「陣痛の痛みが、どうしても怖い」——そう感じている方は、決して少なくありません。そして同時に、「無痛分娩に興味はあるけれど、赤ちゃんに影響はないのかな」「お金はいくらかかるんだろう」「まわりに言われそうで、なんとなく言い出しにくい」と、口に出せないまま検索している方も多いのではないでしょうか。

助産師として分娩に立ち会ってきたなかで、無痛分娩について相談される機会はこの数年で明らかに増えました。一方で、インターネットで調べようとすると出てくるのは「その病院ではどうやっているか」という各施設の案内ページばかりで、自分にとってどうなのかを考えるための材料がまとまっていない、という声もよく聞きます。

この記事では、無痛分娩をおすすめすることも、やめたほうがいいと言うこともしません。仕組み・メリット・リスク・お金・産院の選び方を、いいところも不都合なところも同じ熱量で並べます。読み終えたときに「自分は何を大事にしたいか」が少しはっきりしていれば、それがいちばんの目的です。

無痛分娩とは?「痛みがゼロになる分娩」ではありません

無痛分娩とは、麻酔を使って陣痛の痛みを和らげながら出産する方法のことです。「無痛」という言葉が使われているため誤解されやすいのですが、痛みが完全にゼロになるわけではありません。多くの場合、痛みは残りますが「耐えられる範囲まで下げる」ことを目指します。この点を最初に知っておくかどうかで、実際の出産の受け止め方がかなり変わります。

硬膜外麻酔という方法が使われます

日本で行われている無痛分娩のほとんどは、硬膜外麻酔(こうまくがいますい)という方法です。背中の腰のあたりから、背骨のなかにある「硬膜外腔(こうまくがいくう)」という細いすき間に、髪の毛より少し太いくらいの柔らかいチューブ(カテーテル)を入れます。そこから麻酔薬を流すことで、お腹から下半身にかけての痛みの信号が脳に伝わりにくくなります。

チューブを入れるのは最初の一度だけで、あとはそこから追加で麻酔薬を足していきます。分娩が長引いても、そのつど背中に針を刺し直す必要はありません。意識ははっきりしたままで、会話もできますし、赤ちゃんが生まれる瞬間も自分の目で見られます。全身麻酔のように眠ってしまう方法ではない、というのは押さえておきたいポイントです。

硬膜外麻酔と「脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔(CSE)」の違い

施設によっては、硬膜外麻酔に加えて脊髄くも膜下麻酔を組み合わせる方法(CSE:脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔)が使われることがあります。硬膜外麻酔だけの場合、効き始めるまでに15〜20分ほどかかることがありますが、CSEでは数分で痛みが軽くなり始めます。そのぶん、すでに痛みが強くなってから開始する場合などに選ばれやすい方法です。

どちらが優れているというものではなく、施設の方針や、そのときの分娩の進み具合によって選ばれます。なお、東京都の助成制度など公的な支援でも、この2つの方法がいずれも対象とされています。

「和痛分娩」との違いはありますか

「和痛分娩(わつうぶんべん)」という言葉を見かけることもあります。実は、無痛分娩と和痛分娩に医学的な定義の違いはありません。「無痛」という言葉だと痛みがまったくなくなると誤解されやすいため、より実態に近い表現として「和痛」を使っている施設がある、というのが実際のところです。

ただし施設によっては、硬膜外麻酔を使うものを「無痛分娩」、点滴や筋肉注射の鎮痛薬で痛みをやわらげるものを「和痛分娩」と呼び分けているところもあります。パンフレットに「和痛分娩」と書かれていたら、どちらの意味で使っているのかを必ず確認してください。方法が違えば、痛みの和らぎ方も費用もまったく変わってきます。

実際、痛みはどのくらい減るのでしょうか

感じ方には個人差が大きく、一律には言えません。ただ、産後にお話をうかがうと「陣痛の痛みが10だったとしたら、2〜3くらいになった」「お腹が張っている感覚はあるけれど、痛みとしてはつらくない」という表現をされる方が多い印象です。

また、痛みの残り方には特徴があります。子宮が収縮する痛みは和らぎやすい一方で、赤ちゃんが下りてきて産道が押し広げられる感覚や、いきむ直前の圧迫感は残りやすい傾向があります。「まったく何も感じない状態で産みたい」と期待していると、ここでギャップを感じることがあります。

無痛分娩について最初に知っておきたいこと
  • 痛みはゼロにはならず、「耐えられる範囲まで下げる」のが目的です
  • 意識ははっきりしていて、生まれる瞬間も自分で見られます
  • 「無痛分娩」と「和痛分娩」に医学的な定義の違いはありません
  • お腹の張りや、赤ちゃんが下りてくる圧迫感は残りやすいです

日本の無痛分娩の割合|6年で約2.7倍に増えています

「まわりで無痛分娩にした人をあまり聞かない」と感じている方もいるかもしれませんが、状況はここ数年で大きく変わっています。

2018年の5.2%から、2024年には13.8%へ

日本産婦人科医会が全国の分娩施設を対象に行っている調査によると、日本全体の無痛分娩の割合は2018年報告の5.2%から、2024年報告では13.8%へと、6年間で約2.7倍に増えています。おおよそ7〜8人に1人が無痛分娩を選んでいる計算です。

