「食欲はあるのに、食べようとすると気持ち悪い」「朝起きたときのムカムカが、つわりのときとそっくり」——40代後半から50代にかけて、こうした吐き気に悩まされる方は少なくありません。

ところが、この症状は更年期の不調としてあまり知られていません。ほてりや発汗、イライラは「更年期かも」と思えても、吐き気は胃腸の問題だと考えて内科を受診し、検査で異常なしと言われて途方に暮れる。そんな経過をたどる方が多いのです。

更年期の吐き気は、実際にホルモンの変動と自律神経の乱れから起こります。一方で、吐き気は重大な病気のサインでもあるため、「更年期だから」で片づけてはいけない症状でもあります。この記事では、更年期由来の吐き気のしくみと、見逃してはいけない病気との見分け方、そして今日からできる対処法を整理します。

更年期に吐き気が起こるのはなぜ|4つのメカニズム

更年期の吐き気は、ひとつの原因ではなく複数の要素が重なって起こります。

1. 自律神経の乱れが胃腸の働きを狂わせる

もっとも大きな要因がこれです。胃腸の動きは自律神経(交感神経と副交感神経)によってコントロールされています。食べ物を消化するときは副交感神経が優位になって胃腸が動き、緊張しているときは交感神経が優位になって胃腸の動きが止まります。

更年期はエストロゲンの急激な変動によって、この自律神経のバランスが乱れます。すると胃の動きが鈍くなり、食べたものが長く胃にとどまることになります。これが「胃もたれ」「むかつき」「吐き気」として感じられます。

エストロゲンの分泌をコントロールしている脳の視床下部は、自律神経の中枢でもあります。ホルモンの乱れが自律神経に直結するのは、この構造上の理由からです。

2. セロトニンの変動が嘔吐中枢に影響する

セロトニンという物質は「幸せホルモン」として知られていますが、実はその大半(約90%)は腸に存在しており、胃腸の動きを調整する役割を担っています。さらに、脳にある「嘔吐中枢」もセロトニンの影響を受けます。

エストロゲンにはセロトニンの働きを支える作用があるため、エストロゲンが減るとセロトニンのバランスも崩れ、吐き気が起こりやすくなります。更年期に気分の落ち込みと吐き気が同時に現れることがあるのは、共通の背景があるためです。

3. めまいに伴って起こる吐き気

更年期には内耳の血流や平衡感覚の調整にも影響が及び、めまいが起こりやすくなります。平衡感覚の乱れは、脳の嘔吐中枢を直接刺激します。乗り物酔いで気持ち悪くなるのと同じしくみです。

「めまいがして、そのあと吐き気が来る」というパターンの方は、吐き気そのものよりめまいへの対処が有効なことがあります。

4. ストレス・睡眠不足・ほかの症状の連鎖

更年期の症状は、単独では起こりにくいという特徴があります。

  • 不眠で睡眠が浅くなる → 自律神経がさらに乱れる → 胃腸の不調が悪化
  • 頭痛が強い → 頭痛に伴う吐き気が起こる(特に片頭痛タイプ)
  • 動悸や不安感 → 交感神経が優位になり胃腸が止まる
  • 「また気持ち悪くなるのでは」という不安 → 予期不安でさらに吐き気が誘発される

この最後の「予期不安による悪循環」は見落とされがちですが、実際にはかなり大きな要素です。吐き気を怖がることが、吐き気を呼ぶという構造になっています。

更年期の吐き気の特徴|どんな出方をするか

「つわりのよう」と表現される理由

更年期の吐き気を経験した方の多くが「妊娠したときのつわりに似ている」と表現します。共通点があるためです。

共通する特徴 内容
実際に吐くことは少ない 「気持ち悪いけれど吐けない」というムカムカが続く
空腹時に悪化する 胃が空になると気持ち悪さが強まる
においに敏感になる 調理中のにおい、香水、たばこなどで誘発される
食べられるものが偏る 冷たいもの、さっぱりしたものなら食べられる
波がある 一日中ではなく、強い時間帯と楽な時間帯がある

