「おりものの色が気になる」「下腹部がなんとなく重い」「パートナーから検査を受けてほしいと言われた」——性感染症(性病)について調べはじめたきっかけは、人によってさまざまです。一方で、性感染症は名前を聞いたことはあっても、どんな種類があって、何科で、どう検査すればよいのかはあまり知られていません。さらに、女性は無症状のまま進行しやすい感染症が多く、「症状が出るのを待ってから」では遅いケースも少なくないのが現実です。

性感染症は、決して特別な人だけがかかる病気ではありません。性的接触の経験がある人なら誰でも可能性があり、20〜30代の女性を中心に近年も報告数は増加傾向にあります。一方で、多くは早期に発見できれば抗菌薬で治療できる感染症でもあり、知っているかどうかで未来のライフプランが大きく変わります。妊娠・出産・パートナーシップを大切にしたい女性にとって、性感染症の基礎知識は「自分の体を守るための地図」のようなものだと感じています。

この記事では、産婦人科病院で2,000件以上の分娩に立ち会ってきた助産師の立場から、女性が知っておきたい性病・性感染症の種類を「原因別」「症状別」の両方から整理し、検査・治療・予防までまとめてご紹介します。読み終わるころには、自分の体に何が起きているかをイメージしやすくなり、病院に行くべきかどうかの判断もしやすくなるはずです。

性感染症(STI/STD)とは|性病との違いと最新の感染状況

清潔感のある婦人科クリニックの待合スペース。やわらかい自然光・観葉植物・ベージュのソファ・木製のパンフレットラックが並ぶ落ち着いた雰囲気

まずは「性感染症とは何か」「いわゆる『性病』とどう違うのか」を整理しておきましょう。言葉の定義をそろえておくと、後半の症状や検査の話がぐっと理解しやすくなります。

性感染症(STI)と性病の違い

「性病」と「性感染症」は、ほぼ同じ意味で使われることが多い言葉ですが、医療現場では少しニュアンスが異なります。性感染症(STI: Sexually Transmitted Infection)は、性的接触によって感染する病気の総称で、症状の有無にかかわらず「感染している状態」全般を指します。一方、性病はもともと法律用語で、戦後に施行されていた「性病予防法」で指定されていた4疾患(梅毒・淋病・軟性下疳・鼠径リンパ肉芽腫症)が原型でした。

現在では「性病予防法」は廃止され、性感染症は感染症法のもとで管理されています。日常的には「性病=性感染症」と捉えてかまいませんが、医療機関の検査メニューでは「性感染症検査」「STDチェック」などの表現が使われています。海外では従来の「STD(Sexually Transmitted Disease)」よりも、無症状の状態も含めたSTIという用語が使われるようになってきています。

日本で増加している性感染症の現状

厚生労働省の感染症発生動向調査によると、日本国内では梅毒・淋病・性器ヘルペス・尖圭コンジローマ・性器クラミジアの5疾患が定点把握対象となっており、特に梅毒はここ数年で急増し、2023年には約14,900件と過去最多を更新しました。クラミジアも年間2万件以上の報告があり、性感染症のなかでもっとも患者数が多い感染症のひとつです。

これらは「医療機関で診断・報告された数」であり、無症状で検査を受けていない人を含めると、実際の感染者数はさらに多いと推定されています。性感染症は決して珍しい病気ではなく、現代の日本でも身近に存在する健康課題だと考えておくことが大切です。

女性が性感染症にかかりやすい理由

性感染症は男女どちらにも起こりますが、女性のほうが感染しやすく、症状に気づきにくいという生物学的な特徴があります。理由は主に3つあります。

  • 粘膜の面積が広い:腟・子宮頸管・尿道など、感染源と接触する粘膜の面積が男性より広いため、1回の性的接触で感染が成立しやすい
  • 初期症状が乏しい:クラミジア・淋病・トリコモナスなど、女性の7〜8割が無症状とされる感染症が多い
  • 合併症のリスクが高い:子宮・卵管・骨盤内など内部に炎症が広がりやすく、不妊症・子宮外妊娠・骨盤腹膜炎などの合併症につながりやすい

つまり女性にとって性感染症は、「自分で気づくのが難しい」「気づいたときには進行している」リスクの高い病気です。だからこそ、症状の有無にかかわらず定期検査正しい知識がとても重要になります。

