「会陰を切ると聞いて、想像しただけで怖くなった」——出産を控えた方から、本当によく聞く言葉です。麻酔はするのか、痛いのか、産後はどうなるのか。分からないことが多いほど、不安は大きくなります。
先にお伝えすると、会陰切開は「必ずやる処置」でも「絶対に避けるべき処置」でもありません。かつては予防的に全員に行われていた時期もありましたが、現在は必要と判断された場合にのみ行うという考え方が主流です。そして切開した場合も、多くの方が数週間で日常生活に支障のない状態まで回復していきます。
この記事では、なぜ切るのか、実際にどのくらい痛いのか、抜糸はあるのか、いつまでに回復するのかを、時系列に沿って整理しました。これから出産する方にも、いま傷が痛くて検索している方にも、判断材料になるように書いています。
会陰切開とは|出産時に会陰を切開する処置
会陰(えいん)とは、腟の出口と肛門のあいだにある部分のことです。会陰切開とは、赤ちゃんが出てくる直前に、この部分をハサミで数センチ切開して出口を広げる処置を指します。医学的には episiotomy(エピジオトミー)と呼ばれます。
なぜ切るのか|切開が選ばれる理由
切開が必要と判断されるのは、主に次のような場面です。「時間を稼ぐため」か「より大きな損傷を防ぐため」のどちらか、と考えると理解しやすいと思います。
- 赤ちゃんの状態が心配なとき:心拍が下がっているなど、早く出してあげる必要がある場合。もっとも多い理由です
- 吸引分娩・鉗子分娩を行うとき:器具を使う際に出口を広げる必要があります
- 会陰が硬く、伸びにくいとき:そのままだと不規則に大きく裂ける可能性が高いと判断された場合
- 逆子や早産など、特別な配慮が必要な分娩のとき
- 肛門側へ深く裂けそうなとき:切開の向きを変えることで、肛門括約筋の損傷を避けられることがあります
- お母さんの体力が限界に近いとき:分娩が長時間に及び、これ以上いきむのが難しい場合
かつては初産婦さんに対して予防的に会陰切開を行う方針の施設が多くありましたが、現在は必要な場合に限って行う(選択的会陰切開)という考え方が国際的に主流です。世界的にも、ルーチンで全員に行うことは推奨されていません。
ただし実施率は施設によって差があります。方針が気になる場合は、妊娠中に「この産院では会陰切開はどのような方針ですか」と聞いておくと安心です。聞きにくい質問ではありません。助産師はこの手の質問に慣れています。
切開の向き|正中切開と正中側切開
切り方には主に2つの方向があります。どちらを選ぶかは、会陰の長さや状況によって医師・助産師が判断します。
| 種類 | 切る方向 | 特徴 |
|---|---|---|
| 正中切開 | まっすぐ肛門の方向へ | 出血が少なく、痛みも比較的軽い。治りが早い。ただし、そのまま肛門側へ裂けが伸びるリスクがある |
| 正中側切開(斜めに切る) | 斜め下(左右いずれか)へ | 肛門へ裂けが及びにくい。日本ではこちらが多く選ばれます。正中切開より出血・痛みがやや強い傾向 |
日本では、肛門括約筋の損傷を避けることを重視して正中側切開が選ばれることが多くなっています。産後の診察のときに「どちら向きに切ったか」を聞いておくと、ケアの参考になります。
「切る」と「裂ける」の違い|会陰裂傷との関係
会陰は、切開しなくても分娩の際に自然に裂けることがあります。これを会陰裂傷(えいんれっしょう)といいます。「切られるくらいなら自然に裂けたほうがいい」と考える方は多いのですが、ここは正確に知っておく価値があります。
会陰裂傷の程度(1〜4度)
| 程度 | 範囲 | 縫合 |
|---|---|---|
| 第1度 | 皮膚や腟の粘膜のみ | ごく浅ければ縫わないこともある |
| 第2度 | 会陰の筋肉まで(もっとも多い) | 縫合する。会陰切開と同程度 |
| 第3度 | 肛門括約筋まで及ぶ | 丁寧な縫合が必要。将来的に便の失禁につながることがある |
| 第4度 | 直腸の粘膜まで達する | 専門的な修復が必要 |
