臨月に入って健診に行ったら、内診のときに急に強い痛みがあった。終わってから「今、卵膜をはがしておきましたよ」と言われた——そんな経験を、あとから「内診グリグリ」という言葉で検索して知る方が少なくありません。

この言葉で検索して出てくるのは、芸能人の出産エピソードか、掲示板の「痛かった」「私は平気だった」という書き込みか、クリニックのお知らせが1本という状態です。何をする処置で、何のためにするのか、そして自分に決める余地があるのかを最初から最後まで説明したページが、ほとんど見当たりません。

この記事では、卵膜剥離という処置の中身、痛みの実際、陣痛との関係について研究で分かっていることと分かっていないこと、処置後に受診すべきサイン、そして「今日はやめておきたい」と言えるのかまでを順番に整理します。読み終えたときに、次の健診で自分がどうしたいかを決められる状態になることをめざしています。

内診グリグリとは?正式には「卵膜剥離」という処置

「内診グリグリ」は俗称です。正式な名前は卵膜剥離(らんまくはくり)といいます。英語では membrane sweeping(メンブレン・スイーピング)と呼ばれ、「スイープ」(掃くようになでる)という語のとおり、内側をぐるりとなでる動きをする処置です。

子宮の入口から指を入れ、卵膜を子宮の壁からはがす

赤ちゃんは卵膜(らんまく)という薄い膜に包まれ、その中の羊水に浮かんでいます。この膜は、子宮の壁の内側に接した状態でくっついています。

卵膜剥離では、医師や助産師が膣から指を入れ、子宮の入口(子宮頸管)の中に指先を通します。そして指先で子宮の入口のすぐ内側をぐるりと一周なぞり、そこで壁にくっついている卵膜を少しだけはがします。子宮の壁と膜のあいだに、指1本分の隙間を作るようなイメージです。

お腹を切ったり、器具を入れたりはしません。医師の指だけで完結する処置です。ただし、子宮の入口に指が通る必要があるため、子宮口がまったく開いていない段階ではできません。この場合、入口の周りをやわらかくする目的で触れるだけになることがあり、それも「グリグリされた」と感じることがあります。

なぜ、これで陣痛が来ることがあるのか

卵膜が子宮の壁からはがれると、その部分からプロスタグランジンという物質が出ます。プロスタグランジンには、子宮の入口をやわらかくする働きと、子宮を収縮させる働きがあります。生理痛の原因物質としても知られているもので、お産のときには体が自然に分泌を増やしていきます。

卵膜剥離は、この体がもともと持っている仕組みを、外から少し早めに押し出すための処置です。薬を使わずに、体の内側から出る物質にはたらきかける方法だといえます。

陣痛促進剤とは別のものです
  • 卵膜剥離:指で膜をはがし、体が出すプロスタグランジンを促す。薬は使わず、外来の内診の中でできる
  • 陣痛促進剤(オキシトシン・プロスタグランジン製剤):薬剤を点滴や内服で投与し、子宮の収縮そのものを起こす。入院して、赤ちゃんの状態をモニターしながらおこなう

どちらも「お産を進める」方向の処置ですが、規模も管理の仕方もまったく違います。卵膜剥離をしたからといって、そのまま促進剤に進むことが決まるわけではありません。

「内診グリグリ」は俗称。医療者には何と伝えればいいか

健診の場で「内診グリグリってしますか?」と聞いても通じることは多いですが、はっきり確認したいときは「卵膜剥離はしますか?」「今日は膜をはがす処置をする予定がありますか?」と聞くと、意図が正確に伝わります。

逆に、健診のたびに子宮口の開き具合を見る診察は卵膜剥離ではありません。この2つが混ざったまま話すと、「グリグリされたくない」と言ったつもりが「内診そのものを拒否した」と受け取られてしまうことがあります。次の章で、この違いを整理します。

子宮口チェックとの違い|同じ内診でも目的が違う

臨月の健診では、毎回のように内診があります。そのすべてが卵膜剥離なのではありません。大きく分けて「測るための内診」と「進めるための処置」の2つがあり、両者は目的も、同意の必要性も違います。

