お風呂上がりに鏡を見たら、下腹部に赤紫色の線が何本か走っていた。前の週にはなかったはずなのに——。妊娠線に気づいた瞬間のことを、多くの方が今でもはっきり覚えていると話してくださいます。

「毎日クリームを塗っていたのに、なぜできてしまったんだろう」「サボった日があったからだろうか」。そう感じて自分を責めてしまう方は、決して少なくありません。

この記事では、妊娠線がなぜできるのかという仕組みから、予防について研究で分かっていること・まだ分かっていないこと、産後にどう変化していくのかまでを、できるだけ正直にお伝えします。読み終えたときに、少しでも肩の力が抜けていたらうれしいです。

妊娠線とは?お腹にできる線の正体

妊娠線とは、妊娠によってお腹などの皮膚が急激に伸びたときにできる線状の跡のことです。医学的には妊娠性皮膚線条(にんしんせいひふせんじょう/striae gravidarum)と呼ばれ、妊娠と関係なくできるものも含めて「皮膚線条」「ストレッチマーク」と総称されます。

正体は「皮膚の内側が裂けた跡」

妊娠線を理解するうえで大切なのは、これが表面の汚れや色素沈着ではなく、皮膚の内側で起きた構造の変化だということです。

皮膚は大きく分けて、表面の「表皮」と、その下にあってハリと弾力を支える「真皮」の二層構造になっています。真皮にはコラーゲンやエラスチンという線維がネットのように張りめぐらされていて、皮膚が伸び縮みできるのはこの線維のおかげです。

ところが、伸びるスピードが線維の対応できる範囲を超えると、真皮の線維がところどころ断裂してしまいます。表皮は薄く引き伸ばされたまま残るため、断裂した真皮が透けて線のように見える——これが妊娠線の正体です。

妊娠線は「傷跡」に近いもの
  • 表面にできた汚れではないため、こすっても落ちません
  • 真皮という深い層の変化なので、化粧品の範囲では元に戻せません
  • 一方で、時間の経過とともに色は確実に変化していきます

なぜ最初は赤紫色に見えるのか

できたばかりの妊娠線が赤紫やピンク色に見えるのは、真皮が薄くなったことでその下を流れる血管が透けて見えているためです。医学的にはこの時期のものを「赤色線条」と呼びます。

時間が経つと血管が目立たなくなり、色素をつくる細胞のはたらきも落ち着くため、白っぽく変化していきます。これが「白色線条」です。この色の変化については産後の経過のセクションで詳しくお伝えします。

どのくらいの人にできるのか

妊娠線ができる人の割合は、調査によって幅がありますが、おおむね妊婦さんの5〜9割と報告されています。研究によって「どの程度の線を妊娠線と数えるか」の基準が異なるため数字に開きが出ますが、いずれにせよできるほうが多数派だということです。

「自分だけできてしまった」と感じている方に、まずこの数字をお伝えしたいと思っています。健診で他の妊婦さんのお腹を見る機会はありませんし、SNSに上がるのはきれいなマタニティフォトばかりですから、実態が見えにくいのは無理もありません。

妊娠線と正中線はまったく別のもの

妊娠中のお腹に現れる線には、もうひとつ正中線(せいちゅうせん)があります。この二つはよく混同されますが、成り立ちがまったく違います。相談を受ける中でも、正中線を見て「妊娠線ができてしまった」と落ち込んでいらっしゃる方は本当に多いです。

正中線は色素沈着によるもの

正中線は、おへそを中心にみぞおちから恥骨のほうへ、お腹の真ん中を縦にまっすぐ走る茶色っぽい線です。医学的にはリネア・ニグラ(linea nigra)と呼ばれます。

これは皮膚が裂けた跡ではなく、ホルモンの影響でメラニン色素が増えたことによる色素沈着です。妊娠中はメラニン色素の生成を促すホルモンのはたらきが強まるため、もともと色素が沈着しやすい部分——お腹の正中線のほか、乳輪、わきの下、デリケートゾーンなど——の色が濃くなります。