まず押さえたい基本 ・「性病」と「性感染症(STI)」はほぼ同義。最近は無症状も含めて STI と呼ぶことが多い
・日本では梅毒・クラミジア・淋病・ヘルペス・コンジローマが定点把握される代表的疾患
・梅毒は2023年に約14,900件で過去最多を更新するなど近年も増加傾向
・女性は粘膜の構造上、感染しやすく無症状が多く、合併症のリスクも高い

女性がかかる主な性病・性感染症 一覧表

まず全体像を一覧で押さえておきましょう。代表的な性感染症を「原因」「主な症状」「無症状の多さ」「治療の見通し」で整理した早見表です。気になる病気については、リンク先の詳しい解説記事をあわせて読むのがおすすめです。

主要な性感染症 比較表

感染症原因主な症状(女性)無症状の多さ治療の見通し
クラミジア細菌(クラミジア・トラコマチス)おりもの増加・軽い下腹部痛・不正出血★★★(7〜8割)抗菌薬で完治
淋病(淋菌感染症)細菌(淋菌)黄〜緑色のおりもの・下腹部痛・不正出血★★★(約8割)セフトリアキソン筋注で完治
梅毒細菌(梅毒トレポネーマ)性器のしこり・全身の発疹・リンパ節腫脹★★(無痛で気づきにくい)ペニシリンで完治
細菌性膣症常在菌のバランス異常魚臭いおりもの・灰白色のおりもの★★抗菌薬・膣錠で改善
性器ヘルペスウイルス(HSV-1/2)外陰部の水ぶくれ・強い痛み・排尿痛★(症状が出やすい)抗ウイルス薬で症状コントロール(再発あり)
尖圭コンジローマ(HPV)ウイルス(HPV低リスク型)外陰部に鶏冠状のいぼ★★(無症状型もあり)切除・凍結・塗布薬で除去(再発あり)
子宮頸がん原因HPV感染ウイルス(HPV高リスク型)無症状のまま進行★★★(ほぼ無症状)定期検診と早期治療で予防可能
トリコモナス膣炎原虫(膣トリコモナス)泡状の悪臭おりもの・強いかゆみ★★(症状が比較的出やすい)メトロニダゾールで完治
膣カンジダ症真菌(カンジダ)強いかゆみ・白いポロポロしたおりもの★(症状が明確)抗真菌薬で完治・再発あり
HIV/エイズウイルス(HIV)感染初期はインフルエンザ様症状・以後無症状★★★抗HIV治療で慢性疾患として管理

※「無症状の多さ」は星が多いほど無症状のまま進行しやすい感染症です。星が少ない感染症は症状で気づきやすい一方、星が多い感染症ほど検査の重要性が増します。

性感染症は原因別に4つに大別できる

性感染症は数十種類ありますが、原因となる微生物の種類で大きく4つに分けて理解するとシンプルです。

  • 細菌が原因:クラミジア・淋病・梅毒・細菌性膣症 など。多くは抗菌薬(抗生物質)で完治する
  • ウイルスが原因:性器ヘルペス・HPV感染症・HIV・B型/C型肝炎 など。体内からウイルスを完全には排除できない場合が多く、症状をコントロールしながら付き合う形になる
  • 原虫が原因:トリコモナス膣炎 など。専用の薬で完治可能
  • 真菌が原因:膣カンジダ症 など。抗真菌薬で改善する一方、体調変化で再発しやすい

「治る性感染症」と「一生付き合う性感染症」があるという視点を持つと、検査・治療・予防のどこに力を入れるべきかが見えやすくなります。次の項目から、原因別に詳しく見ていきましょう。

細菌が原因の性感染症|クラミジア・淋病・梅毒・細菌性膣症

細菌が原因の性感染症は、適切な抗菌薬で治療すれば完治が見込める一方、放置すると合併症や不妊につながりやすいグループです。代表的な4疾患を順に見ていきましょう。

クラミジア感染症|女性に最も多い性感染症

クラミジア・トラコマチスという細菌が原因で、日本でもっとも報告数の多い性感染症です。年間2万件以上が報告されており、20代の女性を中心に広がっています。女性の約7〜8割が無症状で経過し、気づかないうちに卵管に炎症が広がってしまうケースが少なくありません。

症状が出る場合は、おりものの量がやや増える・性交後に出血する・下腹部に違和感がある、といった軽いサインから始まります。のど(咽頭)に感染することもあり、「治りにくい風邪のような違和感」が続く場合に発覚することもあります。治療はアジスロマイシンなどの抗菌薬を1回または1週間内服するだけで完治しますが、放置すると卵管炎・骨盤腹膜炎・不妊症・子宮外妊娠のリスクが高まるため、軽視できない感染症です。詳しくは クラミジア感染症の症状と治療 の記事をご覧ください。

