生理の1週間前になると、別人のようになる。ささいなことで怒鳴ってしまう。理由もなく涙が止まらない。自分を責め続けて、消えてしまいたくなる。
そして生理が始まると、嘘のようにすっと軽くなる。「またやってしまった」という後悔だけが残る——。
この繰り返しに名前があります。PMDD(月経前不快気分障害)です。
大事なことを最初に書きます。これは性格の問題でも、わがままでも、我慢が足りないのでもありません。診断名があり、治療の選択肢がある状態です。そして、PMSの「重い版」というより、精神症状が生活を壊すレベルで出るという、質の違う状態として扱われます。
この記事では、PMSとの違い、症状、診断に2周期の記録が必要な理由、治療の選択肢、そして「消えたい」と思ってしまうときにどうするかまでまとめました。
- それはPMDDの症状として起こりうることです。あなたの本心が壊れたのではありません
- 今すぐ、誰かに話してください。下記の窓口は、匿名で、無料で使えます
- よりそいホットライン 0120-279-338(24時間・通話無料)
- #いのちSOS 0120-061-338
- こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
- SNSやチャットでの相談窓口もあります。厚生労働省の「まもろうよ こころ」で一覧が見られます
- 「生理前だけだから」と自分で判断しないでください。周期に関係していても、つらさは本物です
詳しくは「消えたい」と思ってしまうときで書きました。
PMDDとは|PMSとの違いは「程度」ではなく「何が壊れるか」
PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder/月経前不快気分障害)は、月経前の一定期間に、強い精神症状が現れて日常生活に支障をきたす状態です。
PMSとPMDDの違い
| PMS | PMDD | |
|---|---|---|
| 中心となる症状 | 身体症状も精神症状も。むくみ・胸の張り・頭痛・眠気など | 精神症状が中心。気分の落ち込み・強い怒り・不安・緊張 |
| 生活への影響 | つらいが、日常はなんとか回る | 仕事・学業・人間関係が壊れるレベル |
| 人間関係 | イライラすることがある | 衝突が繰り返し起こる。あとで強く後悔する |
| 診断 | 明確な診断基準は定まっていない部分がある | DSM-5に診断基準がある。精神疾患として位置づけられています |
| 頻度 | 月経のある女性の多くが何らかの症状を経験 | 数%程度とされます |
| 主な治療 | 生活の調整・対症療法・低用量ピルなど | SSRIなどの薬物療法が選択肢に入る |
- PMDDかどうかを分けるのは、「症状がどれだけ強いか」ではなく「生活が壊れているか」です
- 具体的には——仕事に行けない/人間関係が壊れる/子どもに強く当たってしまう/死にたくなる
- 逆に、症状が強くても生活が回っているならPMSとして扱われることがあります
- 「私はまだ大丈夫」と我慢の量で判断しないでください。判断材料は「何が起きているか」です
PMS全般についてはPMS(月経前症候群)で詳しく解説しています。
「性格」でも「わがまま」でもない
PMDDの方がいちばん苦しむのは、症状そのものより「自分が悪い」という感覚だと感じます。
- 「なんであんなことを言ってしまったんだろう」
- 「私は情緒不安定な人間なんだ」
- 「相手に申し訳ない。嫌われて当然」
- 「毎月同じことを繰り返している。学習していない」
けれども、症状が月経周期に沿って現れ、生理が始まると消える——この規則性こそが、性格ではなく体の反応であることの証拠です。性格なら、周期に合わせて消えたりしません。
症状|精神症状が中心
中心となる症状
診断の場では、次の4つのうち1つ以上があることが重視されます。
| 症状 | 具体的には |
|---|---|
| ①気分の変動 | 急に涙が出る・悲しくなる・小さなことで傷つきやすくなる |
| ②強い怒り・いらだち | 人にぶつけてしまう。人間関係の衝突が増える |
| ③抑うつ気分・絶望感 | 気分が沈む・自分を強く責める・消えたくなる |
| ④不安・緊張 | 張りつめた感じ・追い詰められている感覚 |
それに加わる症状
- 興味の低下——好きだったことがどうでもよくなる