同じ仕組みで起こるデリケートゾーンの色の変化については、デリケートゾーンの黒ずみ|原因とセルフケアでも詳しく解説しています。

妊娠線と正中線の違い

比較項目 妊娠線 正中線
正体 真皮の断裂(構造の変化) メラニン色素の沈着(色の変化)
初めは赤紫・ピンク → 白っぽく変化 茶色〜こげ茶色
数本〜数十本の線が波打つように広がる 1本の直線。お腹の真ん中を縦に走る
触った感じ わずかに凹んでいる・段差を感じることがある 段差はなく、周囲の皮膚と同じ手ざわり
産後の経過 白く目立たなくなるが、跡は残ることが多い 数か月〜1年ほどかけて自然に薄くなる
正中線は心配のいらない変化です
  • 妊娠中期ごろから目立ちはじめ、後期にかけて濃くなります
  • 産後はホルモンの変化とともに、時間をかけて自然に薄くなっていきます
  • 「正中線が濃い=妊娠線ができやすい」という関係はありません
  • 正中線の濃さから赤ちゃんの性別が分かる、という言い伝えにも根拠はありません

妊娠線はいつからできる?時期の目安

「何ヶ月くらいからできるのか」は、妊娠中の方から最もよく聞かれる質問のひとつです。

多いのは妊娠中期以降

妊娠線ができるのは、お腹のふくらみが目立ちはじめる妊娠5ヶ月(16週)ごろからが一般的です。ただしこれはあくまで目安で、実際には個人差がとても大きい部分です。

時期 お腹の状態と妊娠線の傾向
妊娠5ヶ月(16〜19週) 下腹部がはっきりせり出しはじめる。早い人はこの時期から現れる
妊娠6〜7ヶ月(20〜27週) お腹の伸びが加速する時期。妊娠線が現れはじめる方が増える
妊娠8〜9ヶ月(28〜35週) 最もできやすい時期。すでにある線が増えたり濃くなったりする
妊娠10ヶ月(36週〜) お腹が最大になる。臨月に入ってから新しくできることもある

週数ごとの体の変化については、妊娠5ヶ月妊娠7ヶ月妊娠9ヶ月の各ガイドもあわせてご覧ください。

妊娠後期がいちばんできやすい理由

妊娠8ヶ月以降にできやすいのは、この時期にお腹が伸びるスピードが最大になるためです。赤ちゃんの体重は妊娠28週ごろに約1,000gですが、そこから出産までのおよそ3か月で3倍前後まで増えます。羊水の量もこの時期にピークを迎えます。

つまり、妊娠中期を無事に乗り切ったからといって安心はできません。「妊娠線ができなかった」と確定するのは出産後だと考えておくほうが、気持ちの上でも楽だと思います。

産後に気づくこともある

妊娠中はお腹が大きくせり出しているため、おへその下や下腹部の底の部分が自分の目では見えません。そのため、産後にお腹がへこんでから初めて妊娠線に気づく方がいらっしゃいます。

「昨日までなかったのに急にできた」と感じるケースの多くは、実際には妊娠中期以降に少しずつできていたものが、見える位置に移動してきたというのが実情です。

洗面台に並べられたボディクリーム・オイル・バターなどの保湿アイテムと、たたまれたタオル

妊娠線ができる原因

妊娠線ができる背景には、大きく分けて二つの要因があります。どちらか一方ではなく、両方が重なって起こると考えられています。

要因1|皮膚が伸びるスピードが追いつかない

ひとつめは物理的な要因です。真皮のコラーゲン線維やエラスチン線維は伸縮性を持っていますが、その伸びには限界があります。

ここで重要なのは、「どれだけ伸びたか」よりも「どれだけ速く伸びたか」のほうが影響が大きいとされている点です。同じ大きさのお腹でも、時間をかけてゆっくり大きくなった場合と、短期間で急にせり出した場合とでは、後者のほうが妊娠線ができやすくなります。

要因2|ホルモンによる皮膚の変化

ふたつめはホルモンの影響です。妊娠中は副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)の分泌が増えますが、このホルモンにはコラーゲン線維の生成を抑えるはたらきがあります。

つまり妊娠中の皮膚は、「大きく伸ばされる」という負荷がかかっているのと同時に、「それを支える線維がつくられにくい」という状態にも置かれているわけです。妊娠線ができやすいのは、この二つが重なるためです。

妊娠中でなくても、思春期の急激な身長の伸びや短期間の体重増加、ステロイド薬の長期使用などで同じような線ができることがあるのは、この仕組みで説明できます。

「保湿をサボったからできた」わけではありません

ここは、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

妊娠線ができる主な要因は、上に挙げた皮膚が伸びるスピードとホルモンの影響であり、どちらもご自身の努力でコントロールできる範囲を大きく超えています。赤ちゃんが順調に育てばお腹は必ず大きくなりますし、ホルモンの分泌量を自分で調整することはできません。