淋病(淋菌感染症)|2〜7日で症状が出る急性感染症

淋菌(Neisseria gonorrhoeae)が原因の性感染症で、男性は感染後2〜7日で強い排尿痛や黄色い膿などの症状が出ますが、女性は約8割が無症状です。症状が出る場合は、黄色〜緑がかった膿のようなおりもの・下腹部痛・不正出血などが現れます。

クラミジアと同時感染することが多く(淋菌感染者の20〜30%がクラミジア重複感染)、検査・治療は両方セットで行うのが基本です。治療はセフトリアキソンという抗菌薬の筋肉注射が標準で、1回の投与で多くの場合完治します。ただし近年、世界的に薬剤耐性淋菌の増加が問題視されており、治療効果や再検査の重要性も高まっています。詳しくは 淋病(淋菌感染症)の女性向け解説 をご覧ください。

梅毒|近年急増している全身性の感染症

梅毒トレポネーマという細菌が原因で、2010年代以降に急増している性感染症です。2023年には全国で約14,900件の報告があり、20〜30代女性の感染も増加しています。梅毒の特徴は、進行に応じて症状が変化し、無症状期間(潜伏梅毒)も長いこと。

第1期(感染後3週間〜)には性器に痛みのないしこり(初期硬結・硬性下疳)ができますが、痛くないため気づきにくい傾向があります。第2期(感染後3か月〜)には全身に赤い発疹(バラ疹)が現れ、手のひらや足の裏にも出ることがあります。放置すると数年〜数十年後に心臓・脳に重篤な障害を起こすほか、妊娠中の感染は先天梅毒として赤ちゃんに重い影響を与えます。治療はペニシリン系抗菌薬で、早期発見であれば完治します。詳しくは 梅毒の症状ガイド をご覧ください。

細菌性膣症|常在菌バランスの乱れによる感染症

性的接触で感染するというよりも、腟内の常在菌(乳酸桿菌=デーデルライン桿菌)のバランスが崩れて起こる感染症です。性的接触のある女性で頻度が高くなる傾向はありますが、純粋な性感染症とは少し性質が異なります。

典型的な症状は魚が腐ったようなにおいのする、灰白色のサラサラしたおりものです。かゆみや痛みはあまり伴わないことが多く、本人が気にして受診するパターンが中心です。妊娠中に細菌性膣症があると早産や流産のリスクが高まることがわかっており、妊婦健診でも重視されています。治療はメトロニダゾールやクリンダマイシンの内服または膣錠で、比較的短期間で改善します。詳しくは 細菌性膣症のおりものとケア をご覧ください。

細菌性STIに共通する3つのポイント ・多くは抗菌薬で完治するが、放置すると不妊・合併症のリスクが上がる
・女性は無症状が多く、検査で初めて発覚するケースが大半
・クラミジア+淋病、梅毒など複数感染の可能性があるため、同時検査が基本

ウイルスが原因の性感染症|ヘルペス・HPV・HIV・肝炎

木目のデスクの俯瞰。空白のノート・万年筆・水のグラス・観葉植物・小さなドライフラワーが並び、整理された静かな雰囲気

ウイルスが原因の性感染症は、体内からウイルスを完全に排除することが難しいのが特徴です。とはいえ、症状をコントロールする治療法は確立しており、適切に管理することで日常生活への影響を抑えられます。

性器ヘルペス|痛みを伴う水ぶくれの再発感染症

単純ヘルペスウイルス(HSV-1またはHSV-2)が原因の感染症で、外陰部・腟・子宮頸部などに強い痛みを伴う水ぶくれや潰瘍ができます。初感染では発熱・リンパ節の腫れ・歩けないほどの痛みを伴うこともある一方、再発時には症状が軽くなる傾向があります。

性器ヘルペスは、一度感染すると神経節にウイルスが潜伏し、ストレス・疲労・生理周期などをきっかけに再発を繰り返すのが特徴です。治療はアシクロビル・バラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬で、症状の期間を短くし、再発頻度を下げるための内服療法(再発抑制療法)も選択できます。妊娠中の初感染は新生児ヘルペスの原因になり得るため、妊婦は特に注意が必要です。詳しくは 性器ヘルペスの症状と治療 をご覧ください。

