胸が痛い——そう感じて調べ始めたとき、出てくる情報は心臓の話と乳がんの話がばらばらに並んでいて、自分がどちらを見ればいいのか分からないのではないでしょうか。

「胸が痛い」という言葉には、まったく別の2つが混ざっています。乳房そのものの痛みと、胸の奥(心臓・肺・食道・肋骨)の痛みです。行くべき科も、急ぐかどうかも変わります。

この記事では、まずその2つを分けるところから始めます。そのうえで危険な痛みの見分け方と、女性に特有の注意点を書いていきます。

まず2つに分ける|乳房の痛みか、胸の奥の痛みか

ここを分けるだけで、探す範囲が半分になります。

乳房・胸の表面の痛み 胸の奥の痛み
押すと 痛い場所を指1本で示せる 押しても変わらない
体を動かすと ひねる・腕を上げると変わる あまり変わらない
痛みの感じ チクチク・ピリピリ・張る感じ 締めつけられる・押さえつけられる
広がり方 その場所だけ 肩・腕・あご・背中に広がることがある
ほかの症状 基本的に痛みだけ 冷や汗・吐き気・息苦しさを伴うことがある
受診先 乳腺外科・婦人科・整形外科 循環器内科・内科(急ぐことがあります)
覚えるのはこの1点です
「痛い場所を指1本で示せるか」——示せるなら乳房や肋骨まわり、示せず漠然と奥のほうが痛いなら、胸の奥を考えます。
あわせて押して変わるか、体をひねって変わるかを確かめてください。変わるなら、心臓由来の可能性は下がります。
ただし、この切り分けは絶対ではありません

心臓が原因でも押すと痛いように感じることはありますし、その逆もあります。「押すと痛いから大丈夫」と結論づけるための道具ではありません。

次の章の危険なサインが1つでもあれば、この切り分けに関係なく動いてください。

危険な胸の痛み|すぐ救急を

先に危険なものから書きます。あてはまるものがあれば、この先を読まずに動いてください。

サイン 考えられること
締めつけられる痛みが数分以上続く 心臓。すぐに救急を考えてください
冷や汗・吐き気を伴う 同上。がまんしないでください
肩・腕・あご・背中に痛みが広がる 心臓の痛みは離れた場所に感じられます
突然の、引き裂かれるような激痛 大動脈の病気。救急です
急に息が苦しくなった+胸の痛み 肺の血管が詰まる病気・気胸。救急です
意識が遠のく・立てない 救急車を呼んでください
体を動かすと出て、休むと引くをくり返す 狭心症のパターン。早めに循環器内科へ

女性は、典型的でないことがあります

ここは知っておいてほしい部分です

心筋梗塞というと「胸を押さえて倒れる」姿を思い浮かべますが、女性では典型的な胸の痛みが出ないことが少なくありません。

かわりに出やすいのが、息切れ・吐き気・異常な疲労感・あごや背中の痛み・みぞおちの不快感です。「そこまで痛くないから大丈夫」とは言い切れません。

背中側に出るパターンは背中が痛いにも書いています。

とくに注意したい状況
  • 閉経後——女性ホルモンによる血管への保護が減る時期です(コレステロール
  • 高血圧・糖尿病・脂質異常症がある
  • 喫煙している
  • 家族に心臓の病気の人がいる
  • これまで感じたことのない種類の痛み

迷ったときは救急相談窓口に電話して構いません。「呼ぶほどか分からない」ときのための窓口です。

乳房の痛みのとき

押すと痛い場所がはっきりある、腕を動かすと変わる——そういう痛みはこちらです。

生理周期に連動しているか

まず確かめるのはここです
生理前に強くなり、生理が始まると軽くなる——このパターンなら、周期によるものです。左右両方に出て、張った感じを伴うのが典型です。
くわしくは生理前の胸の張りにまとめています。PMSの一部として現れることもあります。
周期と連動する 連動しない
生理前に強く、始まると軽くなる 時期に関係なく続く
両側に出ることが多い 片側だけのことがある
張る・重い感じ 刺すような・焼けるような
ホルモンの変動が背景 別の原因を考えます(下記)

周期と関係ない乳房の痛み

考えられること 特徴
乳腺症 30〜40代に多い。しこりのように触れることも
乳腺炎 授乳中に多い。赤み・熱感・発熱を伴います乳腺炎
下着が合っていない ワイヤーの当たる位置が痛む。意外に多い原因です
胸の筋肉・肋骨 腕を使ったあと。押すと痛い場所がはっきりあります
妊娠初期 張りと痛みが続きます(妊娠初期症状
薬の影響 ピルや一部の薬で張ることがあります
乳がんは「痛くない」ことのほうが多いものです

