妊娠がわかってから数週間後、健診で突然「赤ちゃんの心拍が確認できません」と告げられる。出血も腹痛もなく、むしろつわりや胸の張りは続いているのに——。

これが稽留流産(けいりゅうりゅうざん)という状態です。体が「気づいていない」まま流産が進んでいるため、ほとんどの場合、自覚症状がありません。突然の告知にショックを受けるのは当然のことです。

この記事では、助産師として延べ2,000件以上の妊娠・出産に関わってきた立場から、稽留流産とは何か、なぜ気づきにくいのか、そして診断後の選択肢について、できるだけ正確かつわかりやすくお伝えします。

稽留流産とは

稽留流産の定義——胎児が亡くなっているのに体が気づかない流産

稽留流産(英:missed abortion / missed miscarriage)とは、胎芽・胎児がすでに亡くなっているにもかかわらず、子宮が自然に内容物を排出しようとしない状態のことです。

通常の流産では、胎児が亡くなると子宮が収縮し、出血とともに内容物が排出されます。ところが稽留流産では、子宮がその変化をキャッチできず、そのままの状態が続きます。妊娠を維持するホルモン(hCG)が体内に残っているため、つわりや胸の張りといった「妊娠の感覚」が続くことも珍しくありません。

稽留流産の3つの特徴
  • 出血・腹痛などの自覚症状がほとんどない
  • つわりや胸の張りが続くことがある
  • 超音波検査(エコー)で初めて発覚するケースが大半

他の流産の種類との違い

流産にはいくつかの種類があり、稽留流産はそのひとつです。混同しやすいものとの違いを整理しておきましょう。

種類 特徴 自覚症状
稽留流産 胎児が亡くなっているが子宮が気づいていない ほぼなし(つわりが続くことも)
進行流産 流産が進行中で排出途中 強い出血・腹痛
切迫流産 流産しかかっているが胎児は生存 出血・軽度の腹痛
化学流産 着床後すぐ(妊娠5週未満)に終わる 生理が遅れる程度

稽留流産が起こる確率

流産全体の確率は妊娠の約15〜20%とされており、そのうち稽留流産は全流産の約50%以上を占めるとも言われています。つまり、流産と診断された場合、稽留流産である可能性が最も高いのです。

年齢別に見ると、30代後半から確率が上昇し、40代では流産率が40〜50%に達することもあります。これは卵子の染色体異常リスクが年齢とともに高まるためで、母体の体力や生活習慣とは関係ありません。

病院の診察室で超音波検査を受ける日本人女性。医師がエコー画面を確認している

稽留流産の症状・なぜ気づかないのか

出血も腹痛もないのが特徴

稽留流産の最大の特徴は「何も感じない」ことです。一般的な流産のイメージである「突然の大量出血」「激しい腹痛」は、稽留流産ではほとんど起こりません。

これは、子宮が胎児の死を認識せず、妊娠を続けようとしているためです。子宮頸管も閉じたまま、体は妊娠状態を維持しようとします。だからこそ、健診で突然告知を受けるという事態が起きるのです。

つわりや胸の張りが続く理由

「つわりがひどかったのに、稽留流産と言われた」という声は多くあります。なぜ、胎児が亡くなっているのにつわりが続くのでしょうか。

つわりの主な原因は、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンです。このホルモンは胎盤を形成する絨毛組織から分泌されます。稽留流産では胎児が亡くなっても、絨毛組織がすぐには消失しないため、hCGが体内に残り続けます。

その結果、つわり・胸の張り・頻尿・倦怠感など、妊娠初期のあらゆる症状が持続することがあります。「症状がある=妊娠が続いている」とは限らないのが、稽留流産の難しいところです。

注意:症状の消失も必ずしもサインではない
逆に「つわりが急にましになった」という変化が稽留流産のサインになることもあります。ただし、妊娠が正常に継続していても症状が落ち着く時期はあるため、症状の有無だけで判断するのは難しいです。定期的な健診による超音波確認が唯一の確実な方法です。

稽留流産はいつ・どうやってわかるのか

稽留流産は、ほとんどの場合、産婦人科での超音波検査(エコー検査)で発覚します。妊娠初期の定期健診(多くは8〜12週ごろ)に行ったとき、または「妊娠確認のための初診」のタイミングで告知されることが多いです。

