トイレに立ったとき、下着が濡れていた。量はそれほどでもなく、その後は出ていない気もする。尿もれだったのか、おりものが増えただけなのか、それとも破水なのか——臨月に入ってからこの検索をする方はとても多く、そして多くの方が「たぶん尿もれだろう」と自分で結論を出して、連絡をためらいます。
破水のやっかいなところは、ドラマで見るような「バシャッ」とはかぎらないことです。卵膜の破れた場所によっては、ちょろちょろと少量ずつしか出ず、しかも一度止まったように感じます。これを高位破水(こういはすい)といい、尿もれやおりものと区別がつきにくいまま時間が過ぎてしまうことがあります。
この記事では、破水で体に何が起きているのか、尿もれ・おりものとどこで見分けるのか、高位破水がなぜ気づかれにくいのか、破水してから出産までの流れ、そして気づかないまま放置するとどうなるのかまでを順に整理します。いま濡れていて判断に迷っている方は、この先を読まずにいますぐこれだけへ進んでください。尿もれとの違いだけ知りたい方は5つの視点、少量で止まった方は高位破水からどうぞ。
【急いでいる方へ】破水かもしれないと思ったら、いますぐこれだけ
判断を自分でつけようとしなくて大丈夫です。「破水かどうか分からない」というのは、産院がいちばん慣れている電話の内容です。順番だけ確認してください。
- その場で動きを止めて座る(または横になる)。立ったまま歩き回らない
- 清潔なナプキンを当てる。夜用ナプキンか産褥パッド。タンポン・月経カップは絶対に使わない
- 色を見る。透明〜薄い黄色か、緑・茶褐色・赤みが強いか。濡れた下着やナプキンは捨てずに持っていく
- 産院に電話する。「破水かもしれません」「何週何日です」「陣痛はある/ない」を伝える
- タクシーか自家用車で向かう。座席にバスタオルかゴミ袋を敷く
入浴・シャワー・温水洗浄便座の使用はしないでください。卵膜が破れた状態では、膣から子宮へ細菌が入りやすくなっています。
- 破水と同時に強い出血がある
- 破水後に激しい腹痛が続く・お腹が板のように硬い
- 膣から何か出てきた感じがする(へその緒が出てくる「臍帯脱出」の可能性)
- 妊娠37週より前で、移動手段がすぐに確保できない
これ以外の破水では、救急車は原則として必要ありません。まず産院に電話し、その指示に従ってください。
電話で聞かれること(先に見ておくと落ち着いて話せます)
「破水かどうか自分でも分からないのに、何を話せばいいのか」と不安になる方が多いので、実際に聞かれることを先に並べておきます。全部に答えられなくて構いません。分からないところは「分かりません」で大丈夫です。
| 聞かれること | 答え方の例 |
|---|---|
| 今何週何日か | 「36週3日です」。母子健康手帳を手元に |
| いつ濡れたか | 「30分ほど前に、トイレに立ったときです」 |
| どれくらいの量か | 「下着が湿る程度」「ナプキン1枚がぐっしょり」など、手ざわりで構いません |
| いまも出ているか | 「止まった気がします」「立つとまた出ます」 |
| 色・におい | 「透明でした」「少し黄色っぽいです」。緑・茶色なら必ず伝える |
| お腹の張りや痛みはあるか | 「張りはありません」「不規則に張っています」 |
| 出血はあるか | 「少しピンク色のものが混じっています」 |
| 胎動はあるか | 「さっき動きました」。分からなければそのまま伝える |
| 来院の手段・所要時間 | 「夫の車で30分ほどです」 |
最初のひと言は「◯◯です。妊娠36週で、破水かもしれません」で十分です。そのあとは向こうが順番に聞いてくれます。
ここから先は、落ち着いてから読んでいただいて構いません。破水とは何か、なぜ見分けにくいのか、このあと何が起きるのかを順に説明します。
破水とは?卵膜が破れて羊水が出ている状態
出ているのは尿でもおりものでもなく「羊水」