- 集中できない——仕事のミスが増える
- 強い疲労感・気力の低下(生理前のだるさ)
- 食欲の変化——過食、特定のものが無性に食べたくなる(生理前の食欲)
- 眠りの変化——眠れない、あるいは眠りすぎる
- 圧倒される感覚——「何もかも手に負えない」
- 身体症状——胸の張り・むくみ・頭痛・関節や筋肉の痛み・体重増加
いちばん重要な特徴|生理が始まると消える
- 症状は黄体期(排卵後〜生理前)に出る。多くは生理の1週間ほど前から
- 生理が始まると数日以内に軽くなる
- 生理後〜排卵前の1〜2週間は、症状がほぼない期間がある
- この「症状のない期間が必ずある」という点が、うつ病などとの大きな違いです
- 周期の仕組みは生理周期で解説しています
逆に、症状が一年中ずっと続いていて、生理前に悪化しているだけなら、それはPMDDではなく「PME(月経前増悪)」かもしれません。後述します。
セルフチェック|12項目
直近3回の月経前を振り返って答えてください。
| # | 質問 | はい/いいえ |
|---|---|---|
| 1 | 生理前に気分が激しく変動する/急に涙が出る | |
| 2 | 生理前に強い怒りやいらだちがあり、人にぶつけてしまう | |
| 3 | 生理前に強く落ち込む/自分を責める | |
| 4 | 生理前に強い不安・緊張がある | |
| 5 | 生理が始まると、数日以内に軽くなる | |
| 6 | 症状がほとんどない期間が、毎月ある(生理後〜排卵前) | |
| 7 | 生理前に仕事・学業でミスが増える/休むことがある | |
| 8 | 生理前に家族・パートナーとの衝突が繰り返し起きる | |
| 9 | 生理前に「消えたい」と思うことがある | |
| 10 | 症状は生理前だけでなく、一年中ある(生理前に悪化する) | |
| 11 | だるさ・寒がり・体重の変化・動悸など体の症状も続いている | |
| 12 | 生理前はつらいが、仕事も家庭もなんとか回っている |
結果の読み方
| 当てはまったもの | 考えられること | 行動 |
|---|---|---|
| 9 | — | 最優先です。「消えたい」と思ってしまうときを読み、早めに受診・相談を |
| 1〜4のどれか+5・6+7か8 | PMDDの可能性 | 2周期の記録をつけてから受診。記録のつけ方は後述します |
| 10 | PME(月経前増悪)の可能性。背景に別の疾患があることも | 心療内科・精神科へ。PMDDとは対応が変わります |
| 11 | 甲状腺など、体の病気の可能性 | 内科で血液検査を。橋本病などは症状が似ます |
| 1〜4があるが12も当てはまる | PMSの範囲かもしれません | 生活の調整から。つらければ婦人科で相談を |
「消えたい」と思ってしまうとき
PMDDの記事で、この章を後ろに置くわけにはいきません。DSM-5のPMDDの診断基準にも、自殺念慮が症状として含まれています。つまり、これは「例外的なこと」ではなく、この状態で起こりうる症状のひとつとして知られています。
これは症状として起こりうることです
- 「消えたい」という気持ちが、あなたの本心とは限りません。周期に沿って現れ、生理が始まると薄れていくなら、それは症状の一部です
- だからといって「気のせい」でもありません。その瞬間のつらさは本物で、対処が必要です
- 「生理前だけだから、そのうち治まる」と一人で耐えないでください。治まるまでの時間を、一人で過ごす必要はありません
今すぐできること
- 一人にならない。家族・友人のいる部屋に移る。誰かに電話する
- 決断をしない。退職・別れ・大きな買い物・SNSの投稿。「生理が来るまで決めない」と決めておく
- 手の届くところに危険なものを置かない。薬をまとめて手元に置かない
- 誰かに一言だけ伝える。「今つらい」だけで十分です。理由を説明しなくていい
- 窓口に電話する。匿名で、無料で、話を聞いてもらえます
- 時間が経てば薄れることを思い出す。過去の記録があれば読み返す
相談できる窓口
| 窓口 | 連絡先 |
|---|---|
| よりそいホットライン | 0120-279-338(24時間・通話無料) |
| #いのちSOS | 0120-061-338 |
| こころの健康相談統一ダイヤル | 0570-064-556(各自治体の相談窓口につながります) |