また同じ調査では、2024年時点で全国に分娩施設が1,948施設あり、そのうち787施設(約4割)が無痛分娩を取り扱っていると報告されています。10年前と比べれば、選択肢としてはかなり現実的になったと言えます。

フランス82%・アメリカ73%との差

一方、海外に目を向けると数字はまったく違います。経腟分娩における硬膜外麻酔の併用率は、フランスで82.2%、アメリカで73.1%と報告されています。欧米では「痛みを和らげて産むこと」が特別な選択ではなく、標準的な選択肢のひとつとして扱われている国が多いのです。

国・地域無痛分娩(硬膜外麻酔)の割合
フランス約82%
アメリカ約73%
日本約13.8%(2024年報告)

日本で広がりにくかった3つの理由

この差には、いくつかの事情が重なっています。

ひとつめは、麻酔を担当できる人手の問題です。無痛分娩には、24時間いつ陣痛が来ても麻酔を開始できる体制が求められます。麻酔科医が常駐している施設は限られており、産科医が麻酔も担当している施設も少なくありません。夜間や休日も含めて対応するには、それなりの人員が必要になります。

ふたつめは、日本の分娩施設の構造です。日本では小規模な診療所での出産が多く、少人数のスタッフで運営されている施設が大半です。無痛分娩に対応するには、麻酔の管理に人手を割く必要があり、体制づくりのハードルが高くなります。実際、無痛分娩の実施状況には地域差が非常に大きいことも報告されています。

みっつめが、「お腹を痛めて産んでこそ」という文化的な空気です。これは数字には表れませんが、相談を受けていると確実に存在するものだと感じます。次の章で、あらためて向き合いたいと思います。

「無痛分娩はよくない」と言われることについて

無痛分娩を検索すると、「無痛分娩 よくない」「無痛分娩 むかつく」といった言葉が並びます。実際、これらは非常に多く検索されているキーワードです。医学的な情報ではなく、人の言葉に傷つけられたときの検索だと感じます。ここは避けずに書きます。

「お腹を痛めて産んでこそ母親」という言葉について

この言葉を、親世代や配偶者、ときには友人から言われて落ち込んでしまう方がいます。産後の外来でも「無痛にしたと言ったら、義母に『楽をしたのね』と言われた」という話をうかがったことがあります。

はっきり書きます。出産時の痛みの強さと、赤ちゃんへの愛情の深さに関係があるという医学的な根拠は示されていません。痛みは、母親としての資格を測るものではありません。帝王切開で出産した方に対しても同じような言葉が向けられることがありますが、それも同様に根拠のない話です。帝王切開にせよ無痛分娩にせよ、赤ちゃんが無事に生まれてくるために選んだ方法であることに変わりはありません。

痛みを我慢することにも、コストがあります

「痛みに耐える」という選択自体は、その人が納得しているなら、まったく問題ありません。実際、陣痛の痛みを含めて自分の出産だと感じたいという方もいますし、その気持ちも尊いものです。

ただ、忘れられがちなのは、強い痛みが長く続くこと自体にも体への負担があるという点です。痛みが強いと血圧が上がりやすくなり、呼吸が浅く速くなって体力を消耗します。眠れないまま何十時間も陣痛が続けば、いざいきむ段階になって力が残っていないということも起こります。「痛みに耐えること」が常に安全側の選択とは限りません。どちらの方法にも、得るものと引き換えになるものがあります。

言われたときに、どう受け止めればいいか

正面から議論して分かってもらおうとすると、こちらが消耗します。実際に役に立ったと聞くのは、次のような伝え方です。

  • 「先生と相談して決めたので」——医療者を主語にすると、それ以上踏み込まれにくくなります
  • 「血圧のこともあるから」——医学的な理由を一言添えると、納得されやすい傾向があります
  • そもそも言わない——分娩方法を家族全員に報告する義務はありません

逆に、自然分娩を選んだ方が「今どき、なんで無痛にしないの?」と言われて傷つくこともあります。どちらの方向でも、他人の分娩方法に評価を下すことに意味はありません。安心して産める方法を、自分とパートナーと医療者で選んでいくもの、というだけのことです。

もし出産前後で気持ちが大きく落ち込んでいるときは

「こんなふうに産みたかったのに」という思いが強く残ったり、出産の場面を思い出してつらくなったりすることがあります。産後の心の不調は、気持ちの持ちようだけの問題ではありません。眠れない、涙が止まらない、赤ちゃんをかわいいと思えない、といった状態が2週間以上続くときは、産後うつの記事にある相談先も参考にしながら、早めに助産師や医師に声をかけてください。