痛みがあると乳がんを心配される方が多いのですが、乳がんは痛みを伴わないことのほうが多いとされています。痛いこと自体は、むしろ乳がんらしくない特徴です。

ただししこりがある、皮膚がへこむ、乳頭から分泌があるという場合は、痛みの有無に関係なく受診してください(胸のしこり)。

胸の奥の痛みのとき

押しても変わらない、漠然と奥のほうが痛い——心臓以外にも原因はいろいろあります。

原因 痛みの特徴 手がかり
肋間神経痛 片側に、肋骨に沿って走るような痛み 深呼吸・体をひねると響く。押すと痛い場所がある
逆流性食道炎 みぞおちから胸の真ん中。焼けるような感じ 食後・横になったとき(逆流性食道炎
不安・パニック 数分でピークに達する。動悸・息苦しさを伴う 特定の場面で起こる(パニック障害
帯状疱疹 片側だけ、ピリピリ・焼けるような痛み 数日後に発疹が出ます帯状疱疹
肺・胸膜 息を吸うと鋭く痛む 咳・発熱を伴うことがあります(長引く咳
気胸 突然の痛みと息苦しさ やせ型の若い方に多い。救急です
更年期の動悸・違和感 ドキドキとともに胸が苦しい 更年期の動悸にまとめています
肋間神経痛は、実際にはとても多い原因です
片側だけ、肋骨に沿って、深呼吸や体をひねると響く——この形なら、まず神経や筋肉の痛みを考えます。
姿勢・長時間のデスクワーク・咳が続いたあとなどがきっかけになります。命に関わるものではありませんが、痛みは本物です。

更年期そのもので、胸は痛くなるのか

この年代の方がいちばん知りたいところだと思います。答えは「直接の原因になるというより、胸の症状が出やすい条件が重なる時期」です。

この時期に起きること 胸への影響
自律神経が揺れる 動悸・息苦しさ・胸の圧迫感として出ます更年期の動悸
ホルモンの変動が大きくなる 乳房が張る時期と張らない時期の差が読めなくなります
眠りが浅くなる 痛みを感じ取りやすくなります(不眠
不安が強くなりやすい 胸の症状に意識が向き、悪循環になります
姿勢が変わる・肩がこる 肋骨まわりの痛みが出やすくなります
ただし「更年期だから」で止めないでください

この年代は、心臓の病気が増え始める時期でもあります。閉経で血管への保護が減るためで、症状が更年期と重なるぶん見分けがつきにくくなります。

更年期のせいにするのは、体の原因を除外したあとです。順番を守れば、更年期の症状として対応する道もきちんとあります(更年期の症状HRT)。

低用量ピルを飲んでいる方へ

ここは必ず読んでください

低用量ピルを飲んでいる方が「胸の痛み」と「急な息切れ」を同時に感じたときは、血のかたまりが肺の血管に詰まる状態(肺血栓塞栓症)を考えます。頻度は高くありませんが、命に関わるため、すぐに受診が必要です。

サイン 場所
急な息切れ・胸の痛み 肺。すぐに受診してください
ふくらはぎの痛み・腫れ(片側) 脚の静脈。ここから肺へ飛びます
激しい頭痛・視野の異常
ろれつが回らない・片側の脱力 脳。救急です
受診のときに、必ずピルを飲んでいると伝えてください
この一言があるかどうかで、医師が考える範囲が変わります。お薬手帳やシートを持参してください。
ただし、自己判断でピルをやめる前に受診してください。くわしくは低用量ピルの副作用に書いています。リスクが高くなる条件(喫煙・年齢・長時間の移動など)も、そちらで確認できます。

なお、ピルを飲み始めた時期に胸が張る・軽く痛むというのは、よくあることです。これは血栓の話とは別で、多くは数か月で落ち着きます(飲み始めの1ヶ月)。急な息切れを伴うかどうかが分かれ目です。

窓辺の木のテーブルに置かれた、開いたノートとペン、水のグラス、たたんだニットのブランケット

ストレスで胸が痛むとき

よく検索される問いなので、具体的に書きます。「ストレスですね」と言われて納得できないまま帰ってきた方も多いと思います。

どんな痛み方になるのか

特徴 説明
チクチク・ズキンと一瞬 数秒で消える痛みをくり返すことが多い
場所が日によって変わる 心臓由来の痛みは、ふつう毎回同じ場所です
安静にしていても出る むしろ静かなときや夜に気づきやすい
何かに集中していると忘れている ここは大きな手がかりです
動悸・息苦しさを伴う 呼吸が浅くなり、肋骨まわりがこわばります
「気のせい」ではありません
緊張が続くと胸まわりの筋肉がこわばり、呼吸が浅くなります。そして同じ刺激でも痛みを強く感じ取るようになります。実際に体で起きている現象です。
自律神経失調症不安障害もあわせてご覧ください。
ただし、順番を間違えないでください

「ストレスだろう」と自分で決める前に、体の原因を除外しておくことが大切です。とくに心臓は、見逃したときの影響が大きいものです。

一度きちんと検査を受けて「異常なし」と分かってから、ストレスの話に進む。この順番なら安心して対処できます。

どのくらい続いたら受診?

