてください。
誤解③「低血圧は長生きする」
低血圧そのものが寿命を延ばすという根拠が示されているわけではありません。高血圧のリスクの裏返しとして語られてきた面が大きい言葉です。
誤解④「塩分をとれば解決する」
塩分が対策として挙げられることはありますが、高血圧・腎臓・心臓の持病がある方、妊娠中の方は自己判断で増やさないでください。先に試すべきは水分で、こちらはリスクがほとんどありません。
誤解⑤「低血圧だから、高血圧の心配はいらない」
これは40代以降でとくに危険な思い込みです。閉経を境に、女性の血圧は上がりやすくなります。「自分は低血圧だから」と健診の数値を見ない習慣が、いちばんの落とし穴になります。
よくある質問
Q 血圧が100/60だと低いですか?
A.低血圧の目安とされる「上100mmHg未満」のちょうど境目あたりの数値です。ただし、この数字だけで良し悪しは決まりません。立ちくらみやだるさなどの症状がなく、日常生活に支障がなければ、そのままで問題ないことがほとんどです。逆に症状があるなら、数値が基準内でも相談する価値があります。判断は「数字」ではなく「症状」で行ってください。
Q 低血圧だとどんな症状が出ますか?
A.立ちくらみ、めまい、朝起きられない、だるさ、疲れやすさ、動悸、息切れ、食欲不振、胃もたれ、手足の冷え、肩こり、集中できない——といった症状が出ます。脳や全身に届く血液が一時的に減ることで起こるため、症状の範囲が広いのが特徴です。セルフチェックで当てはまる数を数えてみてください。
Q 低血圧はどこからがやばいのでしょうか?
A.数字ではなく症状で判断します。とくに、①失神した ②胸の痛みや強い息苦しさを伴う ③急に下がった ④冷や汗と顔面蒼白がある ⑤けいれんがあった——これらは受診が必要なサインです。意識消失やけいれんを伴うときは救急要請(119)を。また「以前は普通だったのに最近下がってきた」という経過も、体質ではなく原因を探すべきサインです。
Q 血圧が低いときは、その場でどうしたらいいですか?
A.まずしゃがむか横になることが最優先です。がまんして立っていると、転倒によるけがのほうが問題になります。横になれるなら、クッションなどで足を心臓より高くすると頭に血が戻りやすくなります。落ち着いたら水分をとり、起き上がるときは「座る→30秒待つ→立つ」の順で。外出先なら、壁にもたれて座り込むだけでも構いません。
Q 低血圧の人が食べてはいけないものはありますか?
A.一律に禁止すべき食品は、基本的にありません。ただし、アルコール(血管を広げ脱水にもなる)、炭水化物に偏った食事や食べすぎ(食後低血圧を起こしやすい)、朝食抜き(午前中を水分・塩分不足で過ごすことになる)は、症状を出やすくします。禁止ではなく「量とタイミング」の問題として考えてください。
Q 貧血と低血圧は、どうやって見分ければいいですか?
A.自分で見分けるのは難しく、血圧計と血液検査の両方で調べるのが確実です。目安としては、立ち上がった「瞬間」に集中して症状が出るなら血圧側、動いたときの息切れがある・氷が食べたくなる・生理の量が多いなら貧血側が疑われます。ただし両方あることも多いので、受診時に「血圧と貧血、両方を確かめたい」と伝えてください。
Q 妊娠してから血圧が下がりましたが、大丈夫でしょうか?
A.妊娠初期から中期にかけて血圧が下がるのは、赤ちゃんに血液を送るための自然な変化です。妊娠中期ごろに最も低くなり、その後戻っていきます。ただし、つわりで水分がとれていないと脱水が加わって下がりやすくなるので、その場合は産院に連絡してください。また、妊娠20週以降にあおむけで気分が悪くなるときは仰臥位低血圧症候群が考えられ、左を下にして横向きになると楽になります。
Q 生理のたびに倒れそうになります。これは低血圧ですか?