産婦人科の明るい診察室で、くすみピンクのカーディガンを着た妊婦が、白衣に紺色のスクラブを合わせた女性医師から手ぶりを交えた説明を受けている場面

子宮口チェック=「今どこまで進んでいるか」を測る診察

子宮口チェックは、お産がどこまで進んでいるかを測る診察です。具体的には、子宮口の開き具合(何センチ開いているか)、子宮の入口のやわらかさ、赤ちゃんの頭がどのくらい下がってきているかなどを、指で触れて確認します。

これは診察であって、お産を進めるための操作ではありません。ただし、指が子宮の入口に触れるため、痛みを感じることはあります。「グリグリされた」と感じても、実際には測っていただけということも起こります。

卵膜剥離=「お産を進める」ための処置

一方の卵膜剥離は、意図的にお産を進めようとする処置です。診察ではなく介入であるため、本来は事前に説明があり、受けるかどうかを相談したうえでおこなうものです。

項目子宮口チェック卵膜剥離(内診グリグリ)
目的お産の進み具合を測るお産が始まるのを促す
位置づけ診察処置(医療的な介入)
触れる場所子宮の入口・赤ちゃんの頭の位置子宮の入口の内側と、その奥の卵膜
時間の目安数十秒数十秒〜1分程度
痛みあることもある強めに感じる方が多い
事前の説明健診の一部として行われる説明を受けたうえで決めるもの
あとの出血少量みられることがある少量みられることが多い

内診そのものの流れ、指を何本入れるのか、痛みを減らすためにできることについては内診とは?何をされるのか・痛いのか・断れるのかで詳しく説明しています。妊娠後期の健診でどんな検査があるかは妊娠10ヶ月(36〜39週)もあわせてご覧ください。

いつから行われるのか|時期と、受ける人の条件

正期産に入ってから。多くは予定日が近づいてから

卵膜剥離は、妊娠37週0日以降の正期産に入ってから検討される処置です。37週より前は、赤ちゃんがまだ十分に育ちきっていない時期にあたるため、お産を進める目的でおこなうことはありません。

実際にはもう少し後、予定日が近づいた38〜40週ごろや、予定日を過ぎてから提案されることが多くなります。施設によって方針は大きく違い、健診の流れの中でおこなうところもあれば、原則として行わないところもあります。

予定日を過ぎたときに提案されやすい理由

妊娠は41週6日までが正期産の範囲で、42週0日以降は「過期産(かきさん)」と呼ばれます。過期産になると、胎盤のはたらきが落ちてくることや、羊水が減ることなどのリスクが上がるため、42週に入る前にお産を進める方法が検討されます。

このとき選択肢になるのが、入院しての陣痛促進剤や、子宮の入口を広げる器具を使う方法です。卵膜剥離は、そうした本格的な誘発に進む前の、いちばん負担の軽い段階として位置づけられています。「予定日を過ぎたので、次の健診で膜をはがしてみましょうか」という提案が出やすいのは、このためです。

知っておきたいリスク|まれに破水することがある

卵膜剥離は、赤ちゃんを包んでいる膜に指で触れる処置です。そのため、まれにその場で膜が破れてしまう(破水する)ことがあります。頻度は高くありませんが、可能性としてはあるものとして説明されるべきものです。

正期産に入っていれば、破水したこと自体が直ちに危険を意味するわけではありません。ただし破水後は感染を防ぐ必要があるため、そのまま入院してお産に進む流れになります。「今日はまだ心の準備が」という状態で入院になる可能性がある、ということです。

このほかに知られているのは、処置時の痛み、少量の出血、不規則なお腹の張りです。いずれも多くは一時的なものですが、処置のあとに起きることで受診の目安をまとめていますので、受ける前に目を通しておいてください。

費用は別にかかるの?

卵膜剥離は妊婦健診の内診の中でおこなわれるため、この処置だけに別料金が発生することは通常ありません。健診そのものの費用(自治体の補助券を使った自己負担分)の範囲におさまることがほとんどです。

ただし、健診の回数が増えたり、あわせてNSTなどの検査をおこなったりした場合は、その分の費用がかかります。予定日前後は健診が週1回になるため、「処置代」ではなく「健診の回数」で負担が変わると考えておくとよいでしょう。不安なときは、受付で「今日の会計はいくらくらいになりますか」と先に聞いて構いません。