どちらがいいのか|一概には言えません
ここは正直にお伝えします。「切るほうがいい」「裂けるほうがいい」と一律に言える答えはありません。
- 浅い自然裂傷(1〜2度)で済むなら、切開しないほうが回復は早いとされています。だからこそ、現在はルーチンでの切開が推奨されていません
- 一方、放置すると3〜4度の深い裂傷になりそうな場合は、切開したほうが損傷が浅く済むことがあります。裂けた傷は縁がギザギザで縫合しにくいのに対し、切開創はまっすぐで縫いやすく、治りも整いやすいという違いもあります
つまり、その場の状況(赤ちゃんの状態・会陰の伸び具合・裂けそうな方向)で判断が変わります。分娩の現場では、医師・助産師がその瞬間の見立てで決めています。「切られてしまった」と感じる方もいますが、多くの場合は「そのままだともっと大きく裂ける」という判断があってのことです。
会陰切開は痛い?|3つの場面ごとの実際
もっとも知りたいのはここだと思います。痛みは「切るとき」「縫うとき」「産後」の3場面に分けて考えると、実態がつかめます。
1. 切るとき|ほとんどの方が気づきません
意外に思われるかもしれませんが、切開そのものの痛みを感じない方が非常に多いです。理由は2つあります。
- 局所麻酔をしてから切ることが多い:切開の前に会陰へ麻酔をします(この麻酔の注射がチクッとします)
- 赤ちゃんの頭で会陰が極限まで引き伸ばされ、感覚が鈍くなっている:出口が張りつめている状態では、痛みを感じにくくなります
実際、産後に「え、切ったんですか?」と驚かれることは珍しくありません。また、この瞬間は陣痛の痛みといきむことに集中しているため、そちらの感覚が上回るという事情もあります。
2. 縫うとき|麻酔をしても引っ張られる感覚はある
赤ちゃんと胎盤が出たあと、傷を縫合します。ここも局所麻酔をしますが、「痛い」というより「引っ張られる」「押される」感覚を感じる方が多いです。麻酔の効きには個人差があり、チクチクとした痛みを感じることもあります。
時間は15〜30分程度が目安です。裂傷の程度によってはもう少しかかります。この間、赤ちゃんが胸の上にいることも多く、そちらに気を取られて終わっていた、という方もいます。
「我慢するもの」と思って黙ってしまう方がいますが、麻酔を追加できます。「痛いです」と言っていい場面です。遠慮して耐える必要はまったくありません。
3. 産後|ここがいちばんつらい
実際に多くの方が「つらかった」と振り返るのは、産後の数日間です。麻酔が切れたあと、次のような場面で痛みを感じます。
- 座るとき:体重がかかって痛む。産後1週間ほどはもっともつらい動作です
- 立ち上がるとき・歩くとき:傷が引っ張られる感覚
- 排尿時:尿がしみて痛い
- 排便時:いきむのが怖い、傷が開きそうで力を入れられない
- くしゃみ・咳:腹圧がかかった瞬間に響く
ただし、この痛みは日ごとに軽くなっていきます。産院では鎮痛薬が処方されますし、授乳中でも使用できるとされているものが選ばれます。「痛み止めを飲むと母乳に影響するのでは」と我慢する方がいますが、痛みで眠れないほうが回復には不利です。遠慮せず使ってください。
縫合と抜糸|溶ける糸なら抜糸は不要
「抜糸は痛いですか」という質問をよく受けます。ここは使う糸によって答えが変わります。
| 糸の種類 | 抜糸 | 特徴 |
|---|---|---|
| 吸収糸(溶ける糸) | 不要 | 体内で自然に分解・吸収される。現在はこちらが主流。産後2〜4週ごろに糸が自然に取れてくる |
| 非吸収糸(溶けない糸) | 必要 | 産後4〜7日ごろに抜糸。処置自体は数分で終わり、チクチクする程度 |
現在は吸収糸を使う施設が大半で、抜糸が不要なケースが多くなっています。自分がどちらだったかは、退院時に確認しておきましょう。
糸がチクチクする・下着に糸がついた
吸収糸の場合、産後2〜4週ごろに糸の切れ端がチクチクしたり、下着やナプキンに糸が付いていたりすることがあります。これは異常ではなく、糸が溶けて自然に外れてきているサインです。自分で引っ張らず、そのままにしてください。気になるときは1か月健診で相談を。