| SNS・チャット相談 | 厚生労働省「まもろうよ こころ」のページに一覧があります |
| いのちの電話 | 各地域に窓口があります |
- 「生理前だけです」と伝えて構いません。それは診断の重要な手がかりになります
- 心療内科・精神科の受診は、大げさなことではありません。PMDDは精神科領域の診断名です
- 婦人科でも相談できます。状態によって適切な科へつないでもらえます
- 予約が取りにくいときは、まず窓口に電話を。受診までの間をどう過ごすかも相談できます
- すでに行動に移しそうな状態なら、救急も選択肢です
周りの人へ
- 「そんなこと言わないで」と否定しない。言えなくなるだけです
- 「生理前だからでしょ」と片づけない。本人はそれを自分で何度も言い聞かせて、それでもつらいのです
- まず聞く。解決策を出さなくていい。「そう思うくらいつらいんだね」で十分です
- 一人にしない。同じ部屋にいるだけでも意味があります
- 受診に付き添うことを提案する。「一緒に行こうか」は、強い支えになります
- あなた自身も相談していい。支える側も消耗します
診断|2周期の記録が必要な理由
なぜ「その場で診断」できないのか
PMDDの診断には、症状が月経周期に沿って現れ、生理後には消えることを、実際に記録で確認することが求められます。少なくとも2周期分の記録が必要とされています。
理由は2つあります。
- ①記憶は当てにならない。つらかった記憶は残り、平気だった期間は忘れられます。「ずっとつらい」と感じていても、記録をつけると症状のない週が見えてくることがあります
- ②PMDDとPME(月経前増悪)を分けるため。もともとうつ病や不安障害があり、それが生理前に悪化しているだけなら、治療の方針が変わります。この区別は、記録なしにはできません
- 2周期=約2か月。つらい方にとっては長く感じます
- ただし「記録がたまるまで何もしない」わけではありません。受診すれば、その間の対処も相談できます
- 希死念慮がある場合は、記録を待たずに受診してください。安全が最優先です
- 記録は、受診してから始めても構いません。むしろ医師の指示に沿った形でつけるほうが確実です
記録は、アプリでいいのか
「2周期分を毎日手帳につける」——正直、続く気がしないという方が多いと思います。続かない記録に意味はないので、現実的な方法を整理します。
| 方法 | 向いていること | 注意点 |
|---|---|---|
| ふだん使っている生理アプリ | これで十分です。多くのアプリに「気分」「症状」を記録するメモ欄があります | 選択式のタグだけだと粗いので、気分を0〜3の数字で書き足す |
| スマホの標準メモ帳 | いちばん確実。1行だけ書けばよい。「8/26 落ち込み2 怒り3 不安1 娘に怒鳴った」 | 生理開始日も一緒に書く |
| カレンダーアプリ | 予定と並べて見られる。あとで「あの週だった」と分かる | 終日予定として1行入れるだけ |
| 紙の手帳 | 見開きで全体を見渡せる。診察で見せやすい | 持ち歩きを忘れると途切れます |
| 症状評価用の記録用紙 | 受診先で用意されていることがあります | 受診時に「記録用紙はありますか」と聞いてみてください |
- 項目を増やさない。気分3項目+出来事1行で十分です。完璧な記録より、途切れない記録
- 毎日同じ時刻にアラーム。夜寝る前がおすすめです。1日を振り返れるので
- 書き忘れた日は空欄でよい。「昨日の分を思い出して書く」のは、記憶が混ざるのでかえって正確さを損ないます
- 受診前にスクリーンショットを撮る。アプリでも手帳でも、これで持っていけます
記録のつけ方
毎日つけます。1日1分で終わる形にしてください。完璧を目指すと続きません。
| 記録する項目 | 書き方 |
|---|---|
| ①日付と、生理の有無 | 8/26/生理2日目 |
| ②気分の落ち込み(0〜3) | 0なし/1軽い/2中くらい/3強い |
| ③怒り・いらだち(0〜3) | 同上 |
| ④不安・緊張(0〜3) | 同上 |
| ⑤生活への支障 | 「仕事を休んだ」「衝突した」「予定をキャンセルした」など、起きた出来事 |
| ⑥体の症状 | むくみ/胸の張り/頭痛/眠気 |
- 症状が始まる日——生理の何日前からか。人によって5日前だったり10日前だったり