「クリームを塗り忘れた日があったからできた」という因果関係は、はっきりしていません。妊娠線ができたことは、ケアを怠った結果ではないのです。

妊娠線ができやすい人の特徴

研究では、妊娠線ができやすい傾向としていくつかの要因が指摘されています。ただし、これらはあくまで「その傾向がある」という統計上の話です。当てはまるからといって必ずできるわけではありませんし、まったく当てはまらないのにできる方もたくさんいらっしゃいます。

1|妊娠中の体重増加が大きい・急な人

最も繰り返し報告されているのが、体重増加に関する要因です。増加量そのものより、短期間で一気に増えたかどうかが影響すると考えられています。

ただし、体重を増やさないことが目的になってしまうのは本末転倒です。妊娠中の適切な体重増加量は、妊娠前の体格によって推奨される範囲が異なります。自己判断で食事を減らすのではなく、必ず健診で相談してください。極端な制限は赤ちゃんの発育や、貧血のリスクにもつながります。

2|多胎妊娠・赤ちゃんが大きい・羊水が多い

双子などの多胎妊娠、赤ちゃんが大きめに育っている場合、羊水量が多い場合は、お腹の伸びがそれだけ大きくなるため、妊娠線ができやすい傾向があります。

3|小柄・低身長の人

「小柄な人は妊娠線ができやすい」というのは、よく耳にする話です。これには一定の説明がつきます。

身長が低い方や、もともとお腹まわりが細い方は、赤ちゃんが大きくなるときに前方向にせり出す度合いが大きくなりやすいためです。同じ体重の赤ちゃんでも、上下に広がる余地が少ないぶん、皮膚の一部分にかかる伸びの負担が集中しやすくなります。

とはいえ、これも絶対的なものではありません。小柄でもまったくできない方はいらっしゃいますし、体格に恵まれていてもできる方はいます。

4|若い年齢での妊娠

意外に思われるかもしれませんが、年齢が若いほど妊娠線ができやすいという報告が複数あります。「肌が若いほうができにくいのでは」と感じる方が多いのですが、実際のデータは逆の傾向を示しています。

理由はまだ完全には解明されていませんが、若い皮膚のほうがコラーゲン線維の密度が高く、伸びに対して張力がかかりやすいことが関係しているのではないかと考えられています。

5|家族歴・体質

お母さんや姉妹に妊娠線ができた方がいる場合、ご自身にもできやすい傾向があると報告されています。皮膚のコラーゲンやエラスチンの性質には個人差があり、そこには遺伝的な要素が関わっていると考えられています。

チェックリストとしてお使いください
  • 妊娠中の体重が短期間で大きく増えた
  • 双子など多胎妊娠である
  • 赤ちゃんが大きめ、または羊水が多いと言われた
  • 身長が低め・もともとお腹まわりが細い
  • 20代前半までの妊娠である
  • 母親や姉妹に妊娠線ができた人がいる

当てはまる項目が多い方は、妊娠5ヶ月に入る前から保湿を習慣にしておくのがひとつの目安になります。ただし、当てはまることは「できることが決まった」という意味ではありませんし、当てはまらなくてもできる方はいます。過度に気にしすぎないでください。

お腹以外にもできる|部位別の傾向

妊娠線と聞くとお腹を思い浮かべますが、実際には短期間に大きくなる部分ならどこにでもできる可能性があります。お腹だけを保湿していて、思わぬ場所にできて驚いたという声はとても多いです。

太もも・お尻

お腹の次にできやすいのが太ももとお尻です。妊娠中は体重の増加とともに皮下脂肪がつきやすく、特に太ももの内側とお尻の下側は自分では見えにくいため、気づくのが遅れがちです。

胸(バスト)

妊娠中は授乳の準備でバストが大きくなるため、胸の下側や外側、乳房の付け根に妊娠線ができることがあります。バストの変化は妊娠初期から始まるので、お腹より先にこちらにできる方もいらっしゃいます。