痛みはいつまで続く?回復の時系列
見通しが立つと、精神的にずいぶん楽になります。おおまかな経過を示します。
| 時期 | 状態の目安 |
|---|---|
| 産後1〜3日 | 痛みのピーク。座るのがつらく、円座クッションが手放せない。鎮痛薬を使いながら過ごす時期 |
| 産後4〜7日 | 徐々に和らぐ。動き出しの一瞬が痛む程度に。溶けない糸の場合はこの時期に抜糸 |
| 産後2週間 | 日常動作の痛みはかなり軽くなる。長時間座ると違和感が残る程度 |
| 産後3〜4週間 | ほとんど気にならなくなる方が多い。糸が自然に取れてくる時期 |
| 産後1〜2か月 | 傷は治癒。ただし引きつれ感やかゆみが残ることがある |
| 産後3か月以降 | ほとんどの方で違和感も消える。性交時の痛みが残る場合は相談を |
個人差はありますが、「産後1週間がヤマ、2週間で日常が戻り、1か月でほぼ気にならなくなる」という感覚で捉えておくと大きく外れません。
- 日を追って痛みが強くなっている
- 産後1か月を過ぎても、座るのがつらいほど痛む
- 膿のような分泌物やにおいがある
- 傷の周りが赤く腫れて熱をもっている
これらは傷の感染や治癒の遅れが疑われます。1か月健診を待たずに受診してください。
傷が開くのが怖い|日常動作の注意点
「くしゃみをしたら傷が開くのでは」「排便でいきんだら裂けるのでは」という不安は、非常によく聞きます。実際に縫合した傷が完全に開いてしまうことはまれですが、負担を減らす動き方を知っておくと安心して過ごせます。
座るとき・立ち上がるとき
- 円座クッション(ドーナツ型)を使う:傷に直接体重がかからず、痛みが大きく軽減します。産院で借りられることも多いです
- 片方のお尻から先に座る:まっすぐ腰を下ろすより、体を傾けて片側ずつ着地させると衝撃が減ります
- 立ち上がるときは、いったん体を横向きにする:腹圧が会陰に集中しにくくなります
排便のとき
産後の排便は、多くの方が最初の関門だと感じます。「いきむと傷が開きそうで怖い」という不安から、便意を我慢して便秘が悪化するという悪循環がよく起こります。
- 清潔なガーゼやトイレットペーパーを会陰に軽く当てて支える:これだけで安心感が違い、実際に負担も減ります
- 便秘薬を我慢しない:産院で処方される便を柔らかくする薬(酸化マグネシウムなど)は、傷の保護という意味でも役立ちます。硬い便を無理に出すほうが傷には負担です
- 水分と食物繊維をとる
- 足を台に乗せて前傾姿勢をとる:直腸の角度が変わり、いきむ力が少なくて済みます
くしゃみ・咳のとき
手やタオルで会陰を軽く押さえてから行うと、腹圧が伝わりにくくなります。産後しばらくは意識してみてください。
その他の日常動作
- 重いものを持たない:上の子の抱っこは、立ったまま抱き上げるのではなく座って膝に乗せる形に
- 長時間同じ姿勢で座らない:血流が悪くなり治りが遅れます。こまめに姿勢を変える
- 横になれるときは横になる:会陰に体重がかからない姿勢がいちばん楽です
痛みを和らげるセルフケア
産科の現場でお伝えしている具体的な方法をまとめます。
清潔を保つ
- 拭かずに押さえる:ペーパーでこすると傷に触れて痛みます。前から後ろの向きに、そっと押し当てて水分を取ってください
- 排尿時にぬるま湯をかける:しみて痛いときは、洗浄ボトルやペットボトルでぬるま湯をかけながら排尿すると、尿が薄まって刺激が減ります。産院で洗浄ボトルをもらえることが多いので、退院時に確認を
- ナプキンをこまめに替える:悪露が傷に触れ続けると感染の原因になります。量が少なくてもトイレのたびに交換を
- 洗うのは外側だけ:腟の中は洗わないでください(正しい洗い方)
痛みへの対処
- 冷やす:産後1〜2日は、保冷剤をタオルで包んで当てると腫れと痛みが和らぎます(当てっぱなしにしない)
- その後は温める:数日経って腫れが引いたら、シャワーで温めると血流がよくなり治癒が進みます