行われないことがあるケース

次のような場合、卵膜剥離はおこなわれません。判断は妊娠経過によるため、自分が該当するかどうかは施設に確認してください。

卵膜剥離が見送られることが多い状況
  • 前置胎盤・低置胎盤:胎盤が子宮の入口にかかっている、または近い。触れると出血につながるおそれがある
  • すでに破水している:膜が破れているため処置の対象にならず、感染の観点からも内診自体を最小限にする
  • 帝王切開が決まっている:お産を自然に進める目的自体がない
  • GBS(B群溶血性連鎖球菌)が陽性:施設によって方針が分かれる。行う場合も、抗菌薬の投与計画とあわせて判断される
  • 逆子(骨盤位)など、赤ちゃんの向きや位置に問題がある
  • 子宮口が閉じていて、指が通らない
  • 正期産より前(37週未満)

また、多胎妊娠、過去に子宮の手術を受けたことがある場合、性器の感染症がある場合なども、個別に判断されます。

痛みはどのくらい?「痛い」と言われる理由

処置そのものは数十秒〜1分程度

まず時間の話をします。卵膜剥離そのものにかかる時間は、数十秒から1分程度です。子宮の入口の中をぐるりと1〜2周なぞる動きなので、長く続くものではありません。「何秒くらいですか」と事前に聞いておくと、心の準備がしやすくなります。

痛みが強く出るのは、多くの場合この数十秒のあいだです。処置が終われば、鋭い痛みはおさまっていきます。

痛みの感じ方には、大きな幅がある

検索すると「気を失いそうだった」という体験談と「思ったより平気だった」という体験談が両方出てきます。これは、どちらかが大げさなのではなく、実際に個人差がとても大きい処置だからです。

痛みの感じ方を左右する要素には、次のようなものがあります。

要素痛みが強くなりやすい痛みが軽くなりやすい
子宮の入口の状態まだ硬く、閉じ気味やわらかく、少し開いている
子宮の入口の向き後ろを向いている(指が届きにくい)前を向いている
体の力み緊張して骨盤まわりに力が入っている息を吐いて力が抜けている
お産の経験初産婦の方がやや強く感じやすい傾向経産婦は入口がやわらかいことが多い
事前の説明何をされているか分からないこれから何をするか聞いている

この表の中で、自分でどうにかできるのは下の2つだけです。体質や子宮の状態は選べませんが、力の抜き方と、事前に説明を受けることは自分から働きかけられます。

痛みをやわらげるためにできること

内診台の上でできること
  • 始まる前に「これから何をしますか」と聞く。いつ痛むかが分かるだけで、身構え方が変わります
  • 息を止めず、長く吐く。「吐く」ほうを意識すると骨盤まわりの力が抜けやすくなります
  • 肩とあごの力を抜く。下半身の力は抜きにくいので、上半身から意識します
  • 膝を外に開いて、内ももを脱力させる。閉じようとするほど痛みが強くなります
  • 「痛いです」と声に出す。我慢していると伝わりません。伝えれば、力を加減してもらえたり、いったん止めてもらえたりします
  • 「今日はやめてください」と途中でも言える。始まったあとでも中断を頼んで構いません

陣痛とは、種類の違う痛み

「陣痛とどちらが痛いか」は、よく検索されている疑問です。ただ、この2つは性質が違うため、単純に比べにくいものです。

卵膜剥離の痛みは、子宮の入口という一点に加わる、短く鋭い痛みです。一方、陣痛はお腹全体が締めつけられるような痛みが、波のように寄せては引くものです。卵膜剥離は数十秒で終わりますが、陣痛は何時間も続きます。

「グリグリのほうが痛かった」と言う方も、「陣痛と比べたら一瞬だった」と言う方も、どちらもいます。お産の痛みをやわらげる選択肢については無痛分娩とは?費用・リスク・メリットとデメリットもご覧ください。

陣痛が来る確率は?研究で分かっていること・いないこと

いちばん知りたいのは、ここだと思います。ただし、この処置には「◯%で陣痛が来る」と言い切れる数字はありません。その理由を含めて説明します。

研究で示されていること

正期産以降の卵膜剥離については、複数の臨床試験をまとめた解析がおこなわれています。そこで一貫して示されているのは、おおむね次の2点です。

研究で示されている傾向
  • 卵膜剥離をおこなった場合、おこなわなかった場合に比べて、自然に陣痛が始まる人の割合が増える傾向がみられる
  • その結果として、予定日を大きく超えて、入院での陣痛促進剤などによる誘発が必要になる人が減る傾向がみられる