お腹の赤ちゃんは、卵膜(らんまく)という薄い袋に包まれ、その中を満たす羊水(ようすい)に浮かんだ状態で育っています。羊水は赤ちゃんを衝撃から守り、体温を保ち、肺や手足が育つための空間をつくっています。
破水とは、この卵膜が破れて、羊水が膣から外に出てきている状態のことです。医学用語では破水(はすい)、英語では rupture of membranes といいます。つまり破水かどうかは「どれだけ出たか」では決まりません。卵膜が破れているかどうかが本質です。少量でも破水は破水で、自然にふさがることは基本的にありません。
破水は「水がたくさん出ること」ではなく、「袋が破れていること」です。量が少なかった・すぐ止まったという理由で破水を否定することはできません。
羊水は一度出ても、また作られ続けている
「羊水が出てしまったら、赤ちゃんは大丈夫なのか」と不安になる方が多いのですが、羊水は妊娠後期には主に赤ちゃんの尿から作られており、出ていくそばから新しく作られ続けています。ですから破水した直後に羊水がなくなるわけではありません。
問題は量そのものよりも、外と子宮の中がつながってしまったことです。卵膜は赤ちゃんを細菌から隔てる壁でもあるため、破れた時点から子宮内感染(絨毛膜羊膜炎:じゅうもうまくようまくえん)のリスクが時間とともに上がっていきます。破水したら陣痛がなくても入院になるのは、このためです。
破水する人はどれくらいいるのか
多くのお産では、陣痛が進んで子宮口がかなり開いてから破水します。一方で陣痛が始まる前に破水する「前期破水」は、全妊娠のおよそ1割前後にみられると報告されています。つまり、「陣痛が来たら病院へ」と思っていたら先に破水したというのは、けっして珍しい順番ではありません。
お産が近いサイン全体の中での破水の位置づけは、妊娠10ヶ月(36〜39週)の過ごし方でも扱っています。陣痛のほうが気になる方は前駆陣痛とは?本陣痛との見分け方もあわせてどうぞ。
破水・尿もれ・おりものの見分け方|5つの視点
妊娠後期は、この3つがすべて起こりやすい時期です。赤ちゃんが下がって膀胱が圧迫されるので尿もれが増え、子宮口が熟してくるのでおりものも水っぽく増えます。そこに破水が加わるので、混乱するのは当然のことです。
まずは5つの視点で見てみる
| 見るところ | 破水(羊水) | 尿もれ | おりもの |
|---|---|---|---|
| 止められるか | 止められない | 力を入れると止まることが多い | 止めるという感覚がない |
| におい | ほぼ無臭〜生臭い・少し甘いと感じる人も | アンモニア臭(いわゆる尿のにおい) | ほぼ無臭。強い悪臭があれば感染の可能性 |
| 色 | 透明〜薄い黄色。白く濁ることも | 薄い黄色 | 白・クリーム色。粘り気がある |
| 続き方 | じわじわ続く・何度もぶり返す | そのとき1回で終わる | 1日を通じて少しずつ |
| 体勢を変えると | 立ち上がる・寝返りで量が増える | 関係ない | 関係ない |
においは「無臭」だけで覚えないほうがいい
「羊水は無臭」と書かれていることが多いのですが、実際には生臭い・少し甘い・独特のにおいがすると感じる方もいます。「無臭のはずなのに、においがあるから破水ではない」と判断してしまうのが、いちばん多い取り違えです。
においで確実に言えるのは、ツンとしたアンモニア臭があれば尿の可能性が高いということだけです。それ以外のにおいは、破水を否定する材料になりません。強い悪臭がある場合は、むしろ感染を起こしているサインのことがあるので、早めに連絡してください。
色は「透明かどうか」より「緑・茶褐色でないか」
羊水は本来、透明〜薄い黄色で、白っぽく濁って見えることもあります。ここでいちばん見ておいてほしいのは、緑色・黄緑色・茶褐色になっていないかです。
- 緑色・黄緑色・薄い茶色:赤ちゃんが子宮の中で便(胎便)を出した可能性があります(羊水混濁)。赤ちゃんが苦しいサインのことがあり、生まれたあとの呼吸への対応が必要になる場合があります
- 赤み・鮮血が混じる:おしるし程度の血液が混じることはありますが、出血が多いときは別の原因を考えます
