「避妊をやめて半年経つのに妊娠しない」「まわりは自然に授かっているのに、自分だけうまくいかない」——妊活を続ける中で、こうした不安を抱く人は少なくありません。SNSや周囲の妊娠報告を見るたびに焦りが募り、「もしかして不妊症なのでは」と検索窓に打ち込んだ経験がある人もいるでしょう。

不妊症は、決して珍しいことではありません。日本では約4.4組に1組の夫婦が不妊を心配した経験があり、実際に検査や治療を受けたことがあるカップルも一定数存在するとされています。「自分だけが特別」というわけではなく、多くの人が同じ道を通っています。

この記事では、不妊症の定義から、なりやすい人の特徴、女性側・男性側それぞれの原因、検査を考え始めるタイミング、検査の流れ、治療のステップアップまで、助産師の視点でやさしく整理して解説します。正しい知識を持つことは、漠然とした不安を「次にできること」に変える第一歩になります。

不妊症とは

不妊症とは、妊娠を望む健康な男女が、避妊をせずに一定期間性生活を続けているにもかかわらず、妊娠が成立しない状態を指します。日本産科婦人科学会では、この「一定期間」を1年間と定義しています(以前は2年間とされていましたが、晩婚化・晩産化を背景に見直されました)。

つまり、避妊をやめてから1年以内に妊娠しなかったからといって、すぐに「重大な問題がある」というわけではありません。一方で、1年を目安に、必要に応じて婦人科での相談を検討するタイミングと捉えることができます。

「病気」ではなく「状態」を指す言葉

不妊症という言葉は、特定の病気ひとつを指すものではなく、妊娠が成立しにくい状態そのものを表す言葉です。背景には、排卵の問題・卵管の問題・子宮の問題・精子の問題など、さまざまな要因が単独または複合的に関わっています。原因が一つも見つからない「原因不明不妊」も一定数存在します。

年齢によって目安が変わることもある

35歳以上の場合、加齢による妊娠しやすさ(妊孕性・にんようせい)の低下を考慮し、1年を待たずに半年程度で検査を検討することがすすめられる場合もあります。年齢は妊娠しやすさに関わる重要な要素のひとつであり、「まず様子を見る」期間の長さも年齢によって調整されることを知っておきましょう。

不妊症の割合|何人に一人?

「不妊症かもしれない」という不安を抱えたとき、自分だけが特別な状況にあるように感じてしまいがちです。しかし実際のデータを見ると、不妊は決して珍しいものではないことがわかります。

  • 国内の調査では、不妊を心配したことがある夫婦は約4.4組に1組にのぼるとされています
  • 実際に検査・治療の経験がある夫婦も一定数存在し、体外受精など生殖補助医療によって生まれる子どもの割合も年々増加しています
  • WHO(世界保健機関)の報告でも、生殖年齢にある成人のおよそ6人に1人が、生涯のどこかで不妊を経験するとされています
「自分だけ」ではない 周囲に妊娠・出産を経験した人が多く見えても、実際には多くのカップルが妊活の過程で不安や停滞を経験しています。数字を知ることは、孤立感を和らげる助けになります。
手帳に基礎体温のグラフを書き込む日本人女性の手元。そばにスマートフォンとカレンダー、紅茶が置かれた妊活記録のシーン

不妊症になりやすい人の特徴

不妊症は誰にでも起こりうるものですが、妊娠のしやすさに影響しやすいとされる要因がいくつか知られています。当てはまるからといって必ず不妊症になるわけではありませんが、知っておくことで早めの対策につなげられます。

  • 年齢(特に35歳以降)——卵子の数と質は年齢とともに低下していきます。これは避けられない生理的な変化です
  • 月経周期の乱れ——周期が極端に長い・短い、または不規則な場合、排卵そのものが起こりにくい可能性があります
  • 強いやせ・肥満——体脂肪率の極端な増減は、ホルモンバランスを乱し排卵に影響することがあります
  • 喫煙習慣——喫煙は卵巣機能への悪影響が指摘されており、妊娠しやすさを下げる要因のひとつとされています
  • 過度なストレス・睡眠不足——自律神経の乱れを介してホルモンバランスに影響することがあります
  • 婦人科系の病歴——子宮内膜症・子宮筋腫・多囊胞性卵巣症候群(PCOS)・クラミジア感染などの既往がある場合
  • 過去の骨盤内の手術歴——卵管や骨盤内の癒着につながることがあります