妊娠中の胸の張りについては、生理前の胸の張りの記事でホルモンとの関係を解説しています。

二の腕・ふくらはぎ・脇腹

頻度は下がりますが、二の腕の内側やふくらはぎ、脇腹にできることもあります。体重増加が大きかった方に見られやすい傾向です。

見えにくい場所の確認のしかた
  • お腹の底側(おへその下から恥骨まで)は手鏡を使うか、スマートフォンのインカメラで撮影すると確認できます
  • お尻・太ももの裏側は、姿見に背中を向けて振り返るより、スマートフォンで撮るほうが確実です
  • 妊娠後期は無理な体勢がお腹の張りにつながります。届かない場所はパートナーに見てもらうか、健診で相談してください

予防クリームは本当に効くのか|根拠を正直に整理

マタニティ用品売り場に行くと、妊娠線予防をうたうクリームやオイルがずらりと並んでいます。「これを塗っておけば大丈夫」と思いたくなりますが、ここは正直にお伝えしておきたい部分です。

研究で分かっていること・分かっていないこと

妊娠線の予防を目的とした塗り薬・クリーム類については、これまで複数の臨床研究が行われ、それらをまとめて検証した システマティックレビュー(複数の研究を統合して評価する手法)も公表されています。

その結論を要約すると、「妊娠線の予防に有効だと言える質の高い根拠は、現時点では示されていない」というものです。個々の研究では効果を示唆する結果が出たものもありますが、参加人数が少ない、比較のしかたに偏りがあるなど、確かな結論を導くには不十分だと評価されています。

誤解しないでいただきたいこと
  • これは「クリームを塗っても無意味だ」という意味ではありません
  • 「効果がないことが証明された」のでもありません
  • 「効果があるともないとも、はっきり結論づけられるだけの研究がまだ足りていない」という状態です

高額な製品ほど予防効果が高い、といった根拠も示されていません。価格を判断基準にする必要はないということです。

それでも保湿をおすすめする理由

では保湿は無意味なのかというと、私はそうは考えていません。予防効果とは別に、保湿には確かな価値があります

  • かゆみがやわらぐ。妊娠中のお腹は引き伸ばされて乾燥しやすく、多くの方がかゆみに悩まされます。保湿はこのかゆみをやわらげます
  • かき壊しを防げる。かゆくてかきむしると皮膚が傷つき、色素沈着が残ることがあります
  • お腹の変化に早く気づける。毎日触れることで、張りや線の出はじめに自分で気づきやすくなります
  • 気持ちが落ち着く。お腹に触れて赤ちゃんに話しかける時間は、多くの方にとって大切なひとときになっています

「妊娠線を防ぐため」ではなく「乾燥とかゆみのケアのため」と考えておくと、もし妊娠線ができたときにご自分を責めずにすみます。

クリーム・オイル・バターの違いと選び方

タイプ 特徴 向いている方
クリーム のびがよく、べたつきにくい。量の調整がしやすい 朝など、塗ってすぐ服を着たい方
オイル のびがとてもよい。マッサージしやすいが服につきやすい 入浴後にゆっくり時間が取れる方
バター(固形) 油分が多くこっくりしている。保湿力が持続しやすい 乾燥が強い方・冬場

選ぶときの基準は、成分の豪華さよりも「毎日続けられるかどうか」です。具体的には次の3点を確認してみてください。

  • 香り。つわりが続いている時期は、香りの強いものが使えなくなることがあります。無香料のものが無難です
  • テクスチャー。べたつきが苦手な方がバターを選ぶと、続かなくなりがちです
  • 価格と容量。お腹・腰・お尻・太もも・胸まで塗ると、想像より早くなくなります。惜しみなく使える価格帯を選ぶほうが結果的に続きます

1回に使う量と、かかる費用の目安

「たっぷり塗る」とよく言われますが、具体的にどのくらいなのか分かりにくいと思います。目安をお伝えします。

塗る範囲 1回の使用量の目安
お腹まわりのみ ポンプ式で2〜3プッシュ(さくらんぼ1個分ほど)
お腹+腰・わき腹 3〜4プッシュ
お腹+腰+お尻・太もも・胸 5〜7プッシュ(500円玉2〜3枚分ほど)

塗り終わったあとに皮膚がしっとりして、ティッシュが軽くはりつく程度が目安です。すぐにサラサラになるようなら量が足りていません。

この量で全身に1日2回使うと、200g前後の容器が3〜5週間ほどでなくなる計算になります。妊娠5ヶ月から出産までの約6か月間続けるとすると、必要量はおよそ1,000〜1,500g。市販の妊婦向け保湿剤は200g前後で2,000〜4,000円程度の価格帯が中心なので、6か月の総額で1万〜3万円ほどが一つの目安です。