尖圭コンジローマ(HPV低リスク型)|外陰部のいぼ

ヒトパピローマウイルス(HPV)の低リスク型(主に6型・11型)が原因で、外陰部・腟・肛門周囲にカリフラワー状や鶏冠状のいぼができる感染症です。痛みやかゆみはほとんどなく、入浴や下着の着脱で気づくことが多くなります。

治療はいぼの切除・凍結療法(液体窒素)・電気焼灼・5%イミキモド外用薬の塗布などで除去しますが、ウイルス自体は体内に残ることがあり、再発する場合もあります。HPVワクチン(9価ワクチン・シルガード®9)は6型・11型もカバーしており、予防効果が期待できます。詳しくは 尖圭コンジローマの女性向け解説 をご覧ください。

子宮頸がんに関わるHPV高リスク型|無症状で進行

HPVには100種類以上の型があり、そのうち16型・18型・31型・33型・45型・52型・58型などの「高リスク型」は子宮頸がんの原因となります。通常、HPVに感染しても多くの場合は免疫力で自然排除されますが、一部の人で持続感染すると、数年〜十数年かけて子宮頸部の細胞ががん化することがあります。

子宮頸がんに関わるHPV感染はほぼ無症状で、検査でしか見つけられません。日本では20歳から2年に1回、自治体の子宮頸がん検診(細胞診)が公費で受けられます。HPVワクチンは小学校6年〜高校1年相当の女性に定期接種として実施されており、キャッチアップ接種(過去に機会を逃した人向け)も2025年3月まで延長されました(厚生労働省)。詳しくは 子宮頸がんの基礎知識子宮頸がん検診ガイドHPVワクチン解説 をあわせてご覧ください。

HIV/エイズ|慢性疾患として管理できる時代

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した状態で、進行すると後天性免疫不全症候群(AIDS:エイズ)を発症します。日本では年間約1,000件前後の新規HIV感染者が報告されています。感染初期(2〜4週間後)にはインフルエンザに似た発熱・倦怠感・リンパ節腫脹などが出ることがありますが、その後数年〜10年以上はほぼ無症状で経過します。

かつては「不治の病」と恐れられた病気ですが、現在は抗HIV治療(ART)の進歩により、慢性疾患として日常生活を送れる病気になっています。早期に治療を開始すれば、血中ウイルス量を検出限界以下に抑えられ、性的接触を介してパートナーに感染させるリスクもほぼゼロに(U=U:Undetectable = Untransmittable)。HIV検査は全国の保健所で無料・匿名で受けられます。

B型肝炎・C型肝炎|性的接触でも感染しうる肝臓のウイルス

B型肝炎ウイルス(HBV)・C型肝炎ウイルス(HCV)は、血液や体液を介して感染するウイルスで、性的接触でも感染することがあります。B型肝炎は急性肝炎を起こすことが多く、一部は慢性化して肝硬変・肝がんに進む可能性があります。B型肝炎ワクチンは2016年から定期接種となり、予防可能な感染症です。

C型肝炎は性的接触での感染リスクはB型より低いとされていますが、ゼロではありません。近年は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場により、ほぼ100%の患者で完治が見込めるようになりました。気になる場合は内科や肝臓内科で血液検査を受けましょう。

原虫・真菌が原因の感染症|トリコモナス・カンジダ

細菌・ウイルスのほかにも、原虫(単細胞の寄生体)や真菌(カビの仲間)が原因となる感染症があります。症状が比較的わかりやすいのが特徴で、治療薬も確立されています。

トリコモナス膣炎|泡状のおりものと強いかゆみ

膣トリコモナス原虫が原因の感染症で、性的接触のほか、まれにタオル・浴槽の共用などからも感染する可能性があります。典型的な症状は泡状の黄緑色のおりもの・強いかゆみ・腟の灼熱感・悪臭です。男性は無症状が多く、女性のほうが症状で気づきやすい傾向があります。

治療はメトロニダゾールやチニダゾールの内服・膣錠で完治しますが、パートナーも必ず同時治療を受ける必要があります。治療中はアルコール摂取を控えるよう指導されることが多く、医師の指示にしっかり従いましょう。詳しくは トリコモナス膣炎の症状とケア をご覧ください。

膣カンジダ症|女性の3人に1人が経験する身近な感染症

カンジダ・アルビカンスという真菌(カビ)が原因の感染症で、女性の3人に1人が一度は経験するといわれるほど身近な病気です。腟内の常在菌バランスが崩れたとき(抗生物質の使用後・妊娠中・ストレス・免疫力低下時など)に増殖します。性感染症としての側面より、体調変化で誰でもなり得る感染症として認識しておくとよいでしょう。