- 強い悪臭・濃い黄色:子宮内感染を起こしている可能性があります
色は時間がたつと変わってしまいます。濡れたナプキンや下着はビニール袋に入れて持っていくと、そのまま見てもらえます。
自己判断できないのが普通だと知っておく
ここまで見分け方を書いてきましたが、正直にお伝えすると、この3つを自分で確実に見分けるのは、経験を重ねた人でも難しいことがあります。だからこそ病院には、破水かどうかを調べるための検査があります(病院での調べ方)。
「自分で判断できなかった」のは、注意が足りなかったからではありません。見分けにくいものを見分けようとしていたからです。迷った時点で連絡していい、と考えてください。
やってはいけないセルフチェック
- タンポンや月経カップで確かめる・受け止める:膣内に物を入れると感染のリスクが跳ね上がります。絶対にしないでください
- 入浴して様子を見る:もっとも避けたい行動です。お湯につかると細菌が入りやすくなります
- 指で膣の中を確認する:同じく感染のリスクがあります
- においを確かめるために放置する:時間をおいても判断はつきません
- 性交渉:破水の疑いがある間は避けてください
なお「水っぽいおりものが増えたけれど破水ではなかった」というのは、非常によくあることです。確かめに行って違ったとしても、それは無駄足ではありません。おりものの変化そのものについてはおりものの量が多い・増えたでも解説しています。
高位破水とは?気づきにくい理由と「1回で止まった」の正体
高位破水は「破れた場所」の話であって、別の病気ではない
高位破水(こういはすい)とは、卵膜が破れた位置が子宮口から遠い、高いところだった破水のことです。破水そのものとは別の現象ではなく、どこが破れたかという場所の違いです。
| 見るところ | いわゆる完全破水(低位破水) | 高位破水 |
|---|---|---|
| 破れる場所 | 子宮口のすぐ近く | 子宮口から離れた高い位置 |
| 出方 | 一気に出る(ドラマのイメージ) | ちょろちょろ・じわじわ |
| 気づきやすさ | まず気づく | 尿もれ・おりものと間違えやすい |
| 緊急度 | どちらも同じ。すぐ連絡が必要です | |
大事なのは最後の行です。高位破水は「軽い破水」ではありません。出てくる量が少ないだけで、卵膜が破れて外とつながっているという点はまったく同じです。感染のリスクも同じように時間とともに上がります。
「1回で止まった」ように感じるのはなぜか
高位破水でもっとも多い相談が、「一度だけ出て、その後は何もない」というものです。これには理由があります。
- 赤ちゃんの頭が栓のようになる:正期産の時期は赤ちゃんの頭が骨盤に降りているため、頭が出口をふさいで一時的に流出が止まります
- 破れた場所が高いので、たまってから出る:連続して流れ出るのではなく、動いたときにまとまって出ます
- 体勢で変わる:横になっているときは出ず、立ち上がった瞬間にまた出るということが起こります
卵膜は一度破れると、自然にふさがってもとに戻ることは基本的にありません。「止まったからもう大丈夫」と考えないでください。むしろ高位破水では、止まったように見えるのが典型的な経過です。
量はどれくらい?「下着が湿る程度」でも破水
高位破水の量は、下着が少し湿る・ナプキンがじんわり濡れる程度のことがあります。おりものシートで足りてしまうこともあり、これが「たぶんおりもの」と判断されてしまう原因です。
目安としては、おりものシートやナプキンを当てて、1〜2時間ごとに確認してみる方法があります。時間がたつにつれて濡れる範囲が広がっていく、あるいは立ち上がったときだけ量が増えるなら、破水の可能性を考えて連絡してください。ただしこれは「様子を見るための方法」ではありません。電話で状況を伝えるための材料として使ってください。
病院ではどうやって破水かどうかを調べるのか
受診すると、多くの場合は次のような方法で確認します。いずれも数分で結果が出るものです。