これらはあくまで「妊娠しやすさに影響しうる要因」であり、当てはまる項目があっても妊娠できないと決まるわけではありません。生活習慣に関わる項目は、見直すことで改善が期待できるものも多くあります。

原因|女性側・男性側・原因不明

不妊の原因は、女性側・男性側・両方・原因不明のいずれかに分類され、女性側だけの問題と思われがちですが、実際には男性側に原因があるケースも同程度存在するとされています。

分類主な内容
女性側の原因排卵因子(排卵しにくい)・卵管因子(卵管が詰まる・癒着)・子宮因子(筋腫・ポリープなど)・頸管因子・免疫因子
男性側の原因造精機能障害(精子の数・運動率の低下)・精路通過障害・性機能障害
両方に要因がある女性側・男性側の両方に軽度の要因が重なり、結果として妊娠しにくくなっているケース
原因不明不妊各種検査で明らかな異常が見つからないにもかかわらず妊娠が成立しないケース。一定の割合で存在する

「原因がはっきりしない」というと不安に感じるかもしれませんが、原因不明であっても、タイミング法や人工授精などのステップアップによって妊娠に至るケースは数多くあります。原因の有無にかかわらず、段階を踏んで対応していくことが大切です。

女性側の主な原因疾患

女性側の不妊原因として代表的な疾患について、それぞれ詳しく解説した記事もあわせてご覧ください。

  • 多囊胞性卵巣症候群(PCOS)——卵巣内に多数の小さな卵胞ができ、排卵が起こりにくくなる疾患。月経不順を伴うことが多く、詳しくは「PCOS(多囊胞性卵巣症候群)とは」で解説しています
  • 子宮内膜症——子宮内膜に似た組織が子宮以外の場所で増殖する疾患。卵管周囲の癒着や卵子の質への影響が指摘されています。詳しくは「子宮内膜症とは」をご覧ください
  • 子宮筋腫——できる場所や大きさによっては、着床や妊娠の継続に影響することがあります。詳しくは「子宮筋腫とは」で解説しています
  • クラミジア感染の既往——自覚症状がないまま進行し、卵管の癒着・卵管性不妊の原因となることがあります

これらの疾患は、月経困難症や経血量の変化など不妊以外のサインとして先に気づかれることもあります。気になる症状がある場合は、妊活の有無にかかわらず婦人科で相談しておくとよいでしょう。

セルフチェック|こんなサインはありませんか

次の項目に心当たりがある場合、早めに婦人科へ相談することを検討してもよいでしょう。あくまで目安であり、診断ではありません。

  • 避妊をやめて1年以上経つが妊娠しない(35歳以上の場合は半年以上)
  • 月経周期が25日未満、または39日以上と不規則
  • 基礎体温を測っても高温期と低温期の区別がはっきりしない
  • 月経痛が年々強くなっている、または経血量に大きな変化がある
  • 過去にクラミジアなどの性感染症にかかったことがある
  • 過去に骨盤内の手術(虫垂炎の手術や開腹手術など)を受けたことがある
  • パートナーの年齢が高い、または精液検査を受けたことがない
「様子を見すぎる」ことのリスク 妊娠しやすさは年齢とともに変化していきます。「まだ大丈夫」と先延ばしにするうちに、検査や治療の選択肢が狭まってしまうこともあります。不安がある場合は、早めに相談する方が結果的に選択肢を広く持てることが多いとされています。

検査を考え始めるタイミング

婦人科での不妊検査を考え始める目安は、次のように整理できます。

年齢の目安検査を検討する時期
35歳未満避妊をやめて1年経っても妊娠しない場合
35〜39歳半年経っても妊娠しない場合は早めの相談を検討
40歳以上妊娠を希望した時点で、早期の相談がすすめられる

また、年齢にかかわらず、月経不順・強い月経痛・過去の性感染症の既往・骨盤内手術歴など気になる点がある場合は、上記の目安より早く相談してかまいません。「まだ早いかもしれない」と遠慮する必要はなく、妊活の初期段階から婦人科と関わりを持っておくこと自体が、その後の選択肢を広げることにつながります。

検査の流れ|何をどこまで調べる?