一方で、帝王切開になる割合や、赤ちゃんの状態については、おこなった群とおこなわなかった群で明確な差は示されていません。つまり「お産の始まり方を少し前倒しする可能性がある処置」であって、お産の安全性そのものを大きく変えるものとしては位置づけられていません。

なぜ「確率」で言い切れないのか

研究の結論を、目の前の自分に当てはめられない理由がいくつかあります。

  • 研究ごとに条件がばらばら:何週でおこなったか、何回おこなったか、どこまではがしたか、子宮の入口の状態はどうだったかが研究によって違います
  • 「何日以内に」の定義が違う:48時間以内で見るか、1週間以内で見るかで数字は変わります
  • 放っておいても陣痛は来る:正期産に入っていれば、処置をしなくてもいずれ陣痛は始まります。処置の効果と、自然な経過を分けるのが難しいということです
  • 研究の質にばらつきがある:処置の性質上、受ける本人にも医療者にも「やったかどうか」が分かってしまうため、思い込みの影響を排除しにくい面があります

そのため、「グリグリしたら何日で生まれる」という数字を、記事や体験談から自分の予定として持ち帰らないほうが安全です。その数字は、あなたの子宮の入口の状態や週数を織り込んだものではありません。

「来なかった人」も、普通にいます

検索して出てくる体験談は、「その日の夜に陣痛が来た」という話に偏ります。何も起きなかった人は、わざわざ書き込まないからです。

実際には、卵膜剥離をしても陣痛が始まらず、次の健診でもう一度おこなったり、そのまま予定日を過ぎたりすることは珍しくありません。これは処置が失敗したということでも、体に問題があるということでもありません。もともと「必ず起きる」性質のものではないからです。

初産婦と経産婦で体感が違う理由

経産婦は、一度お産を経験しているぶん子宮の入口がやわらかく、少し開いていることが多くなります。そのため処置そのものがしやすく、痛みも比較的軽く済むことが多いとされます。また、お産全体の進みも初産婦より速い傾向があるため、「グリグリの翌日に生まれた」という話が出やすくなります。

初産婦の場合は、入口がまだ硬いことが多く、処置がしにくかったり、そもそも指が通らずに見送られたりすることもあります。初産婦だから起きない、ということではなく、条件が整いにくい段階にあるということです。

処置のあとに起きること|出血・茶オリ・お腹の張り

自宅のソファでクッションに深く寄りかかり、目を閉じてお腹に手をそえたまま静かに休んでいる20代後半から30代前半の日本人の妊婦

少量の出血・茶色いおりものは起こりうる

卵膜剥離のあと、少量の出血や、茶色っぽいおりものがみられることはよくあります。子宮の入口の内側に指で触れているため、その部分の細かい血管が傷ついて出るものです。

時間がたった血液は赤ではなく茶色や黒っぽい色になるため、翌日以降に「茶オリ」として出てくることもあります。数日にわたって少しずつ続くこともあり、それ自体は異常を意味しません。出血の色が何を示すかについては経血の色でわかることの考え方が参考になります。

「おしるし」との見分けは、つかないことが多い

お産が近いサインとしての「おしるし」は、子宮の入口が開き始めるときに卵膜がはがれて出る、粘り気のある少量の出血です。

ここで困るのは、卵膜剥離は「卵膜をはがす処置」なので、出てくるものがおしるしとほぼ同じになるということです。「これはおしるしなのか、処置の出血なのか」を自分で見分けるのは、実際にはとても難しいといえます。

見分けようとするより、「量」と「一緒にある症状」で判断してください。少量でだんだん減っていくなら経過をみて構いませんが、次に挙げるサインがあるときは、色や名前にかかわらず連絡します。

生理痛のような痛み・不規則な張り

処置の刺激で、その日のうちに生理痛に似た鈍い痛みや、不規則なお腹の張りが出ることがあります。プロスタグランジンが出たことによる反応で、多くは数時間でおさまっていきます。

これが規則的になり、間隔が縮まり、だんだん強くなっていくようであれば、陣痛の始まりかもしれません。痛みが来た時刻をメモするか、陣痛アプリで間隔を計り始めてください。