| 調べ方 | どうやって | 分かること |
|---|---|---|
| pH試験紙 | 膣内の液体を試験紙につける | 膣は酸性、羊水はアルカリ性のため、色の変化で推定する |
| 破水の検査キット | 膣内の分泌物を採取する | 羊水に含まれる特有のたんぱく質を検出する。数分で判定できる |
| 超音波(エコー) | お腹の上から当てる | 子宮内の羊水量が減っていないかを見る |
| 内診・クスコ診 | 器具で膣内を観察する | 子宮口から羊水が流れ出ていないかを直接確認する |
検査そのものは短時間で終わります。診察でどんなことをするのかが不安な方は、内診とは?何をするのか・痛みと流れも参考にしてください。費用は破水を疑って受診した場合、健康保険の対象になることが多いですが、施設や状況によって扱いが異なるため、窓口で確認してください。
気づかないまま1日・1週間が過ぎると何が起きるか
「高位破水 気づかないまま 1週間」という検索がとても多いことからも、あとから不安になる方が多いテーマだと分かります。正直に書きます。
- 子宮内感染(絨毛膜羊膜炎):破水からの時間が長いほどリスクが上がります。発熱・お腹の張りや痛み・悪臭のあるおりもの・脈が速いなどのサインが出ます
- 赤ちゃんへの感染:生まれたあとに新生児の感染症につながることがあります
- 羊水が減ることによる影響:とくに早い週数で長く続くと、肺や手足の発達に影響することがあります
- 臍帯脱出(さいたいだっしゅつ):赤ちゃんの頭が降りていない段階で破水すると、へその緒が先に出てしまうことがあります。まれですが緊急の対応が必要です
ただし、ここでもうひとつ正直にお伝えします。「1週間気づかなかった=必ず重大なことが起きている」わけではありません。感染が起きているかどうかは、発熱の有無・血液検査・赤ちゃんの心拍などで調べます。あとから気づいた方がすべきことは、自分を責めることではなく、気づいた時点ですぐ連絡することだけです。
過ぎた時間は戻せませんが、いま連絡すれば、いまからの対応はできます。「何日前から濡れている感じがあったか」を思い出せる範囲で伝えてください。日付が曖昧でも構いません。
破水の種類|前期破水・早期破水・適時破水・人工破膜
破水は「お産のどの段階で起きたか」で呼び方が変わります。高位破水は場所の分類なので、この4つとは軸が違います。
| 呼び方 | いつ起きた破水か | 頻度・位置づけ |
|---|---|---|
| 前期破水(ぜんきはすい) | 陣痛が始まる前に破水した | 全妊娠の約1割前後。相談がいちばん多い |
| 早期破水(そうきはすい) | 陣痛は始まっているが、子宮口が全開大になる前 | お産の経過としてよくみられる |
| 適時破水(てきじはすい) | 子宮口が全開大になってから | もっとも自然な流れとされる |
| 人工破膜(じんこうはまく) | 医療者が器具で意図的に卵膜を破る | お産の進みを助ける目的で行われることがある |
前期破水と早期破水は、字が似ていて紛らわしい
この2つは読みも字も似ていますが、意味は違います。前期破水は「陣痛より前」、早期破水は「陣痛は来ているが子宮口が全開になる前」です。検索で迷ったときは、陣痛があったかどうかで区別してください。
人工破膜(人工破水)はどんなときに行うのか
お産が進んでいるのに卵膜が破れないとき、医療者が専用の器具で卵膜を破ることがあります。これを人工破膜といい、「人工破水」と呼ばれることもあります。赤ちゃんの頭が子宮口に直接あたるようになることで、陣痛が強まることが期待されます。
卵膜には神経が通っていないため、破ること自体の痛みは強くないとされますが、内診の体勢と器具が入る感覚に不快感を覚える方はいます。行うかどうかはお産の進み具合と赤ちゃんの状態を見て医師が判断します。似た処置である卵膜剥離については内診グリグリ(卵膜剥離)とは?で詳しく扱っています。
破水したあと、出産までどれくらいかかる?