費用を抑えたいときの考え方
  • 妊婦向けと明記された製品でなくても、低刺激・無香料の全身用保湿剤であれば使えます(レチノール配合のものは避けてください)
  • 薬局で扱っている大容量のボディクリームやヘパリン類似物質配合の保湿剤を使っている方も多くいらっしゃいます
  • 高価な製品ほど妊娠線を防げるという根拠は示されていません。量を惜しんで高価なものを少しだけ塗るより、続けられる価格のものをたっぷり使うほうが理にかなっています

塗るタイミングと塗り方

  • 入浴後5分以内が目安。皮膚に水分が残っているうちに塗ると、水分を保ちやすくなります
  • 1日2回(朝と入浴後)が理想。難しければ入浴後の1回でも構いません。回数より継続です
  • 下から上へ、円を描くように。強くこする必要はありません。手のひら全体でやさしくなじませます
  • お腹の底側とわき腹を忘れずに。見えない場所ほど塗り残しが起きます
  • お腹が張ったら中止する。マッサージ中に張りを感じたら、すぐにやめて休んでください

上の子がいて時間が取れないとき

2人目以降の妊娠では、上のお子さんのお世話に追われて、自分のケアの時間がまったく取れないという声をよく聞きます。「数日おきになってしまった」と落ち込む必要はありません。現実的な工夫をいくつかお伝えします。

  • お風呂上がりの脱衣所に置いておく。取りに行く手間があるだけで続かなくなります。子どもの着替えを手伝う前に、自分の分を先に済ませてしまうのが確実です
  • ポンプ式を選ぶ。片手で出せるタイプなら、子どもを見ながらでも塗れます。ふたを開ける動作が1つ減るだけで負担が変わります
  • 優先順位をつける。全身に塗る時間がない日は、下腹部とわき腹だけにしぼって構いません。いちばん伸びるのはこの部分です
  • 「塗れない日があってもいい」と決めておく。そもそも予防効果がはっきりしていないケアです。毎日できないことに罪悪感を持つ必要はありません
妊娠中に注意したい成分
  • レチノール・レチノイン酸(ビタミンA誘導体)を含む製品は、妊娠中の使用は避けるべきとされています。皮膚線条向けの製品にも配合されていることがあるため、妊婦向けと明記されたものを選ぶと安心です
  • 精油(エッセンシャルオイル)配合のものは、妊娠中は使用を控えたほうがよい種類があります

手持ちの化粧品を使ってよいか迷ったときは、成分表示を持って健診で相談するのが確実です。

妊娠線のかゆみへの対処

妊娠中のお腹のかゆみは、とてもよくある悩みです。夜眠れないほどつらいと訴える方もいらっしゃいます。

なぜかゆくなるのか

皮膚が引き伸ばされると、表面の角層が薄くなって水分を保つ力(バリア機能)が低下します。乾燥した皮膚は刺激に敏感になり、衣類がこすれるだけでもかゆみを感じやすくなります。妊娠線ができはじめている部分は特に敏感です。

やってはいけないこと

  • かきむしる。皮膚が傷つき、治ったあとに色素沈着が残ることがあります
  • 熱いお湯につかる・熱いシャワーを当てる。皮脂が流れて乾燥が悪化し、かゆみが強まります。ぬるめのお湯にしてください
  • ナイロンタオルでゴシゴシ洗う。手でやさしく洗うだけで十分です
  • 自己判断でかゆみ止めの市販薬を使う。妊娠中に使えるかどうかは薬によって異なります

受診が必要なかゆみ|妊娠性の発疹との見分け方

単なる乾燥ではなく、治療が必要な皮膚のトラブルが隠れていることもあります。次のような場合は、我慢せずに健診で相談するか皮膚科を受診してください。

受診を検討したいサイン
  • ぶつぶつした赤い発疹が出ている(妊娠線の周囲から広がることが多い)
  • かゆみで夜眠れない
  • お腹だけでなく手のひらや足の裏がかゆい
  • 体全体に広がってきた
  • 皮膚や白目が黄色っぽい