不妊検査は、女性側・男性側それぞれについて、段階的に行われるのが一般的です。すべてを一度に行うのではなく、月経周期に合わせて数回の通院に分けて進められます。

女性側の主な検査

  • 基礎体温・ホルモン検査——排卵の有無、卵巣機能の状態を確認します。基礎体温の測り方は「基礎体温の測り方・グラフの見方」で詳しく解説しています
  • 経腟超音波検査——子宮や卵巣の形態、卵胞の育ち方、子宮内膜の厚さなどを確認します
  • 卵管通水・卵管造影検査——卵管が詰まっていないか、通りがよいかを確認します
  • 頸管粘液検査・フーナーテスト——排卵期の頸管粘液の状態や、性交後の精子の状態を確認します
  • 甲状腺機能・プロラクチンなどのホルモン検査——排卵に影響するその他のホルモン異常がないかを調べます

男性側の主な検査

  • 精液検査——精子の数・運動率・形態などを調べる、比較的負担の少ない検査です
検査は「敵を知る」ためのもの 検査と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、目的は「今、体で何が起きているか」を知ることです。原因がわかれば対応の選択肢が明確になり、原因が見つからなくても、そのこと自体が次のステップを考える手がかりになります。
婦人科の診察室で医師の説明を笑顔で聞く20代後半から30代前半の日本人女性。手元にはクリップボードとメモ

治療のステップアップ|タイミング法から体外受精まで

不妊治療は、体への負担が少ない方法から段階的にステップアップしていくのが一般的な考え方です。年齢や検査結果によっては、途中の段階を飛ばして進めることもあります。

段階内容
①タイミング法超音波検査などで排卵日を予測し、性生活のタイミングを合わせる方法。詳しくは「タイミング法の基本ガイド」「排卵日の計算・予測・症状ガイド」を参照
②人工授精(AIH)採取した精液を洗浄・濃縮し、排卵のタイミングに合わせて子宮内に直接注入する方法。詳しくは「人工授精とは」で解説
③体外受精・顕微授精(ART)体外で卵子と精子を受精させ、育った受精卵(胚)を子宮に戻す方法。年齢や検査結果によっては、早い段階から選択肢に入ることもある

妊娠を望んでいても、パートナーとの性交渉が難しい事情がある場合には、自宅でできるシリンジ法という選択肢もあります。膣けいれん(バジニズム)などが背景にある場合の考え方については「シリンジ法の基本ガイド」もあわせてご覧ください。

どの段階から始めるか、どのタイミングで次の段階に進むかは、年齢・検査結果・費用面・心身の負担などを総合的に考えながら、医師と相談して決めていくことになります。

男性不妊についても知っておく

不妊というと女性側の問題として語られがちですが、実際には男性側に原因があるケース、あるいは男女双方に要因があるケースも、女性側だけの原因とほぼ同程度存在するとされています。

精液検査は採取のみで完了する比較的負担の少ない検査であるにもかかわらず、パートナーが検査に消極的で、女性側の検査だけが先行してしまうケースも少なくありません。妊活は一人で行うものではなく、パートナーと一緒に取り組むものです。早い段階で二人そろって検査を受けることが、原因の特定と適切な対応につながります。

検査・治療と心の向き合い方

不妊検査や治療は、身体的な負担だけでなく、精神的な負担も大きいプロセスです。「妊娠できない自分に価値がないのでは」「パートナーに申し訳ない」と自分を追い詰めてしまう人も少なくありません。

  • 不妊は誰か一人の「せい」ではない——原因が女性側にあっても男性側にあっても、どちらか一方の責任ではありません
  • 結果に一喜一憂しすぎない工夫を持つ——月経周期ごとに気持ちが大きく揺れやすいため、仕事や趣味など妊活以外の時間を意識的に持つことも大切です
  • パートナーと気持ちを共有する——検査や治療の負担、費用、今後の方針について、定期的に話し合う時間を作りましょう
  • 専門家に相談する選択肢もある——不妊治療専門のカウンセリングや、自治体・医療機関の相談窓口を利用することもできます

正しい知識を持つことは、漠然とした不安を「次にできること」に変える助けになります。一人で抱え込まず、パートナーや医療者と一緒に、自分たちのペースで向き合っていきましょう。

よくある質問

Q 不妊症は治りますか?

A.原因によって見通しは異なります。排卵の問題やホルモンバランスの乱れなど、生活習慣の見直しや治療で改善が期待できるケースもあれば、加齢による卵子の質の低下のように根本的な解決が難しい要因もあります。原因を検査で明らかにし、年齢や状況に合わせた選択肢を医師と一緒に考えていくことが大切です。

Q 何歳から不妊症のリスクが上がりますか?