- 症状が消える日——生理開始から何日目か
- 症状のない期間があるかどうか——これがPMDDとPMEを分ける決定的な情報
- いちばん強い症状はどれか——怒りか、落ち込みか、不安か。治療の選択に関わります
- 生活のどこが壊れているか——⑤が、受診時にいちばん伝わる情報です
アプリでも手帳でも構いません。受診前にスクリーンショットを撮っておくのがいちばん楽です。基礎体温を測っている方は、あわせて見ると排卵の時期との関係も分かります。
なぜ起こるのか
ホルモンの「量」ではなく「変動への感じ方」
意外に思われるかもしれませんが、PMDDの方の女性ホルモンの量が、そうでない方と大きく違うわけではないとされています。
現在有力とされているのは、ホルモンの変動に対する脳の感受性が高いという考え方です。エストロゲンとプロゲステロンが黄体期の後半に低下していく——その変化そのものに強く反応してしまう、という説明です。
セロトニンとの関係
気分の調整に関わる神経伝達物質セロトニンの働きが、女性ホルモンの変動の影響を受けると考えられています。PMDDにSSRI(セロトニンに関わる薬)が用いられるのは、この考え方にもとづいています。
- 「なぜ人によって感受性が違うのか」は、まだ完全には解明されていません
- 遺伝的な要素、これまでのストレスや外傷的な経験、睡眠、栄養状態などが関わると考えられていますが、因果として確定しているわけではありません
- 「ホルモンバランスの乱れ」という言い方は、正確ではありません。量が乱れているのではなく、反応の仕方の問題と考えられています
- この違いは実務的にも意味があります。「ホルモンを整えるサプリ」で解決する話ではないということだからです
間違えやすいもの
症状だけを見ると、PMDDは他のいくつかの状態とよく似ています。分けるカギは、ほぼいつも「時間の形」です。
| 状態 | 時間の形 | 見分けの手がかり |
|---|---|---|
| PMDD | 黄体期だけ。生理後は症状がない期間がある | 記録で「症状のない週」が確認できる |
| PME(月経前増悪) | ずっとある症状が、生理前に悪化する | 症状のない期間がない。背景にうつ病・不安障害などがあることが多い |
| うつ病 | 周期と関係なく続く | 2週間以上、ほぼ毎日。興味の喪失・不眠・食欲低下 |
| 双極症 | 気分の波が数日〜数週間単位 | 気分が高くなる時期がある。眠らなくても平気な時期 |
| 不安障害・パニック障害 | 周期と無関係に発作や不安が起こる | 動悸・息苦しさ・「また起きたらどうしよう」という予期不安 |
| 甲状腺の病気 | 周期と無関係に続く | 体の症状を伴う。だるさ・寒がり/暑がり・体重変化・動悸(橋本病・バセドウ病) |
| プレ更年期の気分の変化 | 周期が乱れ始める40代に | 周期そのものが不規則になってくる。更年期のイライラを参照 |
| 産後うつ | 出産後 | 時期がはっきり違います |
PME(月経前増悪)を知っておく意味
- PMEは「もともとある状態が、生理前に悪化している」という考え方です
- この場合、治療の主軸は「もともとの状態」のほうになります。生理前だけに手を打っても、根本は変わりません
- 逆に、PMEなのにPMDDとして扱われると、「生理後は良くなるはず」という前提が合わず、うまくいきません
- 分けられるのは記録だけです。だから2周期の記録が求められます
- 「一年中しんどくて、生理前はもっとしんどい」——これに心当たりがあるなら、心療内科・精神科での相談が近道です
治療の選択肢
何科に行くか
| 科 | こんなとき |
|---|---|
| 婦人科 | 入口として。周期の記録を持って相談。低用量ピルなどの選択肢を扱います |
| 心療内科・精神科 | 精神症状が中心・希死念慮がある・PMEが疑われる場合。SSRIなどはこちらで扱われることが多い |
| 女性外来・女性専門外来 | 両方の視点で診てもらえる場合があります |
| 内科 | 体の症状が強いとき。甲状腺などの確認 |
どちらから行っても構いません。迷うなら、希死念慮があるかどうかで決めてください。ある場合は心療内科・精神科、ない場合は婦人科からで大丈夫です。必要なら紹介してもらえます。
治療の枠組み
どれを選ぶかは、症状の型・重さ・妊娠の希望をふまえて医師が判断します。ここでは選択肢の枠組みだけお伝えします。