よく検索される問いです。時間の長さで、考え方が変わります。

続き方 どうするか
数秒〜1分の痛みをくり返す 心臓由来は考えにくい。ただし続くなら一度受診を
数分〜20分ほど締めつけられる 狭心症のパターン。早めに循環器内科へ
20分以上続く強い痛み 救急を考えてください
体を動かしたときだけ出て、休むと引く くり返すなら受診。放置しないでください
2週間以上、毎日のように続く 原因を調べる段階です
生理前だけ・数日で治まる 周期によるものの可能性。記録してみてください
迷ったときの基準
「今までに感じたことのない痛み」なら、時間に関係なく受診してください。くり返している痛みより、初めての痛みのほうが注意が必要です。
そして冷や汗・息苦しさ・吐き気を伴うなら、待たずに救急です。
柔らかい光が入る、人のいない明るい診察室のベッドと椅子

「検査で異常なし」と言われたあとに

心電図もレントゲンも受けて、何も出なかった。安心する一方で、痛みは続いているのだから話は終わっていません。

まず、何を調べたかを確かめてください

1回の心電図で分かるのは「そのときの心臓」です
狭心症は症状が出ていないときの心電図では正常に見えることがあります。「異常なし」は、その瞬間に異常がなかったという意味です。
体を動かしたときだけ出る・くり返しているという場合は、そのことを伝えてください。運動しながら調べる検査や、24時間つけて記録する検査という選択肢があります。

心臓以外で、残っている可能性

考えられること 確かめ方
肋間神経痛・筋肉の痛み 押すと痛い場所があるか。体をひねると変わるか
逆流性食道炎 食後や横になったときか。胸やけがなくても起こります
乳房側の原因 乳腺外科は受けましたか。内科では調べません
不安・パニック 特定の場面で起こるか。数分でピークに達するか
甲状腺 動悸・汗・体重変化があるなら血液検査をバセドウ病
貧血 だるさ・息切れを伴うなら(貧血
「異常なし」は「原因がない」ではありません

その日の検査で、急いで対応すべきものが見つからなかったという意味です。安心してよい情報であると同時に、そこで終わりではありません。

「心臓は調べて問題ありませんでした」と伝えれば、次の科で話が早く進みます。検査結果の紙を持っていってください。

何科に行くか

状況 受診先
締めつけ・冷や汗・息苦しさ 救急。ためらわないでください
押しても変わらない・奥のほうが痛い 循環器内科。なければ内科
乳房に痛い場所がはっきりある・しこりがある 乳腺外科
生理周期に連動している 婦人科
体をひねると痛む・押すと痛い 整形外科
胸やけ・食後に出る 消化器内科
ピルを飲んでいて、急な息切れがある すぐ受診。ピルを飲んでいると必ず伝えてください

伝えるとよいこと

  • いつから、どのくらい続くか
  • 押すと変わるか、体を動かすと変わるか——必ず聞かれます
  • 痛みの感じ(締めつけ・チクチク・焼ける
  • 広がる場所があるか(肩・腕・あご・背中)
  • 生理周期との関係、妊娠の可能性
  • 飲んでいる薬。とくにピル
  • 喫煙・持病・家族の病気
検査は、思っているより手早く終わります
心臓が疑われるときは心電図・血液検査・胸のレントゲンが基本で、いずれも短時間です。ここで大きな問題が除外できると、次に進みやすくなります。
「大げさかもしれない」と思って受診をためらうより、確かめてしまうほうがずっと楽になります。

よくある質問

Q 危険な胸の痛みは、どう見分けますか?

A.締めつけられる痛みが数分以上続く、冷や汗や吐き気を伴う、肩・腕・あご・背中に広がる、急に息が苦しくなった——このどれかがあれば救急を考えてください。逆に、押すと痛い場所が指1本で示せる、体をひねると痛みが変わる、数秒で消える痛みをくり返す、という場合は心臓由来の可能性が下がります。ただし切り分けは絶対ではありません。

Q 胸痛は、どのくらい続いたら病院に行くべきですか?