典型的な症状は強いかゆみ・酒粕やヨーグルトのような白いポロポロしたおりもの・外陰部の発赤です。治療は抗真菌薬の腟錠やクリームで、数日〜1週間で改善します。再発を繰り返すタイプの方は、生活習慣の見直しやパートナーへの相談も合わせて行うと安心です。詳しくは カンジダ膣炎の症状と対処法 をご覧ください。

カンジダは「性感染症」というより「常在菌バランスの乱れ」 ・カンジダは本来腟内に少量存在する常在菌の一種
・性的接触が原因とは限らず、抗生物質・妊娠・ストレスなどでも発症する
・パートナー間で「うつし合う」より、それぞれの体調管理が大切

その他注意したい感染症

頻度は低いものの、知っておくと安心な性感染症もいくつかあります。気になる症状があるときには候補に挙げておきましょう。

マイコプラズマ・ウレアプラズマ感染症

マイコプラズマ・ジェニタリウムやウレアプラズマ・ウレアリチカムといった小さな細菌による感染症で、近年注目されるようになってきました。クラミジアに似た症状(軽いおりものの変化・骨盤痛など)を起こすことがあり、原因不明の尿道炎・子宮頸管炎の背景に潜んでいる場合があります。検査・治療できる医療機関は限られていますが、性感染症内科などで対応可能です。

ケジラミ症

ケジラミという小さな寄生虫が陰毛に住みつき、強いかゆみを起こす感染症です。性的接触のほか、寝具・タオルの共有でもうつります。専用のシャンプー(フェノトリンなど)や陰毛の剃毛で対処でき、衣類や寝具の洗濯・乾燥で再感染を防げます。

赤痢アメーバ症

本来は熱帯地域の感染症ですが、近年は日本でも報告が増えています。経口性交(オーラル・アナルセックス)を介して感染し、下痢・腹痛・血便などの腸炎症状を起こします。気になる症状がある場合は感染症内科で相談しましょう。

A型肝炎・赤痢菌・サルモネラ感染症

これらは本来は食中毒の原因菌ですが、口腔肛門接触などの性的接触でも感染することがあります。下痢・嘔吐・発熱などが続く場合、性的接触の情報も医師に伝えると診断がスムーズになることがあります。

症状別チェックリスト|あなたに当てはまるのはどれ?

「自分の症状はどの性感染症に近いのか」を症状からたどれるよう、女性によく出るサインを整理しました。あくまで目安なので、当てはまるものがあれば自己判断せず婦人科で検査を受けるのがいちばん確実です。

おりものの異常で気づくケース

  • 黄〜緑色の膿のようなおりもの:淋病・クラミジア・トリコモナスの可能性
  • 白くポロポロしたおりもの+強いかゆみ:膣カンジダ症の典型
  • 魚臭い・灰白色のサラサラしたおりもの:細菌性膣症
  • 泡状の悪臭おりもの:トリコモナス膣炎
  • 透明〜白っぽいおりものが少し増えた:クラミジア・淋病の初期サインの可能性

おりものの色や状態は性感染症の有力な手がかりです。詳しい違いは おりものの色完全ガイド でチェックしてみてください。

外陰部のかゆみ・痛み・できものがある場合

  • 強いかゆみ+発赤:膣カンジダ症・トリコモナス・接触性皮膚炎の可能性
  • 痛みを伴う水ぶくれ・潰瘍:性器ヘルペス
  • 痛くないしこり(硬いコリコリ):梅毒の第1期(初期硬結)
  • カリフラワー状・鶏冠状のいぼ:尖圭コンジローマ
  • 体毛のあたりのかゆみ・小さな黒い点:ケジラミ症

排尿時痛・頻尿・下腹部痛がある場合

  • 排尿時痛+頻尿:膀胱炎・淋病・クラミジア・ヘルペスの可能性
  • 下腹部の重い痛み+発熱:骨盤腹膜炎(クラミジア・淋病の合併症)
  • 性交後出血+下腹部痛:子宮頸管炎(クラミジア・淋病・トリコモナス)

下腹部痛+発熱は重症化のサインです。生理ではないのに痛みが続く場合は早めに婦人科を受診しましょう。

全身症状や皮膚の発疹がある場合

  • 手のひら・足の裏を含む全身の赤い発疹:梅毒第2期(バラ疹)の可能性が高い
  • 発熱・倦怠感・リンパ節腫脹:性器ヘルペス初感染・HIV初感染・梅毒など
  • 長引く下痢・嘔吐:赤痢アメーバ・A型肝炎の可能性