稀に、何週経っても胎嚢(赤ちゃんの袋)が育たないことが経過観察中に判明するケースや、出血をきっかけに受診して発覚するケースもあります。

稽留流産の診断方法

超音波検査での確認ポイント

稽留流産の診断は、経腟超音波検査(エコー)によって行われます。以下のいずれかが確認された場合に診断されます。

  • 胎芽(胎児になる前の段階)が確認されるが、心拍が認められない
  • 胎嚢(GS)は確認できるが、胎芽が見られない(枯死卵・blighted ovum)
  • 前回の健診から胎嚢の成長が止まっている

ただし、妊娠週数が非常に早い段階では心拍が確認できないこともあります。そのため、1回の検査だけで即診断するのではなく、1〜2週間後に再検査して確認するのが一般的です。

「枯死卵(くれたまご)」について
胎嚢だけが育ち、胎芽が見えない状態を「枯死卵(blighted ovum)」と呼びます。稽留流産の一形態で、受精卵が正常に育たなかったことを意味します。胎嚢が大きくても心拍が確認できなければ、稽留流産と診断されます。

妊娠検査薬との関係

稽留流産を経験している間も、hCGが体内に残っているため、市販の妊娠検査薬は陽性を示し続けます。「検査薬が陽性だから大丈夫」とは言えないのが稽留流産の怖いところです。

妊娠検査薬はあくまでhCGの有無を検出するものであり、胎児が生きているかどうかは判断できません。妊娠がわかったら、できるだけ早めに産婦人科を受診し、超音波検査で確認してもらうことが大切です。

稽留流産の原因

染色体異常が約80%を占める

稽留流産を含む流産の原因として最も多いのは、胎児側の染色体異常です。全流産の約70〜80%が染色体異常によるものとされています。

染色体異常は、精子と卵子が受精した瞬間に偶発的に起こるものです。「卵子・精子の質」が影響することはありますが、それも本人の努力や行動とは関係のないことがほとんどです。「転んだから」「重いものを持ったから」「仕事を続けたから」——そういった行動が稽留流産の原因になることは医学的にありません。

その他の考えられる原因

染色体異常以外の原因として、以下のようなものが挙げられることもありますが、これらは稽留流産の少数例に関係する可能性があるものです。

  • 子宮の形態異常(子宮中隔など)
  • 黄体機能不全(プロゲステロン不足)
  • 感染症(風疹・トキソプラズマなど)
  • 抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫疾患
  • 甲状腺機能異常

「自分のせいではない」という大切な事実

稽留流産と診断されたとき、多くの方が「自分が何かしてしまったのではないか」と自分を責めます。しかし、稽留流産の原因の大部分は受精の瞬間に決まる染色体の問題であり、その後の生活行動で変えられるものではありません。

医師が「安静にしてください」と言う場合も、あくまで出血や感染を防ぐためであって、安静にすれば稽留流産が防げるわけではありません。「もっと安静にしていれば」という後悔は医学的に意味がないことを、どうか知っておいてください。

産婦人科の待合室で静かに待つ日本人女性。稽留流産後の治療選択を考えている様子

治療法:手術か自然排出か

稽留流産と診断されたあと、取り得る選択肢は大きく2つです。

  1. 手術(子宮内容除去術)——子宮内の内容物を医療的に取り除く
  2. 自然排出(待機療法)——体が自然に内容物を排出するのを待つ

どちらを選ぶかは、妊娠週数・体の状態・本人の意向・医師の判断などを踏まえて決めることになります。

手術(子宮内容除去術)の方法・費用・入院の有無

稽留流産の手術は「子宮内容除去術」と呼ばれ、主に「吸引法(MVA・EVA)」が行われます。子宮頸管を拡張し、子宮内の内容物を吸い出す方法です。

手術の流れ(一般的な例)

  1. 前日または当日に子宮頸管拡張処置(ラミナリア等を挿入)
  2. 全身麻酔または静脈麻酔下で手術(15〜30分程度)
  3. 術後は数時間経過観察、当日退院が多い(日帰り手術)

費用の目安:保険適用となり、自己負担3割で概ね2〜5万円程度が一般的です(病院や週数によって異なります)。高額療養費制度の対象になる場合もあるため、事前に確認しましょう。