| 方法 | 位置づけ |
|---|---|
| SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) | PMDDに対して用いられる治療の選択肢のひとつです。毎日服用する方法のほか、症状の出る期間だけ服用する方法が検討されることもあります。処方と用法は医師が判断します |
| 低用量ピル | 排卵を抑えることでホルモンの変動を小さくする目的で用いられることがあります。効果の感じ方には個人差があり、合わない場合もあります(低用量ピルの効果・副作用) |
| 漢方薬 | 体質や随伴症状に応じて用いられることがあります |
| 認知行動療法など | 症状との付き合い方、考え方の癖への働きかけ。薬と併用されることもあります |
| 生活の調整 | 後述。治療の代わりではなく、併せて行うものです |
- 自己判断で始めない・やめない。とくにSSRIは、急に中止すると体調に影響が出ることがあります
- 効果が出るまでに時間がかかることがあります。飲み始めてすぐ判断しないでください
- 飲み始めに副作用が出ることがあります。つらいときは我慢せず相談を
- 妊娠を希望している・妊娠中・授乳中の場合は必ず伝えてください。選択肢が変わります
- 「精神科の薬を飲むこと」への抵抗を感じる方は多いですが、毎月10日間、生活が壊れ続けることの重さと比べて考えてみてください
費用の目安
| 内容 | 自己負担の目安(3割) |
|---|---|
| 婦人科の初診+問診 | おおむね1,000〜2,000円前後 |
| 心療内科・精神科の初診 | おおむね2,000〜4,000円前後(時間をかけた問診が行われます) |
| 再診 | おおむね1,000〜2,000円前後 |
| 薬代(1か月) | 薬の種類による。数百〜3,000円程度のことが多い |
| 血液検査 | おおむね2,000〜5,000円前後 |
継続的な通院が必要になった場合、自立支援医療(精神通院医療)という制度で自己負担が軽くなることがあります。「費用が続けられるか心配です」と主治医に相談して構いません。
セルフケアと、生活の組み立て
ここに書くのは治療の代わりではなく、併せて行うことです。「これで治る」という話ではありません。ただ、症状が出る週をどう設計するかで、生活の壊れ方はかなり変わります。
予定を周期に合わせる
記録で「症状が出る日」が分かってきたら、それを予定表として使えます。
| 時期 | 向いていること |
|---|---|
| 生理後〜排卵前(症状のない週) | 大事な会議・面談・交渉・決断。人と会う予定。新しいことを始める |
| 排卵後 | 通常どおり。この時期から記録を意識する |
| 症状が出る週 | ルーティン作業・一人でできる仕事。可能なら在宅に。大きな決断はしない |
| 生理開始〜数日 | 回復期。無理をしない |
- 症状が出る週は、退職・別れ・引っ越し・大きな買い物を決めない——これをルールにしている方は多いです
- SNSの投稿・長文のメッセージも、下書きにして翌週読み返す
- 「生理が来るまで決めない」と自分に約束しておくと、あとで後悔することが減ります
- スマホのカレンダーに「この週は決めない」と入れておくのも有効です
症状が出る週の過ごし方
- 予定を減らす。「入れない」ではなく「減らす」でいい
- 睡眠を優先する。眠りが浅いと症状は強く出ます(眠りの質)
- カフェイン・アルコールを控えめに。不安や不眠を強める方向に働くことがあります
- 血糖の急な上下を避ける。朝食を抜かない・間食は少量をこまめに
- 体を動かす。激しい運動でなくてよい。散歩・ヨガ・ストレッチ
- 人と話す時間を減らしすぎない。孤立すると考えが内向きになります
- 「今週は症状の週だ」と自分で認識する。これだけで、自分を責める量が減ります
やってはいけないこと
- 大きな決断をする
- アルコールで紛らわす——気分の落ち込みを強めます
- 「私が悪い」と結論を出す——週が変われば見え方が変わります
- 相手に責任を求める形で衝突を長引かせる——症状のない週に話し合うほうが建設的です
- SNSで自分と他人を比べ続ける
- 一人で抱えて、誰にも言わない
サプリメントについて