妊娠後期には、妊娠線のあたりから赤い発疹が広がる妊娠性痒疹・妊娠性搔痒性蕁麻疹様丘疹(PUPPP)という状態が起こることがあります。赤ちゃんへの影響は基本的にないとされていますが、かゆみが強く、治療で楽になります。また、手のひらや足の裏の強いかゆみは、まれに肝臓の機能に関わる状態のサインであることがあり、この場合は早めの受診が必要です。

妊婦健診で女性が助産師にお腹の悩みを相談している様子

妊娠線は消える?産後の経過

すでに妊娠線ができている方が、いちばん知りたいのはここだと思います。正直にお答えします。

完全に消すことは難しい、けれど確実に変わります

真皮が断裂した跡である以上、元の皮膚とまったく同じ状態に戻ることは、現在の医療では難しいのが実際のところです。「完全に消える」とうたう情報を見かけたら、いったん慎重に受け止めてください。

ただし、これは「一生このままの見た目が続く」という意味ではまったくありません。妊娠線の見え方は、時間とともに大きく変わっていきます。

色が変わっていく時間の目安

時期 見え方の変化
できた直後〜産後すぐ 赤紫・ピンク色でいちばん目立つ。産後はお腹がしぼむため、しわのように寄って見えることも
産後3〜6か月 赤みが徐々に引きはじめる。色が薄くなってきたと感じる方が多い時期
産後1年前後 白っぽい線に変化。遠目にはかなり分かりにくくなる
それ以降 白い線として残るが、色の差はさらに目立たなくなっていく

産後すぐの時期は、お腹の皮膚がたるんでいることもあって、いちばん気持ちが落ち込みやすいタイミングです。この時期の見た目が最終形ではありません。判断を急がず、まずは体を休めることを優先してください。

産後の体の回復については、悪露(おろ)はいつまで続く?もあわせてご覧ください。

産後にできるセルフケア

  • 保湿を続ける。産後も皮膚は乾燥しやすい状態が続きます。授乳中でも使える保湿剤で構いません
  • 紫外線を避ける。できたばかりの妊娠線に強い紫外線が当たると、色素沈着が残りやすくなります。プールや海に行くときは日焼け止めを
  • 体重を急激に減らさない。急な減量は皮膚のたるみにつながります。授乳中の無理なダイエットは母体の回復にも影響します
  • 焦らない。変化はゆっくり進みます。毎日鏡でチェックすると変化が見えず、かえってつらくなります

医療機関でできること

セルフケアで変化が感じられず、どうしても気になるという場合は、医療機関で相談するという選択肢もあります。

相談先は皮膚科・美容皮膚科

妊娠線そのものの治療は、産婦人科ではなく皮膚科または美容皮膚科の領域です。産後の健診で相談すれば、必要に応じて紹介してもらえることもあります。

どのような方法があるのか

医療機関では、皮膚の再生を促すことを目的とした施術がいくつか行われています。レーザーを用いる方法、細い針で皮膚に微細な刺激を与える方法、外用薬を用いる方法などです。

ただし、これらについてもどの程度改善するかには個人差が大きく、すべての方が満足する結果になるとは限りません。また、白く変化したあとの妊娠線よりも、赤みが残っている段階のほうが変化を期待しやすいとされています。

費用の目安

金額の見当がつかないまま相談に行くのは不安だと思いますので、おおまかな目安をお伝えします。ただし医療機関や施術の種類、範囲によって大きく異なるため、実際の金額は必ずカウンセリングで確認してください。

項目 費用の目安(自費)
初回カウンセリング 無料〜5,000円程度
外用薬の処方 1本あたり数千円〜1万円程度
機器を用いた施術(1回・範囲による) 2万〜10万円程度
複数回コース(5回前後) 10万〜50万円程度

まとまった金額になるため、「何回でどのくらいの変化が見込めるのか」「途中でやめた場合の返金はどうなるのか」を必ず書面で確認してください。その場で契約を求められた場合は、いったん持ち帰って構いません。

相談する前に知っておきたいこと
  • 費用は自費が原則です。妊娠線の治療は健康保険の対象外となるため、全額自己負担になります
  • 複数回の施術が必要になることが一般的です。総額でいくらかかるかを最初に確認してください
  • 授乳中は受けられない施術があります。必ず授乳中であることを伝えてください
  • 「完全に消える」という説明には慎重に。期待できる変化の程度と、起こりうる副反応の両方を説明してくれる医療機関を選んでください