30代前半の女性が自宅のテーブルでノートに書き込みながら、産院の資料や母子健康手帳を見比べて出産方法を検討している様子

無痛分娩のメリット

無痛分娩を選ぶことで期待できる点を整理します。あくまで「期待できる」ことであり、すべての方に当てはまるものではありません。

体力の消耗を抑えやすい

陣痛は、数時間から場合によっては1日以上続きます。痛みで眠れず、食事もとれない状態が続くと、体力はどんどん削られていきます。痛みが和らぐことで途中で眠ったり、食事や水分をとったりできる方が多く、いきむ段階に力を残しやすくなります。とくに初産で分娩が長引きそうなときには、この差が大きく出ることがあります。

産後の回復を早く感じられることがある

出産時の消耗が少なかったぶん、産後すぐから赤ちゃんのお世話に向き合いやすかった、と話される方がいます。ただしこれは体感の話で、産後の回復スピードそのものが医学的に速くなると証明されているわけではありません。悪露の経過や子宮の戻り方は、分娩方法にかかわらず個人差が大きいものです。

血圧が上がりにくくなる

痛みは血圧を上昇させます。そのため、妊娠高血圧症候群や心臓の持病がある方では、痛みを和らげることが医学的なメリットになることがあります。こうしたケースでは、医師のほうから無痛分娩を提案されることもあります。

出産への恐怖・不安が軽くなる

過去の出産がつらかった方、痛みへの恐怖が非常に強い方、パニックになりやすい方にとって、「痛みをコントロールできる」と分かっていること自体が支えになる場合があります。妊娠中ずっと出産を恐れて過ごすより、落ち着いて過ごせるほうが心身の負担は軽くなります。

落ち着いて出産の瞬間を迎えられる

痛みでいっぱいいっぱいにならずに済んだことで、「赤ちゃんが出てくる瞬間をちゃんと見られた」「はじめて抱いたときのことを覚えている」と話される方もいます。これも感じ方には差がありますが、大切にしたい価値のひとつです。

無痛分娩のリスク・デメリットを正直に整理します

ここがいちばん知りたい部分だと思います。医療行為である以上、リスクはゼロにはなりません。頻度の高いものから順に整理します。

比較的よく起こる副作用

症状内容と対応
血圧の低下麻酔の影響で血管が広がり、血圧が下がることがあります。点滴や薬で対応します。分娩中は定期的に血圧を測定しています
足の力が入りにくい下半身の感覚が鈍くなるため、自力で歩けなくなることがあります。分娩台の上で過ごす時間が長くなります
尿意を感じにくい膀胱にたまった感覚が分かりにくくなるため、管(カテーテル)で尿を出すことがあります。産後に一時的に排尿しづらさが残る方もいます
かゆみ麻酔薬の種類によって、顔や体にかゆみが出ることがあります。多くは一時的です
発熱硬膜外麻酔を使うと、体温がやや上がることが知られています。感染とは限りませんが、区別のため検査が行われることがあります
吐き気血圧の低下などに伴って出ることがあります

硬膜穿刺後頭痛(こうまくせんしごずつう)

チューブを入れる際に、意図せず硬膜という膜を貫いてしまうことがあり、その場合に起き上がると強い頭痛が出ることがあります。頻度は1%前後とされています。横になっていると楽になり、起き上がると悪化するのが特徴です。多くは数日で改善しますが、症状が強い場合には「ブラッドパッチ」という処置が行われることがあります。産後の頭痛は珍しくありませんが、起き上がると悪化するタイプの頭痛は必ずスタッフに伝えてください。

吸引分娩・鉗子分娩が増える傾向があります

ここは正直にお伝えしておきたい点です。硬膜外麻酔を使うと、いきむ力が弱まる、あるいはいきむタイミングがつかみにくくなることから、吸引分娩や鉗子分娩といった器械を使った分娩になる割合が高くなるという報告があります。器械分娩になると、会陰切開が必要になる可能性も上がります。

ただし、近年は麻酔薬の濃度を下げていきむ力を残す工夫が広がっており、以前ほどの差は出にくくなってきているとも言われています。

帝王切開が増えるわけではありません

「無痛分娩にすると帝王切開になりやすい」と心配される方がいますが、硬膜外麻酔によって帝王切開になる割合が上がるという結果は示されていません。日本産婦人科医会の調査でも、無痛分娩を実施している施設で帝王切開率が上昇することはないと報告されています。

陣痛促進剤を使うことが多くなります

麻酔によって陣痛が弱まることがあるため、陣痛促進剤(子宮収縮薬)を併用することが一般的です。また後述する計画無痛分娩では、あらかじめ日程を決めて分娩を始めるため、促進剤の使用が前提になります。促進剤は適切に管理されていれば有用な薬ですが、使用中は赤ちゃんの心拍とお腹の張りを継続的に監視することになります。

きわめてまれですが、重い合併症もあります

頻度は非常に低いものの、硬膜外血腫・硬膜外膿瘍・局所麻酔薬中毒・全脊髄くも膜下麻酔といった重い合併症が報告されています。いずれも数万分の1といった単位のまれな出来事ですが、ゼロではありません。だからこそ、緊急時にすぐ対応できる体制が整っている施設を選ぶことが重要になります。産院の選び方の章で、確認方法を具体的に書きます。