A.卵子の数と質は年齢とともに緩やかに低下し続けますが、特に35歳前後から低下のスピードが速まるとされています。ただし個人差が大きいため、年齢だけで一律に判断することはできません。年齢が気になる場合は、抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査などで卵巣の状態を確認できることもあるため、婦人科で相談してみましょう。

Q 検査は痛いですか?費用はどのくらいかかりますか?

A.検査によって痛みの程度は異なります。血液検査や超音波検査はほとんど痛みを伴いませんが、卵管造影検査は一時的な痛みを感じる人もいます。費用は検査項目や医療機関、保険適用の範囲によって幅があるため、初診時に医療機関へ確認するのが確実です。近年は不妊治療の保険適用範囲が広がっているため、あわせて確認してみましょう。

Q 男性側の検査はどうやって受けますか?

A.基本となる精液検査は、専用の容器に精液を採取して医療機関に持参または院内で採取するだけで、身体的な負担はほとんどありません。婦人科・産婦人科でも受けられる場合がありますが、泌尿器科の中でも男性不妊を専門とする「メンズヘルス外来」を選ぶ人もいます。女性側の検査と並行して、早めに相談してみましょう。

Q 検査で異常が見つからなかった場合はどうすればいいですか?

A.「原因不明不妊」と呼ばれる状態で、一定の割合で存在します。原因が見つからなくても、タイミング法や人工授精などのステップアップによって妊娠に至るケースは数多くあります。年齢や妊活期間の長さも踏まえながら、次の段階に進むタイミングを医師と相談していくとよいでしょう。

Q 何科を受診すればいいですか?

A.まずは婦人科・産婦人科、または不妊治療を専門とするレディースクリニック(不妊専門クリニック)を受診します。かかりつけの婦人科がある場合は、そこで相談し、必要に応じて専門クリニックを紹介してもらう方法もあります。パートナーの検査については、婦人科で対応できる場合と、泌尿器科の受診がすすめられる場合があります。

まとめ|不妊症は「特別なこと」ではない

不妊症とは、避妊をせず1年間性生活を続けても妊娠が成立しない状態を指し、日本では約4.4組に1組の夫婦が経験する、決して珍しくない状態です。原因は女性側・男性側・原因不明のいずれもあり得るため、どちらか一方の責任と考える必要はありません。

年齢が気になる場合や、月経不順・強い月経痛などのサインがある場合は、1年を待たずに早めに婦人科へ相談することが、その後の選択肢を広げることにつながります。検査や治療は段階を踏んで進められるものであり、正しい知識を持つことが、漠然とした不安を「次にできること」に変える力になります。

この記事のポイントまとめ
  • 不妊症は「避妊なしで1年間性生活を続けても妊娠しない状態」。35歳以上は半年が目安になることも
  • 日本では約4.4組に1組の夫婦が不妊を心配した経験があり、珍しいことではない
  • 原因は女性側・男性側・両方・原因不明のいずれもあり、男性側の要因も同程度存在する
  • 年齢・月経不順・強い月経痛・性感染症の既往などがある場合は早めの相談を検討する
  • 検査は基礎体温・ホルモン検査・卵管検査・精液検査などを段階的に行う
  • 治療はタイミング法→人工授精→体外受精と、体への負担が少ない方法からステップアップするのが基本
  • 一人で抱え込まず、パートナーと気持ちを共有しながら、自分たちのペースで向き合うことが大切

「不妊症かもしれない」という不安は、正体がわからないからこそ大きくなりがちです。この記事が、次に何をすればよいかを考えるための最初の一歩になれば幸いです。

この記事を書いた人

白石まい(助産師・フェムテックエキスパート)

産婦人科病院で13年間、助産師として延べ2,000件以上の分娩に立ち会う。生理・妊活・更年期など、女性のライフステージに寄り添った健康相談を得意とする。現在はフリーランス助産師として活動しながら、フェムテックエキスパートとして「女性が自分の体をもっと好きになれる社会」を目指してfemnoteで情報を発信中。

参考文献

  • 日本産科婦人科学会「不妊症Q&A」
  • 日本生殖医学会「生殖医療ガイドライン」
  • 厚生労働省「不妊治療に関する取組」
  • World Health Organization. "Infertility." Fact sheet.
  • American Society for Reproductive Medicine (ASRM). "Infertility: An Overview." Patient FAQ.