施設に連絡する間隔の目安
  • 初産婦:痛みの間隔が10分おきになり、それが1時間ほど続いたら連絡
  • 経産婦:お産の進みが速いため、15分おきを目安に早めに連絡
  • 間隔にかかわらず連絡:破水したとき/出血が多いとき/痛みが休みなく続くとき/胎動が減ったとき

これはあくまで一般的な目安です。施設から個別の指示(「〇分おきになったら電話してください」など)が出ている場合は、そちらを優先してください。病院までの距離が遠い方、上の子がいて移動に時間がかかる方は、早めに動いて構いません。

不規則なまま強くならずにおさまるものは前駆陣痛です。痛む場所や夜だけ強くなる理由、本陣痛との見分け方は前駆陣痛とは?いつから・どんな痛み・本陣痛との見分け方で詳しく解説しています。

【受診の目安】すぐに連絡すべきサイン

処置後、時間帯を問わず施設に連絡してください
  • 生理の多い日のように出血する。ナプキンが短時間で赤く染まる量は、処置の出血の範囲を超えています
  • 鮮やかな赤い血が、続けて出る
  • 水っぽい流れが止まらない。破水の可能性があります。自分で止められないこと、生あたたかい感じがすることが手がかりになります
  • 強い腹痛がずっと続く。波ではなく、休みなく痛みが続く状態
  • 胎動がいつもより明らかに少ない、感じない
  • 発熱がある

「処置をしたばかりだから、これくらいは普通かもしれない」と自分で線を引かないでください。電話で相談することに遠慮はいりません。臨月の産科施設は、夜間も連絡を受ける体制になっています。

処置のあとの過ごし方|動いたほうがいいの?

ふだんどおりで構いません。特別な安静は基本的に不要

卵膜剥離のあとに、寝て過ごさなければならないということはありません。指示がなければ、ふだんどおりの生活で構いません。入浴も、施設から特に制限が出ていなければ通常どおりで問題ないことがほとんどです(出血が多いときや破水の疑いがあるときは別です)。

ただし、その日は一人で遠出をしない、車の運転を予定に入れすぎないなど、「何かあったときに動ける」状態にしておくと安心です。

「歩けば陣痛が来る」とは言い切れません

処置のあとに「たくさん歩いてね」と言われることがあります。ただ、歩くことで陣痛が来ると証明されているわけではありません。散歩やスクワットとお産の始まりの関係については、はっきりした結論が出ていないのが現状です。

「歩かなかったから陣痛が来なかった」と自分を責める必要はまったくありません。臨月の体はとても重く、動けない日があるのが普通です。動けるなら動く、しんどければ休む。それで十分です。

入院の準備と連絡先を、この日のうちに確認する

卵膜剥離が提案されたということは、施設が「そろそろお産の時期だ」と判断しているということです。処置のあとに陣痛が来るかどうかにかかわらず、このタイミングで準備を見直しておくと落ち着いて過ごせます。

処置を受けた日に確認しておきたいこと
  • 入院バッグの中身(母子健康手帳・保険証・診察券はすぐ出せる場所に)
  • 夜間・休日の連絡先の電話番号を、スマホと紙の両方に
  • 施設までの移動手段(タクシー会社の連絡先・陣痛タクシーの登録)
  • 家族やパートナーへの連絡手順
  • 上の子がいる場合の預け先

断れます|同意は、当たり前に必要なもの

白木のテーブルの上で、まっさらなノートとペンに手をそえている日本人女性の手元。かたわらに淡いピンクの手帳とハーブティーのカップが置かれている

事前の説明を受けたうえで、受けるかどうかを決めるもの

卵膜剥離は診察ではなく処置です。本来は「これから卵膜をはがしてもいいですか」という説明と確認があって、受けるかどうかを決めるものです。

ところが実際には、内診の流れの中で説明なしにおこなわれ、終わってから知らされることがあります。そのことに驚いたり、「勝手にされた」と感じたりするのは、当然の反応です。

そして、断ることもできます。断ったからといって、その後の健診やお産で不利に扱われることはありません。「産みたくないと思われるのでは」と心配する必要もありません。処置を受けるかどうかと、お産に前向きかどうかは、まったく別の話です。