赤ちゃんへの影響はどうですか

硬膜外麻酔は背中のごく限られた場所に麻酔薬を入れる方法で、血液を通して赤ちゃんに移行する量はごくわずかであるとされています。生まれてすぐの赤ちゃんが眠りがちになるといった影響は、全身麻酔や点滴の鎮痛薬に比べてはるかに少ないと考えられています。ただし、母体の血圧が大きく下がった場合には赤ちゃんの心拍に影響が出ることがあるため、分娩中は継続的に心拍が監視されます。

「思ったより痛かった」「効かなかった」が起こる理由

実際に一定の割合で起こります。理由はいくつかあります。

  • 効き方に左右差が出ることがある——片側だけ痛みが残るケースがあります。体位を変えたり、麻酔薬を調整したりして対応します
  • 開始のタイミングが遅かった——痛みがかなり強くなってから始めると、落ち着くまでに時間がかかります
  • 分娩の最終段階の痛み——赤ちゃんが下りてくるときの圧迫感は残りやすく、ここを「痛い」と感じる方がいます
  • 夜間・休日で麻酔の開始が待たされた——体制によっては、すぐに始められないことがあります

痛みが残っているのに我慢する必要はまったくありません。「まだ痛いです」と伝えることは、わがままではなく必要な情報共有です。調整できる余地があることのほうが多いので、遠慮せず声に出してください。

無痛分娩を受けられない人・注意が必要な人

希望しても、医学的な理由で硬膜外麻酔を行えない場合があります。代表的なものを挙げます。

状況理由
血が固まりにくい状態・抗凝固薬を使用中チューブを入れる際の出血が止まりにくく、硬膜外血腫のリスクが上がるため
背中の穿刺部位に感染がある感染が背骨のなかに広がるおそれがあるため
全身の重い感染症・敗血症同様に感染が広がるリスクがあるため
背骨の強い変形・脊椎の手術歴チューブを入れることが難しい、または安全に行えない場合があるため
循環動態が不安定な状態血圧低下に耐えられない可能性があるため
本人が同意していない説明を理解し同意することが前提の医療行為であるため

また、腰痛の持病がある方や、以前に腰の手術を受けた方は「できないのでは」と心配されることがありますが、実際にできるかどうかは診察と画像を見て個別に判断されます。自己判断であきらめず、妊娠中の早い段階で相談してください。

なお、まれに医学的な必要性から無痛分娩がすすめられることもあります。心疾患や重い高血圧などで、陣痛の痛みによる負担を避けたほうがよいと判断されるケースです。この場合は保険が適用されることもあります。

「初産では無痛分娩ができない」と言われるのはなぜ?

産院に問い合わせて「初産の方は無痛分娩をお受けしていません」と言われ、驚いたという相談をよく受けます。ここは誤解が多いところなので、はっきりさせておきます。

医学的な禁忌ではありません

「初産だから硬膜外麻酔ができない」という医学的な理由はありません。むしろ初産のほうが分娩に時間がかかりやすく、痛みの持続時間も長くなる傾向があるため、痛みを和らげる意味は大きいとも言えます。実際、初産の方に無痛分娩を行っている施設はたくさんあります。

理由は施設側の体制にあります

断られる理由の大半は、施設側の事情です。

  • 分娩が長引くと、麻酔の管理時間も長くなる——初産では10時間を超えることも珍しくなく、その間ずっと麻酔を管理できる人員が必要になります
  • 計画分娩がしにくい——初産では子宮口が熟しにくく、計画的に分娩を進めるのが経産婦さんより難しい場合があります
  • 器械分娩になる可能性がやや高い——対応できる体制が求められます

つまり「初産だから危ない」のではなく、「初産だと手間と時間がかかるため、限られた人員では受けきれない」というのが実態に近いのです。

初産で希望するなら、早めに動くこと

無痛分娩を扱う施設は分娩予約が早く埋まる傾向があり、初産の枠を設けている施設ではさらに競争率が上がります。希望がはっきりしているなら、妊娠が分かった時点で問い合わせるのが現実的です。妊娠初期の産院選びについては、妊娠4ヶ月の記事でも触れています。

計画無痛分娩の流れ|入院から出産まで

無痛分娩には、大きく分けて「陣痛が自然に来るのを待つ方法」と「あらかじめ日程を決めて入院する方法(計画無痛分娩)」があります。24時間体制が難しい施設では、後者が採用されることが多くなります。

計画分娩と自然陣痛待ちの違い

項目計画無痛分娩自然陣痛を待つ方法
入院のタイミングあらかじめ決めた日に入院陣痛が来てから入院
麻酔の開始計画的に開始できる体制によっては待つことがある
陣痛促進剤基本的に使用する必要に応じて
家族の予定立てやすい(上の子の預け先など)立てにくい
注意点予定日前に陣痛が来ると計画どおりにいかないことがある夜間・休日は麻酔開始が遅れる可能性がある