手術のメリット・デメリット
  • ✅ 短期間で終わる。精神的な長期間の不安が少ない
  • ✅ 医師のもとで管理された環境で処置できる
  • ✅ 感染リスクが低い(適切な管理下で)
  • ⚠️ 麻酔・手術のリスクが伴う(わずかだが子宮穿孔・癒着のリスクがある)
  • ⚠️ 費用がかかる

自然排出(待機療法)を選ぶ場合

妊娠週数が早い段階(8週未満が目安)であれば、体が自然に流産を完了するのを待つ「待機療法」を選択できる場合があります。

自然排出が始まると、生理の重い日のような、または場合によってはそれ以上の出血と腹痛が起こります。多くの場合、1〜4週間以内に排出が始まりますが、時間がかかることもあります。

排出後に内容物が残っていないかを超音波で確認し、残存があれば追加処置が必要になることもあります。

自然排出のメリット・デメリット
  • ✅ 手術・麻酔のリスクがない
  • ✅ 体が自然なプロセスをたどる
  • ⚠️ いつ排出が始まるかわからず、精神的な負担が続く
  • ⚠️ 出血・痛みが強くなることがある
  • ⚠️ 排出が不完全な場合は手術が必要になることもある
  • ⚠️ 感染リスクに注意が必要

どちらを選ぶか——医師と話し合うためのポイント

どちらの選択が「正しい」ということはありません。大切なのは、自分の状況・気持ち・生活環境を医師に伝え、一緒に判断することです。

以下の点を医師に確認してみましょう。

  • 今の週数・状態で自然排出は現実的か
  • 手術を行う場合のスケジュール感
  • どちらの選択でも次の妊娠への影響は同じか
  • 自然排出を待って、もし完全に排出されない場合はどうなるか

また、心理的な面も大切です。「早く終わらせてまた前を向きたい」という気持ちも、「手術が怖い、自然に任せたい」という気持ちも、どちらも正当な理由です。

手術後・自然排出後の身体の経過

術後の生理はいつ戻るか

稽留流産の手術後(または自然排出後)、次の生理は概ね4〜8週間後に来ることが多いです。ただし、個人差があり、体の回復状況によって前後します。

流産後の最初の生理は、量が多かったり、周期が乱れたりすることがあります。これは子宮が通常の周期に戻る過程であり、1〜2サイクルで安定してくることがほとんどです。生理が3か月以上来ない場合は、受診して確認しましょう。

身体の回復期間と安静の目安

手術後は、一般的に以下の点に注意します。

  • 性交渉:出血が止まり、医師の許可が出るまで(術後3〜4週が目安)控える
  • 入浴:湯船は術後1〜2週は控え、シャワーにする(感染予防)
  • 激しい運動:出血がある間は控える
  • 受診のタイミング:出血が増える・発熱・腹痛が強まる場合はすぐに連絡する

心のケア(グリーフ反応は正常)

稽留流産は身体の問題だけでなく、心への影響も大きいです。悲しみ・怒り・罪悪感・虚無感——こうした感情は「グリーフ(悲嘆)反応」と呼ばれる、喪失に対する正常な反応です。

これらの感情をなかったことにする必要はありません。泣いていい、怒っていい、立ち直るのに時間がかかっていい。「早く気持ちを切り替えなければ」というプレッシャーを自分にかけないでください。

パートナーや信頼できる人に気持ちを話す、流産経験者のコミュニティを探す、必要に応じてカウンセリングを受けるなど、自分に合ったサポートを探してみましょう。

稽留流産後の次の妊娠

いつから妊活を再開できるか

稽留流産後、次の妊娠を望む場合、一般的には「次の生理を1回待つ」ことが推奨されています。これは、子宮内膜の状態を整え、次回の妊娠の週数計算をしやすくするためです。

ただし、最近の研究では「生理を待たずにすぐに妊娠しても流産率に差はない」という報告もあり、医師によっては「次の生理を待たずに妊活を再開してもよい」と言う場合もあります。自分の体と気持ちの状態、主治医の意見を総合的に判断してください。

稽留流産を経験したからといって、次の妊娠が必ずしも難しくなるわけではありません。1回の流産後の次回妊娠率は、流産経験のない方と統計的にほぼ変わらないとされています。

繰り返す場合(不育症)を疑う目安

流産が2回以上繰り返す場合(反復流産)、または3回以上繰り返す場合(習慣流産)には「不育症」の可能性を考え、専門的な検査を受けることが推奨されます。

不育症の主な原因としては以下が挙げられます。

  • 抗リン脂質抗体症候群(血液が固まりやすくなる自己免疫疾患)
  • 子宮形態異常(中隔子宮など)
  • 夫婦染色体異常
  • 甲状腺機能異常

不育症と診断されても、適切な治療(低用量アスピリン・ヘパリン療法など)によって、多くの場合、次の妊娠・出産が可能になります。「繰り返す」と感じたら、婦人科・不育症外来への相談を早めに行うことをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q つわりがひどかったのに稽留流産と言われました。なぜですか?