カルシウム・ビタミンB6・マグネシウムなどが話題になることがあります。不足を補うという意味では取り入れる余地がありますが、「これでPMDDが治る」という確立した根拠のあるサプリメントはありません。
気をつけたいのは、サプリを試している間に受診が遅れることです。とくに希死念慮がある場合は、そこに時間をかけないでください。
周りに伝える
PMDDは、まわりを巻き込む症状です。だからこそ伝え方が大事になります。
パートナーに
- 衝突の最中に説明しない。お互い聞ける状態ではありません
- 仕組みで説明する:「生理前の1週間、ホルモンの変動に体が強く反応してしまう状態で、PMDDという名前がついています」
- 「あなたのせいではない」と先に言う——相手は自分が責められていると感じています
- 具体的な頼みごとに変換する:「その週は言い合いにせず、一晩置いてほしい」「夕飯を作ってもらえると助かる」
- 記録を見せる——「毎月同じ時期でしょう」と、カレンダーで示すのがいちばん伝わります
- 受診に付き添ってもらう——理解のスピードが変わります
「症状のない週に話す」を、先延ばしにしないために
この記事では何度も「症状のない週に話してください」と書きました。けれど実際には、楽になると「もういいか」となります。そして次の症状の週に、また同じ衝突が起きる。これを毎月繰り返している方は多いはずです。
- 症状の週のうちに、話す日をカレンダーに入れてしまう。「生理3日目の夜」など、具体的な日時で。つらい今のうちに予約を入れておくのがコツです
- 話す内容を、症状の週にメモしておく。楽になると「大したことなかった」と思えてしまうので、つらかったときの自分の言葉を残しておく
- 相手にも先に伝えておく。「生理が終わったら、ちょっと話したいことがある」——これだけで逃げ道がふさがります
- 1回で全部話そうとしない。「今日はこの記事を見せるだけ」でもいい。次の月に続きを話せばいい
- 受診の予約も同じです。つらい週に予約を取り、楽な週に受診する。「楽になったからキャンセル」をしないと決めておく
楽になった自分は、つらかった自分を過小評価します。これはPMDDに限らず起こることです。だから「つらいときの自分が、楽なときの自分に予約を入れておく」——この形にしておくとうまくいきます。
職場に
- 病名を言う必要はありません。「体調の波があって」で十分です
- 具体的な要望に変換する:「その週は在宅にさせてください」「大きな商談を入れないようにしています」
- 生理休暇は法律で認められています(取得に診断書は原則不要)。使いにくければ「体調不良」で構いません
- 継続的な配慮が必要なら、診断書を書いてもらえるか主治医に相談できます
在宅もシフト調整もできない働き方の場合
接客・医療・介護・製造・保育など、働く場所も時間も自分では動かせない仕事の方が多くいます。「その週は在宅に」は、そもそも選択肢にない。ここでできることを挙げます。
| 手段 | 具体的には |
|---|---|
| シフト希望を、症状の週に合わせる | 1〜2日でいい。「この日は休み希望」を毎月1回出す。理由は聞かれなければ言わなくていい |
| いちばんきつい日を避ける | 週全部でなく、記録で分かった「最悪の1日」だけを外す。これなら通りやすい |
| その週は残業・イベントを入れない | 勤務そのものは変えられなくても、上乗せを断ることはできる |
| 休憩を確実に取る | 短くても、一人になれる時間を作る。更衣室・車の中・外の空気 |
| 接客中の対処を決めておく | 「イラッとしたら、いったん奥に下がって深呼吸してから戻る」——手順を決めておくと実行できます |
| 生理休暇を使う | 法律上の権利です。使ったことがなくても申請できます |
| 信頼できる同僚を1人つくる | 「今日ちょっと調子悪いので、フォローお願いします」と言える相手が1人いるだけで違います |
- 「仕事を辞めるしかない」と考え始めたら、それは受診のサインです
- 順番として、治療で症状を軽くするほうが先。働き方を変えるのは、その後でも間に合います
- そして退職の決断は、症状の週にしない。これは前述のとおりです
- 継続的な配慮が必要なら、診断書という手段があります。主治医に「職場に出せるものを書いてもらえますか」と相談できます
家族・子どもに
- 子どもに強く当たってしまったあと——あとで謝ることには意味があります。「お母さんの体の調子で、あなたが悪いんじゃないよ」