入院から出産までの一般的な流れ

施設によって差がありますが、計画無痛分娩ではおおよそ次のように進みます。

タイミング内容
前日または当日朝入院。内診で子宮口の状態を確認。必要に応じて子宮口を広げる処置(バルーンなど)を行う
当日朝点滴を確保。赤ちゃんの心拍とお腹の張りを測るモニターを装着
準備が整ったら背中から硬膜外カテーテルを挿入。横向きに丸くなった姿勢で行う
麻酔開始少量から麻酔薬を入れ、効き方と血圧を確認しながら調整
陣痛促進陣痛促進剤を点滴などで開始。子宮口の開き具合を確認しながら進める
子宮口が全開に近づくいきむ練習。スタッフの声かけに合わせてタイミングを合わせる
出産必要に応じて吸引などを併用。麻酔は産後の処置まで続けることが多い
産後カテーテルを抜去。足の感覚が戻るまではベッド上で安静

背中にチューブを入れるとき、痛くないですか

よく聞かれる質問です。まず皮膚に局所麻酔を打つので、その注射のときにチクッとした痛みがあります。そのあと本体のチューブを入れるときは、「押される感じ」「重い感じ」と表現される方が多く、強い痛みを感じる方は多くありません。

むしろ大変なのは姿勢のほうです。エビのように背中を丸めて、陣痛の合間にじっとしている必要があります。動くと危険なので、陣痛が来たら「今、来ています」と声に出して伝えてください。その間は処置を止めてもらえます。

いきむタイミングが分からないときは

麻酔が効いていると、「いきみたい」という感覚がつかみにくくなることがあります。その場合は、お腹の張りを測るモニターを見ながら、助産師が「今です」と声をかけます。感覚がなくてもいきむことはできますので、指示に合わせて息を止めて力を入れれば大丈夫です。ここは遠慮なく頼ってください。

麻酔が効いている間、どう過ごすのですか

意外と情報が少ないのがこの部分です。想像しにくくて不安になる方が多いので、具体的に書いておきます。

できること・できないこと実際のところ
会話ふつうにできます。意識ははっきりしています
スマートフォン多くの施設で見られます。音楽を聴いている方もいます。ただし分娩が進むと、それどころではなくなることが多いです
歩く足に力が入りにくくなるため、基本的にはベッド上で過ごします。転倒防止のため、勝手に立ち上がらないでください
トイレ尿意を感じにくくなるので、管(カテーテル)で尿を出すことが多いです。処置自体に痛みはほとんどありません
食事施設によります。水分やゼリー飲料はOKでも固形物は禁止、という施設が多いです。緊急で帝王切開になった場合に備えた対応です
眠る眠れる方は眠っていて大丈夫です。体力の温存になります
付き添い立ち会いの可否・人数・入室のタイミングは施設ごとに異なります。処置の間は一度退室をお願いされることがあります
体位効きに左右差が出たときなどに、向きを変えるようお願いされることがあります。自分では動きにくいので、介助してもらってください

意外に感じるかもしれませんが、「痛くないので手持ち無沙汰だった」と話される方も少なくありません。陣痛の合間に、パートナーと今後の話をしていたという方もいます。

出産後の明るい病室で、日本人の女性がベッドに寄りかかりながら新生児をおだやかに抱いている様子

無痛分娩の費用|相場と使えるお金の制度

費用は、無痛分娩を検討するうえで大きな判断材料になります。ここは具体的に整理します。

相場は「自然分娩の費用+10万〜20万円」

無痛分娩は、通常の出産費用に麻酔の費用が上乗せされる形になります。上乗せ分の相場は10万〜20万円程度で、施設や地域によって幅があります。都市部では高めになる傾向があり、なかには追加費用なしで無痛分娩を行っている施設もあります。

注意したいのは、条件によって金額が変わる場合があることです。時間外・休日に麻酔を開始した場合の加算、計画分娩のための入院日数が延びた場合の費用、途中から無痛分娩に切り替えた場合の扱いなど、施設ごとにルールが異なります。金額だけでなく「どこまでが含まれるか」を確認してください。

健康保険は使えますか

正常な妊娠・出産は病気ではないため、健康保険の対象になりません。無痛分娩も同様で、原則として全額自費です。ただし、心疾患や重い高血圧など医学的な理由で陣痛の負担を避ける必要があると判断された場合には、例外的に保険が適用されるケースがあります。判断は医師が行います。

出産育児一時金は、無痛分娩でも同じように使えます

健康保険から支給される出産育児一時金(原則50万円)は、分娩方法にかかわらず支給されます。無痛分娩だからといって減額されることはありません。多くの施設が「直接支払制度」に対応しているので、窓口では一時金を差し引いた差額だけを支払う形になります。

たとえば、出産費用の総額が65万円だった場合、窓口で支払うのは差額の15万円程度、というイメージです。

医療費控除の対象になります

無痛分娩の費用は、出産に関する費用として医療費控除の対象になります。その年に世帯で支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告をすることで税金が戻る可能性があります。通院のための公共交通機関の運賃なども対象になります。

ただし国税庁の見解では、無痛分娩を受けるために事前に受講する講座(セミナー)の受講料は医療費控除の対象になりません。領収書を分けて保管しておくと、申告のときに困りません。

東京都の助成金(上限10万円)