どちらもホルモンの大きな変動が背景にあるという点で共通しています。つわりはhCGやエストロゲンの急上昇、更年期はエストロゲンの急降下と、方向は逆ですが「急激な変化」という点は同じです。

出やすい時間帯・場面

  • 朝、起きたとき:空腹に加え、起床時は自律神経が切り替わるタイミングで不安定になりやすい
  • 食後しばらくして:胃の動きが鈍く、食べたものが停滞している
  • ホットフラッシュの前後ほてりや発汗と連動して気分が悪くなる
  • 緊張する場面:会議前、人前で話す前など交感神経が優位になるとき
  • 疲れがたまった夕方
  • 生理の前後:閉経前でまだ生理がある場合、ホルモン変動が重なって悪化することがあります
症状を記録すると原因が見えてきます
いつ・どんな状況で吐き気が出たかを1〜2週間メモしてみてください。「空腹時に多い」「ほてりとセットで来る」「特定の時間帯に集中している」といったパターンが見えると、対処の方向が定まります。受診時にもそのまま使える情報になります。
窓辺のテーブルに置かれた湯気の立つハーブティーのカップと、小皿にのせたクラッカー、添えられたミントの葉・レモン・しょうが

めまいと吐き気が同時に来るとき

更年期の吐き気で特に多いのが、めまいとセットで現れるパターンです。どちらが先に来るかによって、対処の考え方が変わります。

パターン 考えられること 対処の方向
めまい → 吐き気 平衡感覚の乱れが嘔吐中枢を刺激している めまいへの対処が優先。横になって目を閉じる
吐き気 → めまい 自律神経の乱れが両方に出ている 自律神経を整えるアプローチ(睡眠・呼吸・生活リズム)
立ち上がったときにセットで来る 起立性の血圧変動(脳貧血) ゆっくり起き上がる。水分・塩分を適切にとる
ぐるぐる回るめまい+強い吐き気 耳の病気(メニエール病・良性発作性頭位めまい症)の可能性 耳鼻咽喉科の受診を検討

特に「天井がぐるぐる回る」タイプのめまいに強い吐き気を伴う場合は、耳の病気が隠れていることがあります。更年期のめまいは「ふわふわする」「立ちくらみ」タイプが多いため、回転性の場合は一度耳鼻咽喉科で診てもらう価値があります。詳しくは 更年期のめまい の記事もご覧ください。

更年期のせいにしてはいけない病気

ここがこの記事でもっとも大切な部分です。吐き気は、命に関わる病気の初期症状として現れることがあります。「更年期だから」と自己判断して様子を見た結果、対応が遅れることは避けなければなりません。

すぐに受診すべき|脳の病気

次の症状を伴う吐き気は、すぐに救急要請または受診を
  • これまで経験したことのない激しい頭痛と同時に起きた吐き気
  • 手足のしびれ・力が入らない・片側だけ動かしにくい
  • ろれつが回らない、言葉が出にくい
  • 物が二重に見える、視野が欠ける
  • 意識がもうろうとする
  • 激しい嘔吐をくり返す

くも膜下出血や脳梗塞などでは、吐き気が初期症状として現れます。ためらわず119番、または救急外来へ。「大げさかも」と考えて時間を置くことのほうが危険です。

すぐに受診すべき|心臓の病気

女性の心筋梗塞は「胸の痛み」以外で現れることがあります
心筋梗塞というと激しい胸の痛みを想像しますが、女性は非典型的な症状で発症することが男性より多いことが知られています。次のような症状に注意してください。
  • 吐き気・嘔吐(消化器の不調と間違えられやすい)
  • みぞおちの痛み・胃の不快感
  • あご・首・肩・背中の痛み
  • 冷や汗、強い倦怠感、息苦しさ