「無症状」でも検査すべきタイミング

性感染症のなかには、無症状で進行するものが多くあります。次のような状況に当てはまる場合は、症状がなくても検査を検討しましょう。

  • 新しいパートナーができたとき・お互いの安心のために
  • パートナーから性感染症の告知を受けたとき
  • コンドームなしの性的接触があったとき
  • 妊娠を考えはじめたとき(プレコンセプションケア)
  • 性交時の出血・性交痛が続くとき
  • 過去1年以内に複数のパートナーがいたとき
自己判断は危険なケース ・市販のかゆみ止めや膣洗浄剤で対症療法をしても、根本治療にはなりません
・性感染症のなかには、自然治癒しないものや進行するものがあります
・「ネットで調べた知識でセルフ判断」よりも、婦人科または性感染症内科の医師に相談するのがもっとも安全です

性感染症の検査方法|病院・自宅キット・保健所

窓辺のデスクに置かれた検査キットを連想させる白いボックス・透明な小瓶・空白のメモ用紙。やわらかな自然光と観葉植物が穏やかな印象を与えるシーン

性感染症の検査は、症状の有無にかかわらず受けられます。検査方法は大きく3パターンに分かれるので、自分に合った方法を選びましょう。

婦人科・性感染症内科での検査

もっとも一般的なのが医療機関での検査です。問診のあと、症状に応じて内診・腟分泌物採取・尿検査・血液検査・のどぬぐい検査などを組み合わせて実施します。費用は自費診療の場合、1疾患あたり3,000〜6,000円程度が目安です。症状があれば保険適用となり、3割負担で済むケースが多くなります。

メリットは、異常があった場合にそのまま治療・処方につなげられること。デメリットは、来院・問診・内診への心理的ハードルを感じる方もいる点です。「症状があるけどどこに行ったらいいかわからない」という場合は、婦人科または性感染症内科を選ぶとよいでしょう。

自宅でできる検査キット

「人に会わずに検査したい」「忙しくて受診する時間が取れない」という方には、郵送型の自宅検査キットがあります。クラミジア・淋病・HIV・梅毒・カンジダなどの主要検査をセットで申し込めるサービスが複数あり、自分で採取した検体を返送すると、数日〜1週間で結果がWEBで確認できます。

費用は1〜2疾患のセットで5,000円前後、複数疾患のフルセットで15,000〜25,000円程度が相場です。陽性だった場合は必ず医療機関を受診し、追加の確認検査と治療を受ける必要があります。検査キットはあくまで「気軽な入口」と捉え、判断は医師に委ねるのが安全です。

保健所での無料・匿名検査

多くの自治体の保健所では、HIV・梅毒・クラミジア・淋病などの検査を無料・匿名で受けられます。実施日・予約方法は自治体ごとに異なるため、お住まいの地域の保健所のウェブサイトで確認しましょう。経済的負担なく検査できるのが大きな利点ですが、即日結果が出ないケースや、対象疾患が限られているケースがあります。

検査費用と所要日数の目安

主要な検査の費用相場と所要日数をまとめます。

検査方法費用目安結果が出るまで特徴
婦人科(自費)3,000〜10,000円/疾患1〜7日異常があれば即治療可能
婦人科(保険)1,000〜3,000円/疾患1〜7日症状がある場合に保険適用
自宅検査キット5,000〜25,000円3〜7日匿名・郵送・自己採取
保健所無料当日〜1週間匿名・対象疾患は限定的

性感染症の治療と完治までの流れ

性感染症は、原因となる微生物の種類によって治療法と「完治」の意味合いが変わります。それぞれの治療の見通しを知っておきましょう。

抗菌薬・抗真菌薬で完治するグループ

細菌や真菌が原因の性感染症の多くは、適切な薬で完治します。代表的な治療内容を整理します。

  • クラミジア:アジスロマイシン1回内服、またはドキシサイクリン1週間内服
  • 淋病:セフトリアキソン筋肉注射1回
  • 梅毒:アモキシシリン内服4〜12週間、またはペニシリン筋注(持続性ペニシリン)
  • 細菌性膣症:メトロニダゾールやクリンダマイシンの内服・膣錠
  • トリコモナス膣炎:メトロニダゾール内服・膣錠
  • 膣カンジダ症:抗真菌薬の腟錠・クリーム(フルコナゾール内服など)