東京都では、無痛分娩にかかる費用を助成する制度が令和7年度から始まっています。主な内容は次のとおりです。

項目内容
助成額上限10万円(超えた分は自己負担)
対象者東京都内に住民登録があり、都内で妊娠届を提出した方
対象となる麻酔硬膜外麻酔、または脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔
対象施設東京都が指定する医療機関(都の福祉局サイトで一覧が公開され、随時更新されます)
申請方法電子申請のみ(郵送・代理申請は不可)
申請期限出産日から1年以内
1回の出産につき1申請まで(多胎の場合も1回)
振込時期申請からおおむね2〜3か月後
助成金でつまずきやすいポイント
  • 対象施設かどうかを、産院を決める前に確認する——無痛分娩を行っていても、指定施設でなければ対象外です
  • 電子申請のみ——スマートフォンかパソコンが必要です。産後に慌てないよう、必要書類を妊娠中に確認しておくと安心です
  • 領収書は捨てない——医療費控除にも使います

制度の内容や指定施設の一覧は更新されることがあります。申請の前に、必ずお住まいの自治体の最新の案内を確認してください。

東京都以外の自治体でも

無痛分娩への助成は、東京都以外の自治体でも導入や検討が進んでいます。金額や条件は自治体ごとにまったく異なるため、「(お住まいの自治体名)+無痛分娩+助成」で調べるか、母子健康手帳を受け取る窓口で直接たずねるのが確実です。妊娠届を出すときが、聞くにはちょうどよいタイミングです。

後悔しない産院の選び方|確認したい7つのこと

無痛分娩は「やっているかどうか」だけで選ぶと、あとで思っていたのと違ったということが起こりやすい分野です。分娩予約をする前に確認しておきたいことを7つにまとめました。

①24時間対応か、平日日中のみか

もっとも差が出るポイントです。24時間いつでも麻酔を開始できる施設もあれば、平日の日中のみ対応で、夜間や休日に陣痛が来た場合は無痛分娩にできない施設もあります。後者の場合、「無痛分娩を予約していたのに、結局できなかった」ということが実際に起こります。ここは必ず確認してください。

②麻酔を担当するのは誰か

麻酔科医が担当するのか、産科医が兼任するのかを確認します。どちらが良い悪いという話ではありませんが、その施設が年間どのくらいの無痛分娩を行っているかとあわせて聞いておくと、体制のイメージがつかみやすくなります。件数は多くの施設が公表しています。

③計画分娩か、陣痛が来てからか

計画分娩の場合、入院日が決まるぶん段取りは組みやすくなりますが、陣痛促進剤の使用が前提になります。自然陣痛を待つ方式では、そのぶん麻酔開始が待ちになる可能性があります。自分がどちらを納得できるかで考えてください。

④追加費用の条件

「無痛分娩+15万円」と書かれていても、時間外加算・休日加算・入院日数の延長分などが別途かかることがあります。「結局いくらになりますか」ではなく「どういう場合に追加でいくらかかりますか」と聞くのがコツです。

⑤途中から無痛分娩に変更できるか

「まずは自然に頑張ってみて、無理そうなら無痛にしたい」と考える方は多いです。これに対応している施設もあれば、事前予約制で当日の変更を受け付けていない施設もあります。変更できる場合でも、麻酔担当者がすぐ来られるかどうかで実現性が変わります。可能かどうかと、その条件を確認してください。

⑥緊急時の体制

まれな合併症が起きたときに、どう対応するのかは重要です。院内で対応できる体制があるのか、連携している高次医療機関があるのかを確認します。また、「無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)」に情報を登録している施設かどうかもひとつの目安になります。JALAのサイトでは、無痛分娩を行う施設が自主的に公開している情報(麻酔担当者の体制、実施件数、安全管理の取り組みなど)を確認できます。

⑦説明会・見学で実際に聞いてみる

多くの施設が、無痛分娩の説明会や動画での案内を用意しています。文字情報だけで判断せず、実際に聞いてみるのがいちばんです。聞きにくいと感じることこそ、聞いておく価値があります。

問い合わせのときに、そのまま使える質問リスト
  • 無痛分娩は24時間対応ですか。夜間や休日はどうなりますか
  • 麻酔はどなたが担当されますか。年間の実施件数はどのくらいですか
  • 計画分娩になりますか。陣痛が来てからでも対応していただけますか
  • 初産でも希望できますか。予約はいつまでに必要ですか
  • 追加費用はいくらですか。時間外や日数が延びた場合はどうなりますか
  • 途中から無痛分娩に変更することはできますか
  • 緊急時にはどのような体制になっていますか

いつ・何をする?無痛分娩を希望するときの段取り

無痛分娩は、決めたその日にできるものではありません。産院の予約から助成金の申請まで、意外とやることがあります。時系列で整理します。

妊娠中のスケジュール目安

時期やっておきたいこと
妊娠が分かったら
(〜妊娠2〜3ヶ月)
無痛分娩を扱う施設を調べ、分娩予約の空き状況を問い合わせる。無痛分娩の枠は早く埋まりやすいため、ここがいちばん重要です
妊娠3〜4ヶ月母子健康手帳を受け取る際に、自治体の助成制度の有無を窓口で確認する。分娩予約を確定させる
妊娠5〜7ヶ月無痛分娩の説明会・動画視聴を受ける(施設によっては受講が必須条件)。同意書の説明を受ける
妊娠8〜9ヶ月費用の最終確認。計画分娩の場合はおおよその日程を相談。上の子の預け先・パートナーの休みを調整する
妊娠10ヶ月入院バッグの準備。計画分娩の日程確定。予定より早く陣痛が来た場合の連絡方法を確認しておく
産後1年以内助成金の申請(自治体による)。確定申告で医療費控除を行う場合は領収書をまとめておく