破水したら、陣痛がなくても入院になる
破水が確認されると、陣痛が来ていなくてもそのまま入院になるのが一般的です。「陣痛が来てから出直してください」とはなりません。感染を防ぐために管理が必要だからです。
入院後の流れは、おおよそ次のようになります。
- 赤ちゃんの状態を確認:分娩監視装置(NST)で心拍と子宮収縮を見る
- 感染の有無を確認:体温・血液検査・膣分泌物の検査
- 抗菌薬の投与:感染予防のために行われることがあります。とくにGBS(B群溶血性連鎖球菌)陽性の方は点滴が必要になります
- 陣痛を待つか、促すかを判断:週数と状態によって方針が変わります
正期産(37週以降)の破水なら、多くはその流れでお産になる
37週以降に前期破水した場合、自然に陣痛が始まる方が多いとされています。それでも来ないときは、感染のリスクと陣痛を待つ時間を天秤にかけて、陣痛促進剤などで分娩を促す判断がとられます。
よく「24時間」という数字を目にしますが、これはそこを過ぎたら危険という線ではなく、感染リスクが上がりはじめる目安として使われている数字です。実際には週数・GBSの有無・赤ちゃんの状態・施設の方針によって判断は変わります。「リミット」という言葉で覚えてしまうと不安が強くなるので、時間は医療者が見ている指標のひとつくらいに考えてください。
初産婦と経産婦で時間は違う?
破水してから生まれるまでの時間は、個人差が非常に大きく、目安として示せる数字はありません。数時間で生まれる方もいれば、陣痛促進を行って翌日になる方もいます。
一般論として、お産全体にかかる時間は初産婦のほうが長い傾向があり、経産婦は進行が早いため連絡の目安も早めに設定されています。ただしこれは陣痛が始まってからの話で、破水から陣痛が始まるまでの時間には当てはまりません。「経産婦だから早いはず」と考えて連絡を遅らせないでください。
数字がまったくないと不安だという方のために、幅のある言い方で書きます。37週以降の前期破水では、多くの方が1日以内に陣痛が始まるとされています。一方で、そこから陣痛促進を行って翌日以降の出産になる方も珍しくありません。「何時間で生まれるか」は、破水した時点では誰にも分かりません。分かっているのは、入院して赤ちゃんの状態を見ながら進めていくということだけです。
入院したあと陣痛を待つ時間は、不安になりやすい時間です。多くの場合は食事も会話もでき、スマホも使えます。ただしシャワーの可否・歩いてよいか・トイレの移動方法は施設と状況によって指示が違うので、自己判断せず確認してください。
37週より前に破水したら|妊娠中期の「尿もれかも」が危ない理由
週数によって、破水の意味はまったく変わる
ここがこの記事でいちばん大事なところです。37週以降の破水は「お産が始まった」ですが、37週より前の破水は「早産につながる状態」であり、扱いが根本的に違います。
37週未満で陣痛より先に破水することを早産期前期破水といい、赤ちゃんの週数によって方針が変わります。
| 週数 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 37週以降 | そのまま出産に向かう方針が一般的 |
| 34〜36週ごろ | 感染の有無や状態を見ながら、出産に向かうか待つかを判断する |
| 34週より前 | 感染の兆候がなければ、できるだけ妊娠を継続する方針をとることが多い。抗菌薬や、赤ちゃんの肺の成熟を促す薬が使われることがある |
妊娠を継続する場合は、自宅安静ではなく入院管理になるのが一般的です。数週間の入院になることもあります。赤ちゃんの週数によっては、NICU(新生児集中治療室)のある病院へ移る(母体搬送)こともあります。
妊娠中期の「尿もれかな」がいちばん見逃されやすい
妊娠中期はまだ「破水するような時期ではない」という思い込みがあるため、水っぽいものが出ても尿もれやおりものだと考えて様子を見てしまいがちです。この時期はおりものが増える時期でもあるので、なおさら紛れます。
- 水っぽいものが止められずに出た
- 下着が濡れる状態が続いている・ぶり返す
- 立ち上がったときだけ増える
- おりものに強い悪臭がある、色が変わった
- お腹の張りや少量の出血を伴う
「この時期に破水はしないはず」という前提は、いったん外してください。