特に閉経後はエストロゲンによる血管の保護作用が失われ、心血管疾患のリスクが上がります。「胃の調子が悪いだけ」と思っていたら心筋梗塞だった、というケースは実際にあります。冷や汗を伴う吐き気は迷わず受診してください。

数日以内に受診を|消化器の病気

  • 逆流性食道炎:胸やけ、酸っぱいものが上がってくる感じを伴う。この年代に増えます
  • 胃炎・胃潰瘍:みぞおちの痛み、黒い便を伴うことがある
  • 胆石・胆のう炎:右上腹部の痛み、脂っこいものを食べたあとの悪化
  • 胃がん:体重減少、食欲不振、貧血を伴うことがある。40代以降は胃がん検診の対象年齢です
  • ヘリコバクター・ピロリ菌感染:検査で調べられます

見落とされやすい|そのほかの原因

原因 ポイント
妊娠 閉経が確定するまで妊娠の可能性は残ります。40代の吐き気で妊娠を確認せず数か月経過するケースは実際にあります。心当たりがあれば妊娠検査薬で確認を
甲状腺の病気 動悸、体重変化、倦怠感を伴う。更年期と症状が似ており、血液検査で区別できます
貧血 閉経前の過多月経で鉄が不足している場合。立ちくらみ、息切れを伴う
薬の副作用 鎮痛剤、骨粗しょう症の薬、サプリメントなど。飲み始めた時期と一致しないか確認を
片頭痛 更年期に悪化しやすい。頭痛に吐き気が伴うタイプは片頭痛の可能性(更年期の頭痛
不安障害・うつ 身体症状として吐き気が出ることがあります(更年期の精神症状
「検査で異常なし」と言われたときこそ婦人科へ
内科や消化器内科で検査を受けて異常が見つからなかった場合、そこで終わりにせず婦人科で更年期の可能性を相談してください。「原因不明」ではなく「ホルモンの変動によるもの」と分かるだけで、対処の道筋が見えます。

内科での検査は無駄ではありません。重大な病気を除外できたという重要な情報になり、婦人科での判断もしやすくなります。検査結果は持参してください。

吐き気が来たときに今すぐできること

実際に気持ち悪くなったとき、その場でできる対処をまとめます。

楽な姿勢をとる

  • 横向きに寝る:仰向けより楽なことが多く、万が一吐いても安全です
  • 横になれないときは、座って前傾姿勢:机に突っ伏す形でも構いません
  • ベルトや下着をゆるめる:腹部の圧迫を減らします
  • 目を閉じる:めまいを伴うときは特に有効。視覚情報を減らすと楽になります

呼吸を整える

吐き気があるときは呼吸が浅く速くなりがちで、それがさらに自律神経を乱します。

  1. 鼻から4秒かけて息を吸う
  2. そのまま2秒止める
  3. 口から6〜8秒かけてゆっくり吐く
  4. これを5回ほどくり返す

吐く息を長くするのがポイントです。副交感神経が優位になり、胃腸の動きが戻りやすくなります。

口にできるもの

  • 冷たい水・炭酸水を少しずつ:一気に飲まず、ひと口ずつ。冷たいほうが吐き気を感じにくいです
  • 氷やアイスをなめる:口の中がさっぱりして楽になります
  • しょうが:吐き気の軽減に用いられてきた食材です。しょうが湯やジンジャーティーで
  • ペパーミント・カモミールのハーブティー:胃の緊張をやわらげる目的で使われます
  • クラッカー・ビスケットを少量:空腹で悪化するタイプの方に有効。枕元に置いておき、朝起きる前に食べると楽なことがあります
  • 梅干し・レモン:酸味で唾液が出て、さっぱりします

においを避ける

更年期の吐き気ではにおいが引き金になることが多いため、換気する、調理のにおいがこもらないようにする、香りの強い柔軟剤や芳香剤を控える、といった対応が効きます。マスクをするだけでも軽減することがあります。