A.つわりの原因はhCG(妊娠ホルモン)であり、胎児が亡くなっても絨毛組織からのhCG分泌がすぐには止まらないためです。稽留流産の間もつわりが続くことは珍しくありません。症状の有無は胎児の生存を示すものではなく、超音波検査による確認が唯一の判断方法です。

Q 手術と自然排出、どちらがいいですか?

A.どちらが正解ということはありません。妊娠週数・体の状態・仕事や生活スケジュール・心理的な負担——これらを総合的に考えて、担当医と相談した上で決めることが大切です。「早く終わらせたい」「麻酔が怖い」「自然に任せたい」いずれの理由も正当です。次の妊娠への影響はどちらの方法でもほぼ同じとされています。

Q 稽留流産後、次の妊娠はいつからできますか?

A.身体的には次の生理が来れば妊活を再開できることが多いです。一般的には「1回生理を待つ」ことを推奨する医師が多いですが、「すぐに再開してもよい」という医師もいます。主治医の指示に従いながら、自分の心身の状態を最優先に判断しましょう。

Q 稽留流産は予防できますか?

A.稽留流産の原因の大部分は染色体異常であり、現時点では予防する方法はありません。葉酸サプリを飲む、禁煙する、過度な飲酒を避けるといった「妊活の基本」は流産リスクをわずかに下げる可能性がありますが、稽留流産そのものを防ぐ特効薬はないというのが正直なところです。

Q 稽留流産の手術(子宮内容除去術)は痛いですか?

A.手術は全身麻酔または静脈麻酔(鎮静剤)のもとで行われるため、術中の痛みはほとんど感じません。術後は数時間、生理痛のような鈍痛や違和感を感じることがありますが、1〜2日で落ち着くことが多いです。頸管拡張処置(手術前日に行う場合)の際に不快感を感じることはあります。

まとめ

この記事のポイントまとめ
  • 稽留流産とは、胎児が亡くなっているのに子宮が気づかず、出血・腹痛がない流産のこと
  • つわりや胸の張りが続いていても稽留流産になることがある(hCGが残るため)
  • 超音波検査(エコー)で初めて発覚するケースがほとんど
  • 原因の約80%は染色体異常であり、生活行動が原因になることはない
  • 治療は「手術(子宮内容除去術)」か「自然排出(待機療法)」を選べる。次の妊娠への影響はどちらもほぼ同じ
  • 術後の生理は4〜8週後に来ることが多く、次の妊活は1回の生理後に再開できる場合が多い
  • 2回以上繰り返す場合は不育症の検査を検討する
  • 悲しみや罪悪感はグリーフ反応として正常。自分を責めないで

稽留流産の告知は、予告なく訪れます。「まさか自分が」という気持ち、「なぜ?」という疑問、「自分のせい?」という自責——これらはすべて自然な感情です。

ただ、医学的な事実として、稽留流産の原因のほとんどはあなたにはどうにもできないものです。そしてほとんどの場合、適切な処置の後、次の妊娠は可能です。

体と心の回復のペースは人それぞれです。焦らず、自分自身を大切に、次のステップへ進んでいただけたらと思います。

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この記事を書いた人

白石まい(助産師・フェムテックエキスパート)

産婦人科病院で13年間、助産師として延べ2,000件以上の分娩に立ち会う。生理・妊活・更年期など、女性のライフステージに寄り添った健康相談を得意とする。現在はフリーランス助産師として活動しながら、フェムテックエキスパートとして「女性が自分の体をもっと好きになれる社会」を目指してfemnoteで情報を発信中。

参考文献

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  • Coomarasamy A, et al. "Mifepristone and Misoprostol versus Misoprostol Alone for the Management of Failed First Trimester Miscarriage." N Engl J Med. 2020;383(26):2485-2494.
  • MSDマニュアル「流産(初期流産・後期流産・稽留流産)」