上の子がいる場合

2人目以降で計画無痛分娩を選ぶ理由として、「入院日が読めるから」を挙げる方はとても多いです。日程が決まっていれば、上の子の預け先を早めに押さえられますし、パートナーも休みを申請しやすくなります。

準備しておくとよいのは次の3つです。

  • ファミリー・サポート・センターは登録まで先に済ませる——利用するかどうかは別として、登録には面談などで時間がかかります。必要になってからでは間に合いません
  • 保育所を利用している場合は継続利用の条件を確認——自治体によって、出産・育休中の取り扱いが異なります
  • 「予定どおりにいかなかったとき」の第2案も決めておく——計画日より前に陣痛が来ることは普通にあります。夜間に急に動くことになった場合、誰に連絡するかを共有しておいてください

仕事をしている場合

計画無痛分娩は入院日が事前に決まるため、産前休業の開始日や引き継ぎの計画を立てやすいという利点があります。一方で、予定より早く陣痛が来る可能性は常にあるので、「この日から休みます」ではなく「この日までには必ず引き継ぎを終える」という組み方にしておくと安心です。

なお、体調不良で予定より早く休む必要が出た場合には、主治医が記入する母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)を使って、勤務先に配慮を求めることができます。妊娠高血圧症候群の記事でも紹介していますので、必要なときは参考にしてください。

パートナーと話しておきたいこと

追加で10万〜20万円かかる選択なので、一人で決めきれないと感じるのは自然なことです。話し合いのときは、「無痛にしたい/したくない」という結論から入るより、次の順番で話すとかみ合いやすくなります。

  1. 費用の実額を共有する——「無痛分娩は高い」ではなく、「うちが予約した産院だと+◯万円で、助成が使えれば実質◯万円」と数字で示します
  2. リスクとメリットを両方伝える——この記事のリスクの章をそのまま見てもらうのがいちばん早いです
  3. 自分が何を不安に思っているかを言う——「痛みが怖い」「長引いて体力が持たないのが心配」など、率直に伝えてください
  4. 当日の役割を決めておく——立ち会いの可否、連絡の流れ、上の子の対応など

もしパートナーが反対する場合でも、出産をするのはあなたの体です。最終的に決めるのはあなたであっていいはずです。話がまとまらないときは、健診にパートナーと一緒に行き、医師や助産師から説明してもらうのが早いことがあります。

「後悔した」という声から学べること

無痛分娩について検索する方の多くが、「後悔」という言葉もあわせて調べています。実際に聞くことの多い声と、そこから事前にできることを整理します。

「思っていたより痛かった」

もっとも多い声です。背景にあるのは「無痛=痛みゼロ」という期待とのギャップです。この記事の冒頭に書いたとおり、痛みは残ります。とくに赤ちゃんが下りてくるときの圧迫感は残りやすく、ここで「効いていないのでは」と感じる方がいます。事前に「痛みは軽くなるが、なくなるわけではない」と知っておくだけで、受け止め方はかなり変わります。

「自分で産んだ実感がなかった」

これは帝王切開で出産した方からもうかがう感覚です。痛みが少なかったぶん、出産の実感が薄いと感じることがあります。ただ、実感が薄いことと、母親として何かが足りないことはまったく別の話です。この感覚は時間とともに落ち着いていくことが多いですが、長く続いてつらいときは産後健診で話してみてください。

「費用が想定より高かった」

時間外加算や入院日数の延長で、見積もりより数万円高くなったというケースです。前章の④のとおり、「どういう場合にいくら追加になるか」を事前に確認しておくことで防げます。

「結局できなかった」

夜間に陣痛が来て麻酔担当者が不在だった、分娩の進みが早すぎて間に合わなかった、といったケースです。無痛分娩を予約していても100%実施できるとは限らないということは、心の準備として知っておいてください。「できなかったらどうするか」を事前に少しだけ考えておくと、そのときの落胆が和らぎます。

決められないときの考え方

迷う方に、私がよくお伝えしているのは次の3つです。

  • 「どちらを選んでも正解」だと先に決めてしまう——出産は比較して勝ち負けを決めるものではありません
  • 自分がいちばん怖いことは何かを言葉にしてみる——痛みなのか、お金なのか、体制なのか、周囲の目なのか。それが分かると選びやすくなります
  • 健診で正直に相談する——「痛みが怖い」と口に出すのは、まったく恥ずかしいことではありません。助産師も医師も、その相談を何百回と受けています

よくある質問

Q 無痛分娩は本当に痛くないのですか?