ツボを押す

吐き気に対して古くから用いられているツボがあります。医学的な効果が確立しているわけではありませんが、副作用がなく、その場でできる方法として知っておくと役立ちます。

  • 内関(ないかん):手首のしわから指3本分ひじ寄り、腕の中央。乗り物酔い対策のリストバンドが刺激する場所です
  • 中脘(ちゅうかん):みぞおちとおへその中間。手のひらでゆっくり温めるようにさする

日常でできる予防

食事の工夫

  • 1回の量を減らして回数を増やす:1日3食にこだわらず、4〜5回に分けると胃の負担が減ります
  • 空腹時間を作らない:空腹で悪化するタイプの方は特に。ナッツやクラッカーを常備
  • 脂っこいもの・刺激物を控える:胃の停滞時間が長くなります
  • よく噛む:消化の負担を減らす基本です
  • 食後すぐ横にならない:逆流を招きます。食後2〜3時間は上体を起こしておく
  • 寝る前3時間は食べない
  • アルコール・カフェインを見直す:どちらも胃の粘膜を刺激し、自律神経にも影響します

自律神経を整える生活

  • 起床・就寝の時刻を一定にする:自律神経のリズムの土台です
  • 朝、日光を浴びる:体内時計とセロトニンの調整に関わります
  • ウォーキングなどの有酸素運動:1日20〜30分から。自律神経のバランスを整えます
  • 入浴でぬるめのお湯につかる:38〜40℃で10〜15分。熱すぎるお湯は逆に交感神経を刺激します
  • 睡眠を確保する:眠れないことが症状を悪化させます(更年期の不眠

生活面の対策全般は 更年期の生活習慣ケア更年期の食事 にもまとめています。

朝の光が差し込む公園の遊歩道を、ゆったりとした歩調で散歩している50代前半の日本人女性の後ろ姿

仕事中に吐き気が来たときの乗り切り方

職場で気持ち悪くなっても、横になれるわけでも、席を長く外せるわけでもありません。デスクに座ったままできることを中心に、現実的な対処をまとめます。

その場でできること(席を立たずに)

  • 吐く息を長くする呼吸:4秒吸って、6〜8秒かけて吐く。パソコンに向かったままでもできて、周囲にも気づかれません
  • ベルトやウエストをゆるめる:腹部の圧迫は吐き気を強めます
  • 冷たい水をひと口ずつ飲む:デスクに常備しておく
  • マスクをする:においが引き金の場合、これだけでかなり違います。ミントのタブレットを口に含んでおくのも有効
  • 内関のツボを押す:手首から指3本分ひじ寄り。片手で押せるので会議中でもできます
  • 目を閉じて数十秒休む:めまいを伴うときに有効。「少し考えている」ように見えます
  • 窓を開ける・換気の良い場所へ移動する:数分の離席でも十分効果があります

デスクに置いておくと安心なもの

もの 役割
ペットボトルの水・炭酸水 ひと口ずつ飲む。冷たいほうが楽
クラッカー・ナッツ・小さめのビスケット 空腹で悪化するタイプの方に。会議前に少量食べておく
ミントタブレット・のど飴 口の中がさっぱりして気がまぎれる
マスク においの遮断。周囲の香水や食べ物のにおい対策
薄手のカーディガン ほてりと冷えの両方に対応。体温変動が吐き気の引き金になることがあります
エチケット袋 「もし吐いたら」という不安が吐き気を強めるため、持っているだけで予期不安が減ります