妊娠線とどう付き合うか

最後に、数字や医学の話から少し離れたことをお伝えさせてください。

「予防できなかった」は失敗ではありません

妊娠線ができたことを、ご自分のケア不足だと感じている方に何人もお会いしてきました。「毎日塗っていたのに」「ずぼらだったから」と、ご自分を責める言葉を聞くたびに、少し切なくなります。

この記事でお伝えしてきたとおり、妊娠線ができるかどうかを左右するのは、皮膚が伸びるスピード、ホルモン、体質、体格といった、ご自分では選べない要素がほとんどです。ケアの丁寧さで決まるものではありません。

そして、お腹が大きくなったのは赤ちゃんが順調に育った証です。妊娠線は、その過程で体が引き受けた変化のひとつでしかありません。

気になる気持ちも、否定しなくていい

一方で、「赤ちゃんが元気ならそれでいい」と言われても、割り切れない気持ちがあるのも自然なことだと思います。プールや温泉をためらってしまう、水着を着るのが憂うつ、というのは、軽く扱われていい悩みではありません。

気にする自分を責める必要もありません。気になるなら、保湿を続けてもいいし、医療機関に相談してもいい。どちらを選んでも構わないのだと思います。

人目が気になるときの、現実的な工夫

「じゃあ具体的にどうすればいいのか」という部分にも触れておきます。

場面 現実的な対処
子どもとプールへ行く お腹まわりを覆うワンピース型やタンキニ型の水着、ラッシュガードを選ぶ。日焼け対策にもなり、産後の紫外線ケアと両立できます
温泉・銭湯 気になる時期は貸切風呂や客室露天のある宿を選ぶ方が多いです。家族風呂なら子ども連れでも入りやすくなります
マタニティフォト 撮影前にスタジオへ伝えておくと、角度や布の配置、照明で目立ちにくくしてもらえます。多くのスタジオが慣れています
産後の下着選び 締めつけの強いものは色素沈着の原因になることがあります。ウエストがゴムで押さえつけないタイプを
日常のファッション ハイウエストのボトムスは下腹部を自然に覆えます。無理に隠さなくてもいい、という選択も同じくらい尊重されるべきです

ファンデーションタイプのボディ用カバー化粧品もありますが、水で落ちやすいものは水着の場面には向きません。使う場合はウォータープルーフのものを選び、事前に目立たない場所で試してください。

ただ、産後は体も心も回復の途中にあります。もし気分の落ち込みが続いていたり、自分を責める気持ちが強くなっていたりするようなら、それは肌のことだけが理由ではないかもしれません。産後うつの記事も、よろしければ目を通してみてください。

よくある質問

Q 妊娠線ができやすい人の特徴は?

A.短期間で体重が大きく増えた方、多胎妊娠の方、赤ちゃんが大きめ・羊水が多い方、小柄な方、若い年齢での妊娠の方、家族に妊娠線ができた方がいる場合に、できやすい傾向があると報告されています。ただしこれは統計上の傾向で、当てはまっても必ずできるわけではなく、当てはまらなくてもできる方はいらっしゃいます。詳しくはできやすい人の特徴をご覧ください。

Q 妊娠線は自然に消えますか?

A.完全に消えて元どおりになることは難しいのが実際のところです。ただし、時間とともに赤紫色から白っぽい線へと変化し、目立ちにくくなっていきます。産後3〜6か月で赤みが引きはじめ、1年前後で白っぽい線に落ち着く方が多いです。産後すぐの見た目が最終形ではありませんので、判断を急がないでください。

Q 妊娠線は何ヶ月からできる?

A.お腹が目立ちはじめる妊娠5ヶ月(16週)ごろからが一般的です。最もできやすいのは、お腹が急激に大きくなる妊娠8〜9ヶ月です。妊娠中期を過ぎたから安心ということはなく、臨月に入ってから新しくできることもあります。また、妊娠中はお腹の底側が自分では見えないため、産後に初めて気づく方もいらっしゃいます。

Q 小柄な人は妊娠線ができやすい?

A.その傾向はあるとされています。身長が低めの方やお腹まわりが細い方は、赤ちゃんが大きくなるときに上下へ広がる余地が少なく、前方向にせり出す度合いが大きくなりやすいためです。皮膚の一部に伸びの負担が集中しやすくなります。ただし、小柄でもまったくできない方はいらっしゃいますので、体格だけで決まるものではありません。

Q 1人目でできなかったら、2人目もできませんか?