その場で使える言葉

いざ内診台の上にいると、言葉が出てこないものです。あらかじめ決めておくと言いやすくなります。

そのまま使える言い方
  • 「内診の前に、今日する処置を教えてください」
  • 「卵膜剥離の予定があれば、事前に教えてください」
  • 今日は、膜をはがす処置は控えたいです
  • 「痛みが強かったので、今回はやめておきたいです」
  • 「(処置中に)痛いので、いったん止めてください」
  • 「しない場合、このあとはどうなりますか?」

最後の一言は特に大切です。断ることと、その先を知らないまま帰ることは違います。「しない選択をしたとき、次に何を考えるのか」まで聞いておくと、納得して決められます。

言葉で伝えにくいときは、紙に書いて渡す方法もあります。母子健康手帳にメモをはさんでおき、受付や診察の最初に見せる形なら、内診台の上で言う必要がありません。

一度受けたあとで、次は断ってもいい

前回受けてみて痛みが強かった、思っていた以上につらかった——その経験をもとに、次の健診で断ることは何の問題もありません。「前回はお願いしたのに」と思う必要はありません。やってみて判断が変わるのは自然なことです。

しない場合、何が検討されるのか

卵膜剥離をしない選択をしても、そこで打ち切りになるわけではありません。予定日を過ぎていく場合、施設では次のようなことが検討されます。

選択肢内容
経過をみる健診の回数を増やし、赤ちゃんの元気度(NST)や羊水の量を確認しながら、自然に陣痛が来るのを待つ
卵膜剥離外来でできる、いちばん負担の軽い方法
子宮の入口を広げる処置入院して、器具や薬で入口をやわらかく・広げる
陣痛促進剤入院して薬剤を投与し、赤ちゃんの状態をモニターしながら陣痛を起こす
帝王切開お産を自然に進めることが難しい、または安全でないと判断された場合

選択肢はひとつではありません。「今日グリグリするかしないか」だけの二択に見えても、実際には週数と赤ちゃんの状態をみながら段階的に判断されていきます。迷ったときは「今すぐ決めなくてもいいですか」と聞いて構いません。

よくある質問

Q 内診グリグリは何秒くらいで終わりますか?

A.数十秒から1分程度です。子宮の入口の内側を指でぐるりと1〜2周なぞる動きなので、長く続くものではありません。痛みが強く出るのもこのあいだで、終われば鋭い痛みはおさまっていきます。時間が気になるときは、処置の前に「どのくらいかかりますか」と聞いておくと身構えやすくなります。

Q 内診で「お腹がグリグリする」感じがするのはなぜですか?

A.子宮の入口は体の奥にあるため、そこに指で加わる刺激が、お腹の奥のほうが押されているような感覚として伝わります。また内診では、膣に入れた指とお腹に当てた手で子宮を挟むように触れる診察もあり、このときお腹側から押される感覚があります。実際に強く押されているのはお腹側の手であることも多く、必ずしも膣の中を強くこすられているわけではありません。

Q 内診グリグリと陣痛では、どちらが痛いですか?

A.痛みの性質が違うため、単純には比べられません。卵膜剥離は一点に加わる短く鋭い痛みで、数十秒で終わります。陣痛はお腹全体が締めつけられる痛みが波のように寄せては引き、何時間も続きます。「グリグリのほうが痛かった」という方も「陣痛と比べれば一瞬だった」という方もいて、どちらも実感として正しいものです。

Q 内診グリグリをしなくてもいい人はいますか?

A.そもそも全員が受ける処置ではありません。前置胎盤・低置胎盤の方、すでに破水している方、帝王切開が決まっている方、正期産より前の方、子宮口が閉じていて指が通らない方などは行われません。加えて、医学的にできる状態であっても、本人が希望しなければ受けないという選択ができます。断ったことで健診やお産の対応が変わることはありません。

Q 子宮口が1センチしか開いていなくても、やるのでしょうか?

A.卵膜剥離には「指が子宮の入口を通ること」が必要なので、1センチ程度でも条件としては足りることがあります。ただし入口が硬かったり、後ろを向いていたりすると届きにくく、痛みも強くなりやすくなります。まったく開いていない場合は処置そのものができず、入口の周りをやわらかくする目的で触れるだけになることがあります。それも「グリグリされた」と感じることがあります。

Q 茶色いおりものが数日続いています。大丈夫でしょうか?