働き方の調整も選択肢に

症状が続く場合、根性で乗り切ろうとするより働き方を調整するほうが合理的です。次のような手段があります。

  • 朝に強い場合は時差出勤を相談する:朝の吐き気が強いタイプの方に有効
  • 昼食を分割してとる:一度に食べず、午前と午後に分ける
  • 産業医・保健師に相談する:従業員50人以上の事業場には産業医がいます。上司に直接言いにくい場合の窓口になり、相談内容には守秘義務があります
  • 診断書を活用する:「就業上の配慮が必要」と書いてもらうことで、話が通りやすくなります
  • 年次有給休暇の時間単位取得:通院のために数時間だけ休める制度を導入している企業が増えています

家族・周囲に理解してもらうために

「気にしすぎじゃないの」「検査で異常なかったんでしょ」。この言葉に傷ついている方は、本当に多いです。悪意なく言われるぶん、余計につらいものです。

なぜ理解されにくいのか

更年期の吐き気が伝わりにくい理由は、はっきりしています。

  • 検査で異常が出ない:数値やレントゲンで示せないため「証拠がない」と受け取られる
  • 見た目に分からない:熱や腫れのように外から見えない
  • 波がある:「さっきまで元気だったのに」と誤解される
  • 更年期=ほてりというイメージが強い:吐き気が更年期症状だと知られていない

伝わりやすい説明のしかた

感情ではなくしくみと事実で伝えると、受け取られ方が変わります。

伝わりにくい言い方 伝わりやすい言い方
「気持ち悪くてつらい」 「ホルモンの変化で自律神経が乱れて、胃の動きが悪くなっている状態だと医師に言われた」
「分かってくれない」 「乗り物酔いがずっと続いている感じ、と言えば近いかも」
「体調が悪い」 「朝と夕方に強く出るから、その時間の家事を代わってもらえると助かる」
「もう無理」 「治療で軽くできる可能性があるから、通院する。その日は少し早く帰る」
受診して「診断名」をもらうことの意味
医療機関で更年期症状と診断されることには、治療以外の価値もあります。「医師にこう言われた」という一言は、家族への説明として非常に強いのです。

「気のせい」と言われ続けて自分でも自信をなくしてしまう方がいますが、自律神経とホルモンの変動という明確なしくみがあり、気のせいではありません。必要であれば、診察時に「家族に説明したいので、状態を書いてもらえますか」と相談することもできます。

また、パートナーに直接読んでもらうという方法もあります。口で説明するより、記事や資料を「これ読んでみて」と渡すほうが伝わることは少なくありません。

病院での治療の選択肢

セルフケアで改善しない場合、医療機関で相談できることがあります。

HRT(ホルモン補充療法)

更年期症状の原因であるエストロゲンの低下を補う方法です。吐き気そのものを直接止める治療ではありませんが、自律神経の乱れやほてり・めまいなど背景にある症状が落ち着くことで、吐き気も軽くなることが期待できます。

ただし、HRTの開始初期に副作用として吐き気が出ることがあります。その場合は投与量や剤形(貼り薬・塗り薬への変更など)で調整できることが多いので、自己判断で中止せず主治医に相談してください。詳しくは HRT をご覧ください。

漢方薬

吐き気や胃の不調に対して、体質や症状の組み合わせに応じた処方が選ばれます。更年期領域でよく用いられるものとしては、加味逍遙散・半夏厚朴湯・六君子湯・当帰芍薬散などがあります。「更年期だから加味逍遙散」と一律に決まるものではなく、証(体質)に合わせて選ぶのが漢方の考え方です。詳しくは 更年期と漢方 をご覧ください。

胃腸の薬

胃の動きを助ける薬(消化管運動改善薬)や、胃酸を抑える薬が処方されることがあります。逆流性食道炎が背景にある場合は、その治療で吐き気が軽くなることもあります。

抗不安薬・抗うつ薬

不安が強く、予期不安によって吐き気が誘発されている場合には、精神面へのアプローチが有効なことがあります。心療内科との連携が検討されます。

治療の選択肢全体は 更年期の治療法 にまとめています。

受診の目安と、何科に行けばいいか

受診の目安

この場合は受診してください
  • 吐き気が2週間以上続いている
  • 食事がとれず、体重が減ってきた
  • 嘔吐をくり返す、水分もとれない
  • 激しい頭痛・しびれ・ろれつが回らないなどを伴う(すぐに救急へ
  • 冷や汗を伴う、みぞおちや背中の痛みがある(すぐに救急へ
  • 黒い便が出た、血が混じった
  • 発熱を伴う
  • 日常生活や仕事に支障が出ている

何科に行けばいい?