- 処方された鎮痛薬を使う:授乳中でも使用できるとされている薬が選ばれています。痛みを我慢して眠れないほうが回復に不利です
- 締めつけない下着を選ぶ:産褥ショーツやゆったりした下着で、傷への摩擦を減らします
入浴について
産後しばらくはシャワーのみとし、湯船につかるのは1か月健診で許可が出てからが原則です。子宮口が開いた状態で湯船につかると感染のリスクがあるためです。傷の治り具合も含めて確認してもらってから再開してください。
入院中に産院へ頼んでいいこと
入院中は、遠慮して何も言わないまま過ごしてしまう方がとても多いです。ですが、産科のスタッフは言われれば対応できることをたくさん持っています。「痛いです」以外に、具体的に頼んでよいことを挙げます。
| 伝えること | してもらえること |
|---|---|
| 「痛みが強くて眠れません」 | 鎮痛薬の追加・種類の変更。授乳中でも使用できるとされているものを選んでもらえる |
| 「座るのがつらいです」 | 円座クッションの貸し出し。授乳時の姿勢の工夫(横向き授乳など)を教えてもらえる |
| 「傷を見てもらえますか」 | 傷の状態を確認してもらえる。自分では見えない部位なので、不安なときは遠慮なく |
| 「便が出せません/出すのが怖いです」 | 便を柔らかくする薬の処方、いきみ方の助言。産後の定番の相談です |
| 「排尿がしみて痛いです」 | 洗浄ボトルの貸し出し・使い方の指導 |
| 「どこをどう切ったのか教えてください」 | 切開の向きや裂傷の程度の説明。退院後のケアの参考になります |
| 「少し休ませてください」 | 赤ちゃんを新生児室で預かってもらえる施設が多い。数時間まとめて眠れます |
| 「シャワーの入り方が分かりません」 | 傷に配慮した洗い方の指導 |
- 使った糸は溶ける糸かどうか(抜糸の要否が変わります)
- 切開の向き・裂傷の程度(3度以上だった場合は、その後のフォローが変わります)
- 退院後に受診すべき症状の目安と、連絡先の電話番号
退院時はバタバタして聞きそびれがちなので、スマホのメモに質問を書いておくと確実です。
帝王切開との比較|どちらが楽なのか
「会陰切開より帝王切開のほうが楽だった」という話を聞いて、気になっている方もいると思います。これは回復のしかたが根本的に違うため、単純にどちらが楽とは言えません。傾向を整理します。
| 項目 | 経腟分娩(会陰切開あり) | 帝王切開 |
|---|---|---|
| 傷の場所 | 会陰(座る・排泄で当たる場所) | 下腹部(起き上がる・笑う・咳で響く場所) |
| 痛みのピーク | 産後1〜3日 | 術後1〜3日(麻酔が切れてから) |
| 入院期間の目安 | 4〜5日程度 | 6〜10日程度 |
| 歩けるようになるまで | 当日〜翌日 | 翌日から(点滴や尿管が入っている期間がある) |
| つらい動作 | 座る・排便・くしゃみ | 起き上がる・立ち上がる・咳・抱っこ |
| 日常への復帰 | 2〜4週程度で支障が減る方が多い | 1〜2か月かけて回復。重いものは当面制限 |
| 次の妊娠への影響 | 基本的に制限なし | 次回も帝王切開になることが多い。妊娠間隔にも配慮が必要 |
大まかにいえば、会陰切開は「座る・排泄がつらいが、動き出しは早い」、帝王切開は「開腹手術のため回復に時間がかかるが、会陰の痛みはない」という違いです。「帝王切開のほうが楽だった」という感想は、会陰の痛みが日常のあらゆる動作に付いてまわるのに対し、腹部の傷は動かなければ痛まないという性質の違いから来ていることが多いようです。
いずれにしても、分娩方法は希望だけで選べるものではなく、母体と赤ちゃんの状態から判断されます。どちらであっても、産後の体は大きなダメージを受けていることに変わりはありません。「経腟分娩だから軽い」ということはないので、周囲の方にもぜひ知っておいてほしい点です。
受診すべきサイン|感染・血腫に注意