Q 低血圧はよくなっていくものですか?
A.体質的な低血圧の場合、数値そのものを大きく変えることは簡単ではありません。ただし、症状のほうは、水分・立ち上がり方・下半身の筋肉といった生活面の調整でかなり楽になることが期待できます。また、背景に甲状腺の病気や鉄不足があるなら、そちらへの対応で状況が変わります。数値を上げることより、「症状が出ない状態を保つ」をゴールに置くのが現実的です。
Q 家庭用の血圧計は、手首式と上腕式のどちらがいいですか?
A.上腕式をおすすめします。手首式は手軽ですが、腕の高さがずれると数値が変わりやすく、正確に測るのが難しくなります。上腕式は3,000〜10,000円程度で購入できます。測るときは、カフを心臓の高さに合わせ、椅子に座って背もたれに寄りかかり、足を組まずに1〜2分安静にしてから。詳しくは血圧の正しい測り方をご覧ください。
まとめ|「体質だから」で止めないために
低血圧は、「気にしなくていい」と言われることも、「だから朝が弱いんだ」と説明を終わらせられることも多い状態です。けれど、そのどちらの言い方も、確かめるべきことを飛ばしてしまう危険があります。
大事なのは、次の3つを分けて考えることです。症状があるか。ずっとそうなのか、最近そうなったのか。貧血と混ざっていないか。この3つが整理できれば、やることはかなり具体的になります。
- 低血圧に高血圧のような厳密な診断基準はない。目安は上100mmHg未満だが、判断は数値より症状の有無で行う
- 低血圧と貧血はまったく別のもの。「立ちくらみ=貧血」と思い込んで鉄剤を飲んでも、血圧側の問題なら変わらない
- 生理の量が多い女性では両方あることが多い。血圧と血液検査(ヘモグロビン+フェリチン)を一度に確かめるのが近道
- 「どこからがやばい」の答えは数字ではない。失神・胸痛・急な低下・冷や汗・けいれんが受診のサイン
- 「ずっと低い」と「最近低くなった」はまったく違う。後者は甲状腺・副腎・心臓・出血・薬の影響を確かめる
- 若い女性に多い背景は、下半身の筋肉量・体格・食事量・自律神経の調節・女性ホルモンによる血管の広がりやすさ
- 立ち上がり方を「足首を回す→座って30秒→立つ」に変えるだけで、かなり違う
- 生理中に倒れそうになる主因は血管迷走神経反射。前ぶれが来たらすぐしゃがむ。トイレの鍵は先に開けておく
- 妊娠初期〜中期に血圧が下がるのは自然な変化。20週以降のあおむけの不快感は仰臥位低血圧症候群で、左を下にすると楽になる
- 閉経後はむしろ血圧が上がりやすくなる。「自分は低血圧だから」で健診の数値を見ない習慣がいちばん危険
- 「食べてはいけないもの」は基本的にない。禁止ではなく量とタイミングの問題
- 塩分より先に増やすべきは水分。起きてすぐコップ1杯がいちばん効く。塩分は持病がある方・妊娠中は自己判断で増やさない
- ゴールは数値を上げることではなく、症状が出ない状態を保つこと
今日からできることは1つで十分です。枕元に水を置いて、明日の朝、起き上がる前に飲んでみてください。それだけで朝の重さが変わる方は、実際にたくさんいます。そして1週間ぶんの血圧を記録できたら、それを持って受診してください。数字があるだけで、話は驚くほど早く進みます。
参考文献
- 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン」(家庭血圧の測定方法)
- 日本循環器学会「失神の診断・治療ガイドライン」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「血圧」
- 日本医師会「健康ぷらざ|低血圧」
- 日本小児心身医学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン」
- 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 産科編」(妊娠中の循環動態)
- 日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン」
- MSDマニュアル家庭版「低血圧」「起立性低血圧」