治療後は治癒判定検査を受けるのが基本です。とくにクラミジアと淋病は、治療終了から3〜4週間後に再検査をすることで「完治」が確認できます。

ウイルス性感染症は「コントロール」する治療

ウイルスが原因の感染症は、完全に体内から排除することが難しい場合が多く、症状をコントロールしながら付き合っていく治療になります。

  • 性器ヘルペス:アシクロビル・バラシクロビルなどの抗ウイルス薬で症状期間を短縮。再発が多い場合は再発抑制療法(毎日内服)も選択可能
  • HPV(尖圭コンジローマ):いぼを切除・凍結・電気焼灼などで除去。ウイルス自体は体内に残ることがあり、再発する場合あり
  • HPV(高リスク型):感染そのものを治療する薬はない。前がん病変が見つかった場合は円錐切除術などで治療
  • HIV:抗HIV薬(ART)の毎日内服で、慢性疾患として管理。早期治療開始で日常生活はほぼ普通に
  • B型肝炎:核酸アナログ薬で慢性化の進行抑制
  • C型肝炎:DAA(直接作用型抗ウイルス薬)で多くの患者で完治可能

パートナーも同時治療が必要な理由

性感染症の治療で見落とされがちなのが、パートナーの同時治療です。自分だけ治療しても、無症状のパートナーから再感染(「ピンポン感染」)してしまえば意味がありません。これはクラミジア・淋病・トリコモナスなど、ほぼすべての性感染症に共通する原則です。

「パートナーに伝えるのがつらい」と感じる方は少なくありませんが、医療機関では伝え方のサポートやパートナー通知のアドバイスも行っています。「言いにくいから治療しない」が一番リスクの高い選択です。

性感染症を予防するためにできること

性感染症は完全にゼロにはできませんが、リスクを大きく下げる方法はいくつもあります。自分とパートナーの安心のために、できることから取り入れていきましょう。

コンドームの正しい使用

コンドームは、性感染症予防のもっとも基本的な手段です。性的接触の最初から最後まで装着することで、多くの感染症のリスクを大きく下げられます。ただし、コンドームでカバーできない部分(陰嚢・外陰部の皮膚など)からの感染(梅毒・ヘルペス・HPVなど)はゼロにはできない点も理解しておきましょう。詳しい正しい使い方は コンドームの正しい使い方ガイド をご覧ください。

HPVワクチンの接種

HPV感染による子宮頸がん・尖圭コンジローマの予防には、HPVワクチンがもっとも効果的です。日本では9価HPVワクチン(シルガード®9)が定期接種に組み込まれており、小学校6年〜高校1年相当の女性は公費で無料接種できます。さらに、過去に接種機会を逃した平成9〜18年度生まれの方を対象とする「キャッチアップ接種」も実施されています。詳しくは HPVワクチンの効果と安全性 をご覧ください。

定期検診の習慣化

性感染症の多くは無症状で進行するため、定期検診が早期発見のカギになります。とくに次の検査は、女性ならどなたにもおすすめできるものです。

  • 子宮頸がん検診:20歳から2年に1回、自治体の検診で受診(公費)
  • 性感染症スクリーニング:新しいパートナーができたとき、年に1回など
  • 妊娠を考えはじめたタイミングでのプレコンセプションケア検査

パートナーとのコミュニケーション

性感染症の予防でいちばん難しいのが、パートナーとオープンに話すことです。「検査受けに行こう」「お互いに最近の検査結果を共有しよう」と気軽に話せる関係性が、長期的にはお互いの健康を守ります。性感染症の検査は「相手を疑う行為」ではなく、「お互いを大切にする選択」だと捉え直してみてください。

性交後すぐに気になる症状が出たら

性的接触のあと、1週間〜数か月の間に異変を感じたら、早めに婦人科を受診しましょう。淋病は2〜7日、クラミジアは1〜3週間、梅毒は3週間〜3か月、HIVは2〜4週間など、感染症ごとに潜伏期間が違います。すぐに症状が出ない感染症もあるため、「しばらく様子を見る」より「気になったら検査」のほうが安心です。

よくある質問

Q 「性病」と「性感染症」は同じ意味ですか?

A.日常的にはほぼ同じ意味で使われています。医療現場では、症状の有無を問わない感染状態を含めて性感染症(STI)と呼ぶことが増えてきました。「性病」は古い性病予防法に由来する言葉ですが、検査メニュー名などでは現在も使われています。

Q 症状がなくても性感染症にかかっていることはありますか?