- 痛みが日ごとに強くなっている(通常は軽くなっていきます)
- 傷の周りが赤く腫れ、熱をもっている
- 膿のような分泌物が出る、強いにおいがある
- 38℃以上の発熱がある
- 会陰がパンパンに張って、激しく痛む(血腫の可能性)
- 縫った部分がぱっくり開いてしまった
- 便やガスが自分の意思と関係なく漏れる
とくに「便やガスが漏れる」は、肛門括約筋の損傷が疑われるサインです。恥ずかしくて言い出せない方が非常に多いのですが、早く相談するほど対応の選択肢が広がります。1か月健診で必ず伝えてください。
会陰血腫について
まれに、縫合した部分の内側で出血が続き、血液がたまって会陰血腫を起こすことがあります。産後数時間〜数日のうちに、会陰が急に腫れて激しく痛むのが特徴です。入院中であればすぐスタッフに伝えてください。退院後に起きた場合も、我慢せず連絡を。
性生活の再開はいつから
検索されることが多いわりに、聞きにくいテーマです。ここも整理しておきます。
目安は1か月健診で許可が出てから
性生活の再開は、1か月健診で子宮の回復と傷の治り具合を確認し、医師の許可が出てからが基本です。悪露が続いている=子宮内の傷がまだ治っていない状態なので、それまでは控えます。
痛みが残るのは珍しくありません
許可が出たあとも、再開時に痛みを感じる方は少なくありません。理由は2つあります。
- 傷の引きつれ:縫合した部分が硬くなり、伸びにくくなっていることがあります
- ホルモンの影響による乾燥:授乳中はエストロゲンが低い状態が続くため、腟の潤いが不足しがちです。これは会陰切開の有無にかかわらず起こります
対処としては、潤滑ゼリーを使う、時間をかける、痛い体位を避ける、といった方法があります。我慢して続けると、痛みへの恐怖から余計に緊張してしまい、悪循環になります。パートナーに正直に伝えることも含めて、無理をしないでください。
痛みが数か月続く場合は、婦人科で相談する価値があります。傷の引きつれに対する処置や、保湿・潤滑の方法について助言が受けられます。詳しくは 性交痛 の記事もあわせてご覧ください。
会陰切開を避けたい人へ|できる準備
「できれば切りたくない」という希望は、まったく自然なものです。確実に避けられる方法はありませんが、会陰が伸びやすい状態をつくることで、切開や大きな裂傷のリスクを下げられる可能性があります。
会陰マッサージ(会陰ストレッチ)
妊娠後期から行う会陰マッサージは、会陰の伸展性を高め、会陰切開や重度の裂傷を減らす可能性があるとされ、複数のガイドラインでも紹介されている方法です。
- 開始時期:妊娠34週ごろから(施設によって指示が異なるため、必ず主治医・助産師に確認してから始めてください)
- 頻度:1日1回、5分程度から
- 方法:清潔な手で、専用オイルやワセリンを使い、腟の入り口の下側(肛門側)を親指で押し広げるようにゆっくり伸ばす
- ポイント:痛みを感じない範囲で。強くやりすぎないこと
- 注意:切迫早産の傾向がある方、前置胎盤の方、感染がある方は行わないでください
効果には個人差があり、行えば必ず切開を避けられるというものではありません。「やったのに切開になった」と自分を責める必要はまったくないことも、あわせてお伝えしておきます。
そのほかにできること
- 妊娠中の体重管理と適度な運動:血流と組織の柔軟性に関わります
- 骨盤底筋を意識する:締める・ゆるめるの感覚をつかんでおくと、いきむときに力を抜きやすくなります(骨盤底筋トレーニング)
- いきみ方を練習しておく:分娩時、頭が出る瞬間に「いきまないで、はっはっと呼吸して」と言われます。この指示に従えるかどうかが、実はいちばん大きいです。急に出ると裂けやすいため、ゆっくり出すことが会陰を守ります
- バースプランに希望を書いておく:「可能な範囲で会陰切開を避けたい」と伝えておけば、医療上必要でない限り配慮してもらえます。ただし「絶対に切らないでほしい」という形にすると、緊急時の判断を縛ることになります。「必要な場合は説明のうえで判断してほしい」という書き方がおすすめです