A.20分以上続く強い痛みは救急です。数分から20分ほどの締めつけをくり返す場合は狭心症のパターンなので、早めに循環器内科へ。体を動かすと出て休むと引くことをくり返すのも同じです。数秒の痛みでも2週間以上毎日のように続くなら原因を調べる段階です。そして「今までに感じたことのない痛み」は、時間に関係なく受診してください。

Q ストレス性の胸痛は、どんな痛みですか?

A.チクチク、ズキンと一瞬走る痛みを何度もくり返すことが多く、場所が日によって変わるのが特徴です。安静にしていても出て、むしろ静かなときや夜に気づきやすくなります。何かに集中していると忘れているというのも手がかりです。気のせいではなく、筋肉のこわばりと呼吸の浅さという形で実際に起きています。ただしストレスと決める前に、体の原因を除外しておいてください。

Q 胸が痛いとき、まず何をすればいいですか?

A.まず危険なサインがないかを確認してください。締めつけ・冷や汗・息苦しさがあれば救急です。なければ、痛い場所を指1本で示せるか、押すと変わるか、体をひねると変わるかを確かめてください。これで乳房や肋骨まわりの痛みか、胸の奥の痛みかがおおよそ分かり、行くべき科が決まります。いつ・どんなときに痛むかをメモしておくと、受診で役立ちます。

Q 胸が痛いのは、乳がんのサインですか?

A.乳がんは痛みを伴わないことのほうが多いとされています。痛いこと自体は、むしろ乳がんらしくない特徴です。ただししこりがある、皮膚がへこむ、乳頭から分泌があるという場合は、痛みの有無に関係なく乳腺外科を受診してください。周期と関係なく片側だけが痛み続ける場合も、一度確かめておくと安心です。

Q 低用量ピルを飲んでいます。胸の痛みは副作用ですか?

A.飲み始めの時期に胸が張る・軽く痛むというのはよくあることで、多くは数か月で落ち着きます。ただし分けて考えてほしいのが、胸の痛みと急な息切れが同時にあるときです。これは血のかたまりが肺の血管に詰まる状態を考えるサインで、すぐに受診が必要です。片側のふくらはぎの痛みや腫れ、激しい頭痛も同じです。受診のときは必ずピルを飲んでいると伝えてください。

Q 深呼吸すると胸が痛みます。何が考えられますか?

A.多いのは肋間神経痛です。片側だけ、肋骨に沿って走るような痛みで、押すと痛い場所があり、体をひねると響きます。姿勢や長時間のデスクワーク、咳が続いたあとがきっかけになります。ただし突然の息苦しさを伴う場合は気胸や肺の血管の問題を考えるため、すぐに受診してください。咳や発熱を伴うときは肺や胸膜の炎症のこともあります。

まとめ

「胸が痛い」には2つの意味が混ざっています。分けるところから始めれば、どこへ行けばいいかが決まります。

この記事のポイントまとめ
  • 痛い場所を指1本で示せるか——示せるなら乳房・肋骨、示せないなら胸の奥
  • 押して変わる・体をひねって変わるなら、心臓由来の可能性は下がる
  • 締めつけ・冷や汗・息苦しさ・肩やあごへの広がりは救急
  • 女性は典型的な胸の痛みが出ないことがある——息切れ・吐き気・異常な疲労感
  • 生理前に強く、始まると軽くなるなら周期によるもの
  • 乳がんは痛みを伴わないことのほうが多い。痛いこと自体は乳がんらしくない
  • 低用量ピル服用中の「胸の痛み+急な息切れ」は、すぐ受診
  • 片側・肋骨に沿う・深呼吸で響くなら肋間神経痛のことが多い
  • 20分以上続く強い痛みは救急。2週間以上続くなら原因を調べる
  • 「今までに感じたことのない痛み」は、時間に関係なく受診

今日できるのは、痛むところを指で押してみることです。押して痛みが変わるか、場所を1点で示せるか。それだけで、乳腺外科と循環器内科のどちらへ行けばいいかが見えてきます。

この記事について

femnote 編集部

生理・妊活・フェムケア・更年期など女性の健康に関する情報を、厚生労働省「e-ヘルスネット」や日本産科婦人科学会をはじめとする各学会の診療ガイドラインなど、公的な資料をもとに編集しています。診断や治療の判断については、必ず医療機関にご相談ください。

参考文献

  • 日本循環器学会「急性冠症候群ガイドライン」
  • 日本循環器学会「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」
  • 日本性差医療学会「女性の虚血性心疾患に関するステートメント」
  • 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン」
  • 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編」(低用量経口避妊薬の項)
  • 日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン」
  • Canto JG, et al. "Association of Age and Sex With Myocardial Infarction Symptom Presentation and In-Hospital Mortality." JAMA. 2012;307(8):813-22.