お腹の張りや出血を伴う場合は、切迫早産・切迫流産の可能性もあります。切迫流産とは?症状と安静の意味もあわせて確認してください。
破水の原因|防げるもの・防げないもの
はっきりした原因が分からないことも多い
前期破水の原因として知られているものには、次のようなものがあります。ただし実際には、はっきりした原因が特定できないことも少なくありません。
| 関係するとされるもの | 内容 |
|---|---|
| 膣・子宮頸管の感染 | 細菌性膣症やクラミジアなどの感染が、卵膜を弱くすることがあると考えられています |
| 子宮内の圧力が高い状態 | 多胎妊娠(双子など)、羊水が多い状態 |
| 喫煙 | 前期破水のリスクを上げることが知られています |
| 子宮頸部の手術歴 | 円錐切除術を受けたことがある場合など |
| 前期破水・早産の既往 | 過去に経験した方は、次の妊娠でも起こりやすい傾向があります |
| 子宮頸管が短い | 健診の超音波で指摘されることがあります |
「あのとき動いたせい」ではありません
破水したあとに、「重い物を持ったからかもしれない」「階段を上ったせいかもしれない」と振り返る方がとても多いです。しかし日常的な動作が前期破水の直接の原因になるという根拠はありません。
自分にできることとして現実的なのは、喫煙を避けること、膣の感染が疑われる症状(悪臭・かゆみ・おりものの変化)を放置せず健診で相談することくらいです。それ以外の多くは、自分の行動でコントロールできる範囲にありません。膣の常在菌バランスについては細菌性膣症とは?症状と受診の目安で解説しています。
破水に備えて用意しておくもの
「破水セット」という言葉が使われますが、専用の商品を買わなくても、家にあるもので足ります。出産前に、玄関か車に置いておくと安心です。
| 用意するもの | 何に使うか |
|---|---|
| 産褥パッドか夜用ナプキン | 羊水を受け止める。量が読めないので大きめを数枚 |
| 大きめのバスタオル | 車の座席に敷く |
| 大きめのゴミ袋・レジャーシート | バスタオルの下に敷くと座席が濡れない |
| ビニール袋 | 濡れた下着やナプキンを入れて持参する(色を見てもらうため) |
| 替えの下着 | 入院バッグとは別に、すぐ出せるところに |
| 母子健康手帳・診察券・保険証 | まとめて1か所に。家族にも置き場所を伝えておく |
- 陣痛タクシーの登録:破水でも利用できます。登録は無料の会社が多いので早めに
- 夜間の連絡先:日中と番号が違う産院があります。スマホに登録しておく
- 上の子・ペットの預け先:破水は時間を選びません
- 家族への伝え方:「破水したから今から病院に行く」と一言で伝えられるようにしておく
深夜に破水して、タクシーが捕まらなかったら
破水は時間を選びません。深夜・早朝に陣痛タクシーが出払っていることは実際にあります。そのときの順番を決めておくと、当日あわてずにすみます。
- まず産院に電話する。移動手段がないことも含めて伝えてください。到着が遅れる見込みを共有しておくだけで、受け入れ側の準備が変わります
- 家族・同居人を起こす。遠慮する場面ではありません
- 配車アプリと一般のタクシー会社を並行で試す。陣痛タクシー以外でも、破水であることを伝えれば乗せてもらえます。座席を濡らさない用意(バスタオル・ゴミ袋)があることも伝えると話が早いです
- それでも確保できなければ、産院に再度連絡する。状況によって救急車を呼ぶよう指示されることがあります。自分で判断しなくて構いません
破水したあと、いつ陣痛が始まるかは分かりません。妊婦本人がハンドルを握るのは避け、助手席か後部座席に座ってください。頼れる人がいない場合は、その旨を産院に伝えて指示を仰いでください。
入院バッグ全体の中身は妊娠9ヶ月(32〜35週)にやるべきことにまとめています。
よくある質問
Q 高位破水は1回で止まることがありますか?
A.出るのが一時的に止まったように感じることはよくあります。赤ちゃんの頭が出口をふさいだり、体勢によって流出が変わったりするためです。ただし卵膜の破れ目がふさがって治ったわけではありません。止まったように見えても、一度でも「止められない水が出た」なら連絡してください。
Q 高位破水と完全破水の違いは何ですか?