- 完璧な母親であろうとしない。症状の週は、家事も食事も簡略にしていい
- 親に伝えるときは「気合いが足りない」と返されることがあります。その場合は無理に分かってもらおうとしなくていい——医療者に分かってもらえれば足ります
通説の検証
「PMDDは気の持ちよう」は本当か
判定:違います。PMDDはDSM-5に診断基準がある、正式な診断名です。
そして「症状が周期に沿って現れ、生理が始まると消える」という規則性そのものが、気の持ちようでは説明できません。気合いで治るなら、生理後だけでなく生理前も気合いで乗り切れるはずです。
「PMSがひどいだけ」は本当か
判定:連続した状態と考える見方もありますが、対応が変わるという意味では区別する価値があります。
実務的にいちばん大きい違いは、PMDDではSSRIなどの薬物療法が治療の選択肢に入ることです。「PMSがひどいだけ」と自己判断してしまうと、選べたはずの選択肢に届きません。
「ピルを飲めば治る」は本当か
判定:低用量ピルは選択肢のひとつですが、全員に合うわけではありません。
排卵を抑えてホルモンの変動を小さくする目的で用いられることがあり、楽になる方がいるのは確かです。一方で変わらない方も、飲み始めに気分の変化を感じる方もいます。
大事なのは「合わなかったら、別の選択肢がある」ということです。1つ試して駄目でも、そこで終わりではありません。
「結婚・出産すれば治る」は本当か
判定:根拠のない言い方です。
ライフイベントで症状が変わることはありますが、良くなるとは限りませんし、悪くなることもあります。そもそも、治療のために結婚や出産を選ぶという発想自体が本末転倒です。
この言葉は、たいてい本人ではなくまわりから言われます。言われた側が真に受けて受診を遅らせるのが、いちばんの実害だと思います。
- 気の持ちよう:違います。周期に沿った規則性は、気合いでは説明できません
- PMSがひどいだけ:区別する価値がある。治療の選択肢が変わります
- ピルで治る:選択肢のひとつ。合わなければ別の方法があります
- 結婚・出産で治る:根拠なし。受診を遅らせるのが実害
よくある質問
Q 婦人科と心療内科、どちらに行けばいいですか?
A.希死念慮があるなら心療内科・精神科を優先してください。それ以外なら、婦人科からで構いません。判断に迷うときは、「行きやすいほう」で大丈夫です。必要があれば紹介してもらえます。大事なのはどちらに行くかより、記録を持っていくこと。2周期分の記録があれば、どちらの科でも話が早く進みます。「PMDDかもしれないと思って記録をつけてきました」——この一言で伝わります。
Q 毎月パートナーと衝突します。もう限界です。
A.まず、「症状のない週に、この話をする」——これだけで状況が変わることがあります。衝突の最中は、お互い聞ける状態にありません。そのうえで記録を見せてください。「毎月同じ時期に起きている」とカレンダーで示すのが、いちばん伝わります。そして「別れる」「離婚する」という決断は、症状の週にはしないでください。週が変わると見え方が変わることを、何度も経験されているはずです。可能なら受診に付き添ってもらうと、理解のスピードが変わります。
Q 2周期の記録が必要と言われても、それまで待てません。
A.記録がたまるまで受診を待つ必要はありません。先に受診して、その間の対処を相談しながら記録をつけるほうが確実です。むしろ医師の指示に沿った形で記録をつけられるという利点があります。そして希死念慮がある場合は、記録を待たずにすぐ受診してください。安全が最優先です。「診断がつくまで何もしてもらえない」ということはありません。診断はゴールではなく、方針を決めるための道具です。
Q 精神科の薬を飲むことに抵抗があります。
A.その気持ちは自然なものです。抵抗があることを、そのまま医師に伝えて構いません。そのうえで考えていただきたいのは、毎月10日間、生活が壊れ続けることの重さです。年間にすると120日——1年の3分の1になります。また、薬は一度始めたら一生ではありません。症状の期間だけ服用する方法が検討されることもありますし、状態を見ながら調整されます。低用量ピル・漢方・認知行動療法など、薬以外の選択肢もあります。まず相談してから決めても遅くありません。
Q 一年中しんどくて、生理前はもっとしんどいです。これもPMDDですか?