A.はい、十分あり得ます。クラミジアや淋病では女性の約7〜8割が無症状、HIVも感染後数年間はほぼ無症状で経過します。「症状がない=感染していない」とは判断できないため、リスクのある性的接触があったら検査が安全です。

Q お風呂や温泉で性病はうつりますか?

A.淋菌・クラミジア・HIVなど多くの性感染症は、お風呂・温泉・プール・トイレの便座などでうつる可能性は極めて低いとされています。トリコモナスやケジラミは理論上わずかな可能性が指摘されていますが、日常生活で過剰に心配する必要はありません。基本は性的接触での感染です。

Q キスでもうつる性感染症はありますか?

A.口腔ヘルペス(HSV-1)はキスでうつります。また、口腔内に病変がある場合の梅毒や、一部のウイルス性感染症がディープキスを介して感染する可能性も指摘されています。HIV・クラミジア・淋病が軽いキスだけで感染するリスクは非常に低いと考えられています。

Q 妊娠中に性感染症がわかった場合、赤ちゃんに影響しますか?

A.感染症の種類により異なります。梅毒・性器ヘルペス(初感染)・HIV・クラミジア・淋病などは、母子感染で赤ちゃんに影響を与える可能性があります。妊婦健診では多くの感染症が検査項目に含まれており、妊娠初期に発見して治療すれば母子感染を防げるケースがほとんどです。陽性がわかっても焦らず、主治医と治療計画を立てましょう。

Q 性病検査は生理中でも受けられますか?

A.血液検査(梅毒・HIV・B型肝炎など)は生理中でも問題なく受けられます。一方、腟分泌物の検査(クラミジア・淋病・トリコモナス・カンジダなど)は生理の出血があると正確な結果が出にくいため、出血が落ち着いてから受けるのが一般的です。事前に医療機関に確認しておくと安心です。

Q 複数の性感染症に同時にかかることはありますか?

A.あります。とくにクラミジアと淋病は20〜30%で同時感染するため、検査でも両方セットで調べるのが基本です。HIVに感染している人は他の性感染症を併発していることが多く、複数の感染症を同時に検査するスクリーニング検査が推奨されています。

まとめ|「自分は大丈夫」を疑える知識を持つ

性感染症は、特別な人だけがかかる病気ではありません。性的接触の経験がある女性なら誰でも可能性があり、しかも女性は無症状で進行しやすいという生物学的な事情があります。一方で、正しい知識を持ち、必要な検査と予防を続けていれば、ほとんどの性感染症は早期発見・早期治療が可能です。

「症状がないから大丈夫」「パートナーが大丈夫と言っているから大丈夫」と思い込まずに、ライフイベントの節目(新しいパートナー・妊活開始・引っ越しなど)に合わせて、自分の体の状態をニュートラルにチェックする習慣を持つこと。それが、未来の自分を守るいちばん優しい行動だと感じています。

個別の性感染症についてもっと詳しく知りたいときは、本記事の各セクションからリンクしている個別解説記事をご覧ください。気になる症状があるときは、ためらわず婦人科または性感染症内科で相談してくださいね。

この記事のポイントまとめ
  • 性感染症は原因によって細菌・ウイルス・原虫・真菌の4グループに分けられる
  • クラミジア・淋病・梅毒・細菌性膣症などの細菌性は抗菌薬で完治可能
  • 性器ヘルペス・HPV・HIVなどのウイルス性は症状をコントロールする治療になる
  • 女性は約7〜8割が無症状で進行するため、症状の有無にかかわらず定期検査を
  • クラミジアと淋病は20〜30%で重複感染するため、必ず同時に検査・治療する
  • コンドーム・HPVワクチン・定期検診・パートナーとの対話で予防効果が高まる

この記事を書いた人

白石まい(助産師・フェムテックエキスパート)

産婦人科病院で13年間、助産師として延べ2,000件以上の分娩に立ち会う。生理・妊活・更年期など、女性のライフステージに寄り添った健康相談を得意とする。現在はフリーランス助産師として活動しながら、フェムテックエキスパートとして「女性が自分の体をもっと好きになれる社会」を目指してfemnoteで情報を発信中。

参考文献

  • 厚生労働省「性感染症報告数(感染症発生動向調査)」
  • 国立感染症研究所「性感染症の流行状況」
  • 日本性感染症学会「性感染症 診断・治療ガイドライン2020」
  • 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2023」
  • 厚生労働省「ヒトパピローマウイルス感染症 ―子宮頸がんとHPVワクチン―」
  • WHO(世界保健機関)「Sexually transmitted infections (STIs) Fact sheet」