受診先 向いているケース
婦人科 ほてり・発汗・生理不順など更年期らしい症状が揃っている。HRTや漢方を検討したい。まずここが第一候補
内科・消化器内科 胃の痛み、胸やけ、体重減少がある。胃カメラなどで消化器の病気を除外したい
耳鼻咽喉科 ぐるぐる回るめまいを伴う、耳鳴りや聞こえにくさがある
脳神経内科・救急 激しい頭痛、しびれ、言葉が出にくいなどを伴う(緊急
心療内科 不安や気分の落ち込みが強く、身体症状として吐き気が出ている

迷ったときはまず婦人科で構いません。更年期以外の原因が疑われる場合は、適切な診療科を紹介してもらえます。

受診時に伝えるとよいこと

  • いつから吐き気があるか
  • どんな時間帯・場面で出るか(記録があれば持参)
  • 実際に吐くことがあるか
  • ほかにある症状(ほてり・めまい・頭痛・動悸など)
  • 最終月経の日付、生理の状況
  • 服用中の薬・サプリメント(お薬手帳)
  • すでに受けた検査の結果

よくある質問

Q 更年期の吐き気はいつまで続きますか?

A.更年期症状の多くは、ホルモンの変動が大きい時期にもっとも強く出て、閉経後しばらくすると落ち着いていく傾向があります。ただし個人差が大きく、数か月で軽くなる方も、数年続く方もいます。「終わるまで我慢する」必要はありません。治療で軽くできる部分があるため、つらければ早めに相談してください。

Q 内科で「異常なし」と言われました。どうすればいいですか?

A.次は婦人科を受診してください。「内科で検査をして異常がなかったが、吐き気が続いている。更年期の可能性を診てほしい」と伝えれば通じます。内科の検査結果は持参を。重大な病気が除外できているという情報は、婦人科での判断に役立ちます。原因が分からないまま放置するのがいちばんつらい状態です。

Q 市販の吐き気止めを飲んでもいいですか?

A.一時的に使うことはできますが、飲み続けて様子を見るのは避けてください。吐き気は重大な病気のサインでもあり、薬で抑えることで発見が遅れる可能性があります。また、ほかの薬を服用中の方は飲み合わせの確認が必要です。購入時に薬剤師へ相談し、数日使って改善しなければ受診してください。

Q 40代です。吐き気は妊娠の可能性もありますか?

A.あります。閉経が確定するまで妊娠の可能性は残ります。生理が不順になっている時期は「妊娠しない」と思い込みやすいのですが、排卵が起きていれば妊娠します。性交渉の機会があり、生理が遅れていて吐き気がある場合は、まず妊娠検査薬で確認してください。これは更年期の相談の前に済ませておくべき確認です。

Q 朝だけ吐き気があります。なぜですか?

A.朝は空腹であることと、副交感神経から交感神経へ切り替わるタイミングで自律神経が不安定になることが重なり、吐き気が出やすい時間帯です。対策としては、起き上がる前にクラッカーなどを少量食べる、急に起き上がらず数分かけて体を起こす、といった方法が有効です。ただし朝の吐き気は妊娠でも起こるため、その可能性の確認は先に済ませてください。

Q HRTを始めたら吐き気が出ました。合わないのでしょうか?