A.それはPMDDではなく、PME(月経前増悪)の可能性があります。PMDDは「症状のない期間が毎月ある」ことが特徴で、一年中続いているならこの条件を満たしません。PMEの場合、治療の主軸は「もともとある状態」のほうになります。うつ病や不安障害が背景にあることがあり、そちらへの治療が中心になるためです。この違いは治療方針を大きく変えるので、心療内科・精神科での相談が近道です。記録をつけて「症状のない週がありません」と伝えてください。それが重要な情報になります。
Q 10代です。PMDDは若くても起こりますか?
A.起こります。月経がある年代なら、10代でも起こりえます。ただし10代は周期がまだ安定していないことも多く(生理不順)、記録での確認がとくに大事になります。受診に保護者の同意は必須ではありませんが、可能なら大人に一人でも話しておいてください。学校の保健室に相談するのも入口になります。「思春期だから」「反抗期だから」で片づけられてしまうことがありますが、周期に沿って繰り返しているなら、それは伝えるべき情報です。
Q 妊娠を考えています。治療はどうなりますか?
A.妊娠を希望していることを、必ず最初に伝えてください。選べる治療が変わります。低用量ピルは妊娠を望む時期には使えませんし、薬についても妊娠中・授乳中の扱いは異なります。自己判断で中止しないでください。中止の仕方やタイミングは医師が判断します。なお妊娠中は月経周期がなくなるため、PMDDの症状は起こりませんが、産後は産後うつのリスクにも目を向ける必要があります。PMDDの既往があることは、産科にも伝えておく価値のある情報です。
まとめ
PMDDでいちばん残酷なのは、自分で自分を責めてしまうことだと思います。毎月同じことを繰り返して、そのたびに「私はだめだ」と結論を出してしまう。
けれども、症状が周期に沿って現れ、生理が始まると消える——この規則性こそが、性格ではないことの証拠です。性格なら、カレンダーに合わせて消えたりしません。
そして、診断名があるということは、対応する方法があるということです。記録をつけて、受診して、選択肢を知る。そこから始められます。
- PMDDはDSM-5に診断基準がある正式な診断名。性格でもわがままでもない
- PMSとの違いは「つらさの点数」ではなく「生活が壊れているか」
- 中心となるのは①気分の変動 ②強い怒り ③抑うつ・絶望感 ④不安・緊張の4つ
- 最大の特徴は「生理が始まると消え、症状のない期間が毎月ある」こと
- 「消えたい」はPMDDの症状として起こりうる。一人で耐えず、窓口か受診へ
- 症状の週は大きな決断をしない。「生理が来るまで決めない」と決めておく
- 診断には2周期の記録が必要。ただし記録を待たずに受診してよい
- 記録では「症状のない週があるかどうか」がいちばん重要な情報
- 一年中つらくて生理前に悪化するならPME(月経前増悪)。治療の主軸が変わる
- 原因はホルモンの「量」ではなく「変動への感受性」と考えられている
- だから「ホルモンを整えるサプリ」で解決する話ではない
- 治療の選択肢はSSRI・低用量ピル・漢方・認知行動療法など。合わなければ別の方法がある
- 希死念慮があるなら心療内科・精神科を優先。なければ婦人科からでよい
- 継続通院には自立支援医療で負担が軽くなる場合がある
- パートナーへの説明は「症状のない週に、記録を見せて、具体的な頼みごとに変換して」
今日できるのは、次の生理が来た日と、今日の気分(0〜3)をメモすることだけです。それが2周期たまったとき、あなたは自分に起きていることを説明できるようになっています。
参考文献
- American Psychiatric Association「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル|月経前不快気分障害」
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編|月経前症候群」
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「用語集・用語解説集|月経前症候群・月経前不快気分障害」
- 一般社団法人 日本女性医学学会「女性医学ガイドブック」
- 厚生労働省「まもろうよ こころ|相談窓口一覧」
- 厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)の概要」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「女性の健康と月経」
- 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」
- American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG)「Premenstrual Syndrome (PMS)」
- National Health Service (NHS)「Premenstrual dysphoric disorder (PMDD)」