A.痛みがまったくなくなるわけではありません。多くの方が「かなり楽になった」と感じますが、お腹の張りの感覚や、赤ちゃんが下りてくるときの圧迫感は残りやすいです。効き方には個人差があり、左右で差が出ることもあります。痛みが強く残るときは調整できる場合が多いので、遠慮せずスタッフに伝えてください。

Q 「無痛分娩はよくない」と言われるのはなぜですか?

A.医学的な根拠に基づく批判というより、「お腹を痛めて産んでこそ」という文化的な価値観や、過去に報道された事故の印象が背景にあることが多いです。出産時の痛みの強さと赤ちゃんへの愛情に関係があるという根拠は示されていません。リスクについては本記事で正直に整理していますので、印象ではなく情報をもとに判断してください。

Q 赤ちゃんは苦しくないのですか?

A.硬膜外麻酔は背中のごく限られた場所に麻酔薬を入れる方法で、血液を通じて赤ちゃんに移行する量はごくわずかとされています。ただし母体の血圧が大きく下がると赤ちゃんの心拍に影響が出ることがあるため、分娩中は心拍とお腹の張りが継続的に監視されます。異変があれば速やかに対応できる体制がとられています。

Q 途中から無痛分娩に変更できますか?

A.施設によります。対応している施設もありますが、事前予約制で当日の変更を受け付けていない施設や、麻酔担当者がすぐに対応できないと難しい施設もあります。「まず自然分娩で頑張ってみたい」と考えている方こそ、変更が可能かどうかとその条件を、分娩予約の段階で確認しておいてください。

Q 初産でも無痛分娩を希望できますか?

A.希望できます。「初産だから硬膜外麻酔ができない」という医学的な理由はありません。断られる場合は、分娩が長引きやすく麻酔の管理時間が長くなるという施設側の体制上の事情によるものです。初産で希望する場合は枠が埋まりやすいため、妊娠が分かった早い段階で問い合わせることをおすすめします。

Q 2人目も無痛分娩にできますか?前回が帝王切開でも可能ですか?

A.2人目以降も無痛分娩を選べます。経産婦さんは分娩の進みが早い傾向があるため、麻酔のタイミングについて事前に相談しておくと安心です。前回が帝王切開の場合は、経腟分娩(TOLAC)自体が可能かどうかの判断が先になります。条件を満たして経腟分娩を目指す場合に無痛分娩を併用できるかは施設によって異なるため、必ず主治医に確認してください。詳しくは帝王切開の記事もあわせてご覧ください。

まとめ

無痛分娩は、痛みをゼロにする魔法ではありません。痛みを和らげる代わりに、副作用のリスクを引き受け、費用を負担し、対応できる施設を選ぶという手間をかける選択です。逆に自然分娩は、痛みを引き受ける代わりに、それらを負わない選択です。どちらにも、得るものと引き換えになるものがあります。

大事なのは、まわりの声ではなく、あなたが何を心配していて、何を大事にしたいかです。痛みが怖いと感じることは、弱さでも甘えでもありません。健診のときに「痛みが不安なんです」と一言伝えるところから始めてみてください。そこから、あなたに合った選択肢が見えてくるはずです。

この記事のポイントまとめ
  • 無痛分娩は硬膜外麻酔で陣痛の痛みを和らげる方法で、痛みがゼロになるわけではありません
  • 日本の実施率は2018年の5.2%から2024年には13.8%へと6年で約2.7倍に増えています
  • 出産時の痛みの強さと赤ちゃんへの愛情に関係があるという医学的根拠は示されていません
  • 血圧低下・かゆみ・発熱などの副作用があり、吸引分娩などの器械分娩が増える傾向があります。一方で帝王切開が増えるという結果は示されていません
  • 「初産ではできない」は医学的な禁忌ではなく、施設の体制による事情です
  • 費用は自然分娩+10万〜20万円が相場。出産育児一時金は同じように使え、医療費控除の対象にもなります
  • 東京都では上限10万円の助成制度があり、対象施設・電子申請・出産日から1年以内という条件があります
  • 産院選びでは「24時間対応か」「追加費用の条件」「途中変更の可否」「緊急時の体制」を必ず確認してください

この記事を書いた人

白石まい(助産師・フェムテックエキスパート)

産婦人科病院で13年間、助産師として延べ2,000件以上の分娩に立ち会う。生理・妊活・更年期など、女性のライフステージに寄り添った健康相談を得意とする。現在はフリーランス助産師として活動しながら、フェムテックエキスパートとして「女性が自分の体をもっと好きになれる社会」を目指してfemnoteで情報を発信中。

参考文献

  • 公益社団法人 日本産婦人科医会「硬膜外無痛分娩の現状 〜日本産婦人科医会施設情報からの解析〜」
  • 一般社団法人 日本産科麻酔学会「無痛分娩 Q&A」
  • 厚生労働省「安全な無痛分娩の提供体制について」(小児医療及び周産期医療の提供体制等に関する検討会 資料)
  • 無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)
  • 東京都福祉局「無痛分娩費用の助成」
  • 国税庁「医療費控除の対象となる出産費用の範囲」
  • 公益社団法人 日本産科婦人科学会