A.HRTの開始初期に吐き気が出ることはあり、多くは体が慣れるにつれて軽くなります。自己判断で中止せず、主治医に相談してください。飲み薬から貼り薬・塗り薬に変える、量を調整する、飲むタイミングを変えるなどで改善することがよくあります。「合わない=HRTができない」ではなく、調整の余地がある段階です。

Q 吐き気で食べられず、体重が減ってきました。

A.体重減少を伴う吐き気は、必ず受診してください。更年期の吐き気で体重が大きく減ることは多くなく、消化器の病気や甲状腺の異常が背景にある可能性があります。「食べられないだけ」と考えず、内科での検査を受けたうえで婦人科にも相談を。栄養が不足すると症状全体が悪化する悪循環にもなります。

Q 周りに「気のせい」と言われてつらいです。

A.更年期の吐き気は検査で異常が出ないことが多いため、理解されにくい症状です。しかし自律神経とホルモンの変動という明確なしくみがあり、気のせいではありません。医療機関で「更年期症状」として診断を受けることは、自分自身が納得するためにも、周囲に説明するためにも意味があります。必要なら診断書を書いてもらうこともできます。

まとめ

更年期の吐き気は、ほてりや発汗ほど知られていないぶん、原因が分からず長く悩みやすい症状です。しくみを知っておくと、対処の方向が見えてきます。

この記事のポイントまとめ
  • 更年期の吐き気は自律神経の乱れ・セロトニンの変動・めまい・ストレスが重なって起こる
  • 「つわりのよう」と感じるのは、どちらもホルモンの急激な変動が背景にあるため
  • 空腹時・朝・ほてりの前後・緊張時に出やすい。記録するとパターンが見える
  • 回転性のめまいを伴う強い吐き気は、耳の病気の可能性を考える
  • 激しい頭痛・しびれ・ろれつが回らないを伴う吐き気は、すぐ救急へ
  • 冷や汗・みぞおちや背中の痛みを伴う吐き気は心筋梗塞の可能性。女性は非典型症状が出やすい
  • 閉経が確定するまで妊娠の可能性は残る。まず検査薬で確認を
  • その場の対処は「横向きに寝る・吐く息を長くする・冷たい水を少しずつ」
  • 食事は1回量を減らして回数を増やし、空腹時間を作らない
  • 内科で異常なしと言われたら、そこで終わらせず婦人科へ
  • HRT開始初期の吐き気は調整できることが多い。自己判断で中止しない
  • 体重減少を伴う場合は必ず受診する
  • 仕事中は呼吸法・マスク・冷たい水・エチケット袋の常備で乗り切れることが多い
  • 家族には感情ではなく「ホルモンで胃の動きが落ちている」としくみで説明する

「更年期だから仕方ない」と我慢してしまう方が多い症状ですが、吐き気は生活の質を大きく下げます。食事が楽しめない、外出が不安、仕事に集中できない——それは十分に相談していい状態です。

そして同時に、吐き気は体からの重要な警告でもあります。この記事で挙げた「すぐ受診すべきサイン」だけは、頭の片隅に置いておいてください。当てはまるものがなければ、まずは今日、横になって呼吸を整えることから始めてみてください。

この記事を書いた人

白石まい(助産師・フェムテックエキスパート)

産婦人科病院で13年間、助産師として延べ2,000件以上の分娩に立ち会う。生理・妊活・更年期など、女性のライフステージに寄り添った健康相談を得意とする。現在はフリーランス助産師として活動しながら、フェムテックエキスパートとして「女性が自分の体をもっと好きになれる社会」を目指してfemnoteで情報を発信中。

参考文献

  • 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会「女性医学ガイドブック 更年期医療編」
  • 日本産科婦人科学会 一般の皆さまへ「更年期障害」
  • 日本循環器学会「急性冠症候群ガイドライン」(非典型症状に関する記載)
  • 日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン」
  • 日本めまい平衡医学会「めまいの診断基準化のための資料」
  • The North American Menopause Society "Menopause Practice: A Clinician's Guide".