A.残念ながら、そうとは限りません。2人目以降は皮膚が伸びやすくなっている一方で、お腹が大きくなるのが早い傾向があり、体重の増え方や赤ちゃんの大きさも毎回異なります。1人目でできなかった方が2人目でできることも、その逆もあります。前回できなかったからと油断せず、同じようにケアしておくと安心です。

Q 妊娠線ができてしまったら、もう保湿しなくていい?

A.続けることをおすすめします。理由は二つあります。ひとつは、お腹はこれからさらに大きくなるため、別の場所に新しくできる可能性があること。もうひとつは、乾燥によるかゆみをやわらげ、かき壊しによる色素沈着を防げることです。「妊娠線を防ぐため」ではなく「かゆみと乾燥のケアのため」と考えると、気持ちの負担が軽くなると思います。

Q お腹の真ん中の茶色い線も妊娠線ですか?

A.それは正中線(リネア・ニグラ)で、妊娠線とは別のものです。妊娠線が皮膚の断裂であるのに対し、正中線はホルモンの影響による色素沈着です。産後は数か月から1年ほどかけて自然に薄くなっていきます。触っても段差がなく、お腹の真ん中を縦にまっすぐ1本走っているのが特徴です。詳しくは妊娠線と正中線の違いをご覧ください。

Q 帝王切開の傷跡と妊娠線は同じケアでいいですか?

A.別のものとして考えてください。手術の傷は、傷が落ち着くまで自己判断でクリームを塗ったり触ったりせず、産院の指示に従う必要があります。専用のテープを使う時期についても指示があります。詳しくは帝王切開とは?手術の流れ・費用・傷跡・術後の回復をご覧ください。

産後の女性が窓辺の明るい部屋で赤ちゃんを抱き、穏やかに過ごしている様子

まとめ

妊娠線は、皮膚の内側で真皮の線維が断裂してできる跡です。お腹が伸びるスピードとホルモンの影響が主な要因であり、ケアの丁寧さで決まるものではありません

予防クリームについては、有効だと言える質の高い根拠がまだ示されていないのが現状です。それでも保湿には、かゆみをやわらげ、かき壊しを防ぎ、お腹の変化に早く気づけるという確かな価値があります。「防ぐため」ではなく「快適に過ごすため」と考えていただけたらと思います。

そして、もしできてしまっても、産後1年ほどかけて白っぽく目立ちにくくなっていきます。産後すぐの見た目が最終形ではありません。

この記事のポイントまとめ
  • 妊娠線の正体は真皮の断裂。表面の汚れや色素沈着ではない
  • 妊婦さんの5〜9割にできると報告されており、できるほうが多数派
  • お腹の真ん中の茶色い線は正中線で、妊娠線とは別物。産後に自然に薄くなる
  • できやすいのは妊娠5ヶ月以降、特に8〜9ヶ月がピーク
  • 体重の急増・多胎・小柄・若い年齢・家族歴が、できやすい傾向として報告されている
  • お腹以外に太もも・お尻・胸・二の腕にもできる。見えにくい場所は撮影して確認を
  • 予防クリームの効果を裏づける質の高い根拠は、現時点では示されていない
  • それでも保湿は、かゆみの軽減とかき壊し予防という点で意味がある
  • かゆみに発疹を伴う場合や、手のひら・足の裏がかゆい場合は受診を
  • 産後3〜6か月で赤みが引き、1年前後で白っぽい線に変化していく
  • 医療機関での施術は自費で、複数回必要になることが一般的
  • 妊娠線ができたことは、あなたのケア不足のせいではありません

この記事を書いた人

白石まい(助産師・フェムテックエキスパート)

産婦人科病院で13年間、助産師として延べ2,000件以上の分娩に立ち会う。生理・妊活・更年期など、女性のライフステージに寄り添った健康相談を得意とする。現在はフリーランス助産師として活動しながら、フェムテックエキスパートとして「女性が自分の体をもっと好きになれる社会」を目指してfemnoteで情報を発信中。

参考文献

  • 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン―産科編」
  • Brennan M, Young G, Devane D. Topical preparations for preventing stretch marks in pregnancy. Cochrane Database of Systematic Reviews.
  • 公益社団法人 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」
  • MSDマニュアル プロフェッショナル版「妊娠中の皮膚の変化」
  • 厚生労働省「妊産婦のための食生活指針」