A.時間がたった血液は茶色や黒っぽい色になるため、処置のあと数日にわたって少量ずつ続くことは珍しくありません。量が少しずつ減っていて、強い腹痛・発熱・胎動の減少がなければ、経過をみて構いません。ただし鮮やかな赤い出血に変わる、量が増える、水っぽい流れが止まらないときは、時間帯を問わず施設に連絡してください。

Q 処置のあと、お風呂に入っても大丈夫ですか?

A.施設から特に制限が出ていなければ、通常どおりで問題ないことがほとんどです。ただし出血が多いときや、破水しているかもしれないときは入浴を控え、先に連絡してください。判断に迷うときは、処置を受けたその場で「今日お風呂に入っていいですか」と確認しておくと確実です。臨月は体のバランスが崩れやすいため、浴室での転倒にも気をつけてください。

Q 陣痛が来ませんでした。また次の健診でもやるのでしょうか?

A.次の健診で改めて提案されることはあります。ただし自動的に決まっているわけではなく、そのつど相談して決めるものです。「前回痛かったので今回はやめたい」と伝えて構いません。陣痛が来なかったことは、処置が失敗したわけでも、体に問題があるわけでもありません。もともと必ず起きる性質のものではないからです。

まとめ

内診グリグリ——卵膜剥離は、お産が始まるのをほんの少し後押しするかもしれない処置です。魔法のスイッチでもなければ、避けなければいけない危険なものでもありません。

いちばん大切なのは、この処置が「説明を受けて、受けるかどうかを決められるもの」だと知っておくことだと考えています。知らないまま内診台の上で驚くのと、知ったうえで「お願いします」または「今日は控えます」と言えるのとでは、同じ処置でも経験としてまったく違うものになります。

この記事のポイントまとめ
  • 「内診グリグリ」の正式名称は卵膜剥離。子宮の入口の内側で卵膜を壁からはがし、プロスタグランジンの分泌を促す処置
  • 毎回の健診の子宮口チェックとは別物。あちらは「測る診察」、こちらは「進める処置」
  • おこなうのは正期産(37週0日〜)以降。予定日が近づいてから、または過ぎてから提案されやすい
  • かかる時間は数十秒〜1分程度。痛みの感じ方には大きな個人差があり、力を抜くことと事前に説明を受けることが自分でできる対策
  • 研究では自然な陣痛が始まる人が増える傾向が示されているが、「◯%で陣痛が来る」と言える数字はない。来なかった人も普通にいる
  • まれに破水することがあり、その場合はそのまま入院してお産に進む流れになる。費用は健診の内診の範囲で、処置だけの別料金は通常かからない
  • 処置後の少量の出血・茶色いおりもの・生理痛のような痛みはよくあること。多量の出血・水っぽい流れ・持続する強い腹痛・胎動の減少・発熱は、時間帯を問わず連絡
  • 痛みが規則的になったら間隔を計る。連絡の目安は初産婦で10分おき・経産婦で15分おき(施設の指示が優先)
  • 特別な安静は基本的に不要。「歩けば陣痛が来る」とは言い切れないので、動けない日があっても自分を責めなくていい
  • 断れます。「今日は膜をはがす処置は控えたいです」と言って構わないし、一度受けたあとに次を断ってもいい

予定日が近づく時期は、うれしさと不安が同じだけ大きくなる時期です。分からないことをそのままにせず、健診のたびに一つずつ聞いていってください。質問することは、お産に前向きであることの表れです。

この記事について

femnote 編集部

生理・妊活・フェムケア・更年期など女性の健康に関する情報を、厚生労働省「e-ヘルスネット」や日本産科婦人科学会をはじめとする各学会の診療ガイドラインなど、公的な資料をもとに編集しています。診断や治療の判断については、必ず医療機関にご相談ください。

参考文献

  • 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン ―産科編 2023」
  • 日本産科婦人科学会「産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版」
  • 厚生労働省「e-ヘルスネット」
  • Finucane EM, et al. Membrane sweeping for induction of labour. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2020.
  • National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Inducing labour. NICE guideline [NG207], 2021.
  • World Health Organization. WHO recommendations on induction of labour, at or beyond term. 2022.