入院バッグに入れておくと助かるもの
会陰切開を経験した方が「持ってきてよかった」「買っておけばよかった」と言うものを挙げます。産院の備品として用意されているものも多いので、まず入院前に何が支給されるか確認するのが無駄がありません。
| 持ち物 | 用意の要否 |
|---|---|
| 円座クッション | 産院で貸し出している施設が多い。ただし退院後の自宅用には1つあると格段に楽。空気で膨らませるタイプなら持ち運びもしやすい |
| 産褥ショーツ(2〜3枚) | 入院中は必須。股が開くので、寝たまま診察やパッド交換ができる |
| 産褥パッド(L・M・S) | 産院で支給されることが多い。Lは1週間ほどで不要になるので買いすぎない |
| 洗浄ボトル | 排尿時にぬるま湯をかけて刺激を減らす。産院でもらえることが多いが、なければ小さめのペットボトルでも代用可 |
| ゆったりした前開きのパジャマ | 診察・授乳の両方で楽。締めつけがないものを |
| 羽織もの・厚手の靴下 | 産後は体が冷えやすく、冷えは治りを遅らせます |
| ストローキャップ/ストロー付きボトル | 起き上がるのがつらい時期に、寝たまま水分がとれる |
| 柔らかいトイレットペーパー | 傷に当たるので、硬い紙はつらい。気になる方は少量持参を |
加えて、退院後の自宅に用意しておくと助かるものとしては、円座クッション、食事の宅配やレトルトのストック、ネットスーパーの登録があります。買い物に出るのがつらい時期なので、妊娠中のうちに登録だけ済ませておくと、そのまま使えます。
次のお産でも切開になる?
「1人目で切ったから、2人目も切るのでは」と心配される方が多いのですが、必ずしもそうではありません。
むしろ経産婦さんは、一度産道が広がった経験があるため会陰が伸びやすく、2人目以降は切開せずに済むことが多い傾向があります。分娩時間も短くなることが一般的です。
ただし、赤ちゃんが大きい、お産の進み方が急、赤ちゃんの状態が心配、といった状況では再び切開になることもあります。前回の傷跡に沿って切開されることが多く、新しい場所を切るわけではありません。
前回の出産で痛い思いをした方は、そのことを妊娠中に伝えておいてください。「前回は会陰切開でとてもつらかった」と共有しておくと、今回の分娩でも配慮してもらいやすくなります。
よくある質問
Q 会陰切開は絶対に必要ですか?断ることはできますか?
A.現在はルーチンではなく、必要と判断された場合に行うのが主流です。バースプランで希望を伝えておくことはできますし、多くの施設で尊重されます。ただし赤ちゃんの状態が心配なときなど、医療上必要な場面では実施が優先されます。「絶対に切らないで」ではなく「必要な場合は説明のうえで判断してほしい」と伝えるのが現実的です。
Q 日本の会陰切開率はどのくらいですか?
A.施設によって差が大きく、一つの数字で示すのは難しいのが実情です。初産婦さんでは実施される割合が高く、経産婦さんでは低くなる傾向があります。国際的にはルーチン実施を避ける方向が主流で、日本でも同じ流れにあります。気になる場合は、通っている産院に直接方針を尋ねるのがもっとも確実です。
Q 麻酔なしで切られることはありますか?
A.通常は局所麻酔をしてから切開します。ただし赤ちゃんを一刻も早く出す必要がある緊急時には、麻酔を待たずに切開することがあります。その場面では会陰が極限まで伸びて感覚が鈍くなっているため、痛みを感じない方が多いとされています。縫合時には麻酔をしますので、そこで痛みがあれば必ず伝えてください。
Q 傷跡は残りますか?見た目は変わりますか?
A.治癒すると傷跡は目立たなくなることがほとんどで、日常生活で気になるほどの見た目の変化が残ることはまれです。ただし触ると硬いしこりのような感触が残ったり、引きつれを感じたりすることはあります。時間とともに柔らかくなっていきますが、痛みや違和感が長く続く場合は婦人科で相談してください。
Q 排便が怖くて出せません。どうすればいいですか?