A.卵膜が破れた位置の違いです。子宮口の近くで破れると一気に流れ出て、高い位置で破れるとちょろちょろ漏れます。緊急度に差はありません。どちらもすぐに産院へ連絡してください。
Q 高位破水に1日気づかないままということはありますか?
A.あります。量が少なく、尿もれやおりものと区別しにくいためです。時間がたつほど子宮内感染のリスクは上がるので、あとから「あれは破水だったかも」と思い当たった時点で連絡してください。気づかなかったことを責める必要はありません。いま連絡すれば、いまからの対応ができます。
Q 破水したら、どれくらいで生まれますか?
A.個人差が大きく、目安の数字は示せません。数時間で生まれる方も、陣痛促進を行って翌日になる方もいます。37週以降であれば自然に陣痛が始まる方が多いとされますが、来ない場合は感染のリスクを考えて分娩を促す判断がとられます。
Q 破水したのに、お風呂に入ってしまいました
A.受診のときに「入浴した」と必ず伝えてください。隠す必要はありません。感染の兆候があるかどうかは、体温・血液検査・赤ちゃんの心拍などで確認できます。入ってしまったこと自体を後悔するより、伝えたうえで診てもらうことのほうがずっと大切です。
Q 破水で救急車を呼んでもいいですか?
A.破水だけであれば、原則としてタクシーや自家用車での受診で問題ありません。ただし強い出血・激しい腹痛・膣から何か出てきた感じがある場合や、移動手段がどうしても確保できない場合は、迷わず救急車を呼んでください。判断に迷うときは、まず産院に電話して指示を仰ぐのが確実です。
Q おしるしと破水が同時に来たらどうすればいいですか?
A.破水のほうを優先して連絡してください。おしるしだけなら急ぎませんが、破水が疑われる場合はすぐ連絡が必要です。電話では「おしるしのような出血もあります」と一緒に伝えると、状況が伝わりやすくなります。
Q 前期破水での入院は医療保険の対象になりますか?
A.正常な分娩は公的医療保険の対象外ですが、前期破水の管理は「異常分娩」として保険診療の扱いになることがあります。民間の医療保険についても、給付の対象になるかは契約内容によって異なります。領収書と診断書は必ず保管し、加入している保険会社に確認してください。
Q 破水の前兆はありますか?
A.「これがあれば次に破水する」と分かる前兆はありません。お腹の張りやおしるしのあとに破水する方もいれば、何の前触れもなく起こる方もいます。前兆を探すより、起きたときにどう動くかを決めておくほうが役に立ちます。
まとめ
破水でいちばん困るのは、痛みではなく「これが破水なのか分からない」という時間です。そしてその時間は、自分で答えを出そうとするほど長くなります。
- 破水とは卵膜が破れて羊水が出ている状態。量の多さでは決まらない
- 見分ける手がかりは止められるか・におい・色・続くか・体勢で変わるかの5つ
- 羊水は必ずしも無臭ではない。においがあることを理由に破水を否定しない
- 高位破水は「軽い破水」ではない。止まったように見えるのが典型的な経過
- 緑・黄緑・茶褐色の色がついていたら、その場で伝える。濡れたナプキンは持参する
- 入浴・シャワー・タンポンは厳禁。膣から子宮へ細菌が入りやすくなっている
- 破水したら陣痛がなくても入院になる。救急車は原則不要
- 37週より前の破水は扱いがまったく違う。妊娠中期の「尿もれかも」こそ連絡する
- あとから気づいた方がすべきことは、自分を責めることではなくいま連絡すること
「確かめに行ったけれど違った」は、何度あってもいい結果です。産院はその電話に慣れています。迷った時点で、もう連絡していいと考えてください。
参考文献
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン ―産科編 2023」
- 日本産科婦人科学会「産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版」
- 厚生労働省「e-ヘルスネット」
- 厚生労働省「妊娠中の健康管理(母子健康手帳 省令様式・任意記載事項様式)」
- National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Preterm labour and birth. NICE guideline [NG25], 2015 (updated 2022).
- National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Intrapartum care. NICE guideline [NG235], 2023.
- World Health Organization. WHO recommendations: intrapartum care for a positive childbirth experience. 2018.