A.清潔なガーゼやペーパーを会陰に軽く当てて支えると、安心感が違います。そして便秘薬を我慢しないでください。産院で処方される便を柔らかくする薬は、傷を守るためにも有効です。硬い便を無理に出すほうが、傷にははるかに負担がかかります。恥ずかしがらずに「便が出せない」と伝えてください。よくある相談です。
Q 会陰切開は保険が適用されますか?
A.正常分娩そのものは自費ですが、会陰切開・縫合などの医療処置が加わった場合、その部分が保険適用となるケースがあります。適用の範囲は分娩の経過や施設の会計方針によって異なります。また民間の医療保険で給付対象になることもあるため、加入している保険会社に確認してみてください。領収書と診療明細書は必ず保管を。
Q 産後1か月を過ぎてもチクチクします。異常ですか?
A.吸収糸が溶けて外れてくる過程で、産後2〜4週ごろにチクチクした感覚が出るのはよくあることです。また傷が治る過程でのかゆみや引きつれも起こります。ただし、痛みが強まっている、腫れや膿がある、座れないほど痛むという場合は別です。その際は健診を待たずに受診してください。
Q 切開したことがショックで、お産を思い出すとつらいです。
A.その気持ちは、決しておおげさではありません。説明のないまま処置が行われたと感じたとき、心に強く残ることがあります。出産した施設では「バースレビュー」として、お産の経過を振り返って説明を受けられることがあります。なぜ切開が必要だったのかを知るだけで、整理がつく方は少なくありません。1か月健診などで「あのとき何が起きていたのか聞きたい」と伝えてみてください。気持ちのつらさが続く場合は 産後うつ の記事にある相談窓口も参考になります。
まとめ
会陰切開は、出産で必ず行われるものではなく、必要と判断された場面で行われる処置です。産後しばらくは確かにつらいですが、多くの方が数週間で日常を取り戻していきます。
- 会陰切開は現在ルーチンではなく、必要と判断された場合に行うのが主流
- 切る目的は「赤ちゃんを早く出す」か「より大きな損傷を防ぐ」のどちらか
- 日本では肛門への裂けを避けるため正中側切開が多く選ばれる
- 「切る」か「裂ける」かはどちらがよいと一律には言えず、その場の状況で判断される
- 切開時は麻酔と会陰の伸展で痛みを感じない方が多い。つらいのは産後数日
- 現在は吸収糸が主流で抜糸は不要。産後2〜4週で糸が自然に外れる
- 目安は「1週間がヤマ、2週間で日常が戻り、1か月でほぼ気にならない」
- 円座クッション・排便時に会陰を支える・便秘薬を我慢しない、が有効
- 痛みが日ごとに強くなる、膿・発熱があるときは健診を待たず受診
- 便やガスが漏れる症状は言い出しにくいが、早く伝えるほど選択肢が広がる
- 性生活の再開は1か月健診の許可後。痛みが残るのは珍しくない
- 会陰マッサージは34週ごろから。ただし必ず主治医に確認してから
- 入院中は「痛い」以外も頼んでいい。糸の種類と切開の向きは確認しておく
- 帝王切開とは回復のしかたが違うだけで、どちらが軽いということはない
- 円座クッションは退院後の自宅用に1つあると格段に楽
- 2人目以降は切開せずに済むことが多い
最後に。会陰切開を経験した方の中には、「同意した覚えがないのに切られた」と感じて、もやもやを抱えたままの方がいます。その気持ちは、我慢しなくていいものです。なぜその判断だったのかを聞くことは、当然の権利です。1か月健診の場でも構いません。「あのとき何が起きていたのか教えてください」と伝えてみてください。
そして今、傷が痛くてこの記事を読んでいる方へ。その痛みは、必ず軽くなっていきます。今日は円座クッションを使って、できるだけ横になって過ごしてください。
参考文献
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン 産科編」(分娩管理・会陰裂傷の項)
- 日本産科婦人科学会 産科婦人科用語集・用語解説集(会陰切開/会陰裂傷)
- 日本助産師会「助産業務ガイドライン」(分娩期の管理)
- WHO "WHO recommendations: intrapartum care for a positive childbirth experience".
- Cochrane Database of Systematic Reviews "Selective versus routine use of episiotomy for vaginal birth".
- Cochrane Database of Systematic Reviews "Antenatal perineal massage for reducing perineal trauma".