「下腹部が張って最近スカートがきつい」「何となくお腹の調子が悪い日が続いている」——そんな日常のちょっとした違和感の裏に、卵巣がんが隠れていることがあります。卵巣がんは初期症状がほとんどなく、気づいたときには進行していることが多いため、「サイレントキラー(沈黙のがん)」とも呼ばれてきました。

一方で、近年はCA125をはじめとする腫瘍マーカーや経腟超音波検査の精度向上、そしてBRCA遺伝子検査やPARP阻害薬の登場によって、診断・治療の選択肢は大きく広がっています。正しい知識を持ち、わずかなサインに気づけることが、予後を大きく変える第一歩になります。

この記事では、卵巣がんの初期症状・原因・検査・ステージ・治療・生存率を、助産師の視点でやさしく整理します。卵巣嚢腫(良性)子宮頸がん検診との違いにも触れながら、「今日から自分の体に何ができるのか」まで丁寧にお伝えします。

卵巣がんとは|「沈黙のがん」と呼ばれる理由

卵巣がんは、卵巣(らんそう)にできる悪性腫瘍の総称です。卵巣は骨盤の奥、子宮の両側にある親指の先ほどの臓器で、卵子を成熟させたり女性ホルモンを分泌したりする重要な役割を持っています。この小さな臓器にがんができると、初期は症状が乏しく、気づいたときには腹腔内や他臓器に広がっているケースが少なくありません。

卵巣がんの基礎知識

医学的には、卵巣がんは「上皮性」「胚細胞性」「性索間質性」という3つの大きなグループに分類されます。そのなかで全体の約90%を占めるのが上皮性卵巣がんで、卵巣の表面を覆う上皮細胞から発生するタイプです。近年は、卵巣表面ではなく卵管の端(卵管采)から発生する「卵管由来説」が有力視されており、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんはまとめて類似の病気として扱われるようになってきました。

日本における卵巣がんの罹患・死亡データ

国立がん研究センターの統計によれば、日本では年間およそ1万3,000人の女性が卵巣がんと新たに診断され、年間およそ5,000人が亡くなっています。女性のがん罹患数としては8番目、がん死亡数でも10番目と上位に入る疾患です。生涯で卵巣がんになる確率は約1.6%(約60人に1人)とされており、決してまれな病気ではありません。

罹患のピークは50〜60代で、特に閉経前後の年代で増加しますが、20〜30代の若い世代でも発症することがあります。近年は晩婚化・少子化により月経回数が増えたことも、罹患数増加の背景として指摘されています。

「サイレントキラー」と呼ばれる理由

卵巣は骨盤のもっとも深いところにあり、腫瘍が数cm大きくなっても周囲を圧迫しにくい構造になっています。このため、下腹部痛や出血といった分かりやすい症状が出にくく、子宮頸がんや乳がんのような「検診で早期発見される仕組み」も現時点では十分に整っていません。

実際、卵巣がんが見つかったときにはすでにステージIII以上に進行している割合が約50〜60%とされ、他の婦人科がんと比べて早期発見率が低いのが現状です。こうした背景から、卵巣がんは「サイレントキラー(沈黙のがん)」と呼ばれてきました。

卵巣嚢腫(良性)との違い

健康診断のエコーで「卵巣に腫れがある」と言われても、そのほとんどは良性の卵巣嚢腫です。卵巣腫瘍全体のうち、約9割は良性、約1割が境界悪性や悪性とされています。良性と悪性の違いを整理しておきましょう。

項目 卵巣嚢腫(良性) 卵巣がん(悪性)
成長速度 ゆるやか(年単位) 早い(数ヶ月で増大することも)
エコー所見 袋状・中身が均一 充実部分・不整形・血流豊富
腫瘍マーカー 通常は上昇しない CA125などが上昇することが多い
発症年代のピーク 20〜40代 50〜60代
転移 なし 腹膜・リンパ節・他臓器へ転移することがある

超音波・MRI・腫瘍マーカーを組み合わせれば、多くのケースで良性と悪性はおおむね判別できます。ただし最終的な確定診断は、手術で取り出した組織を顕微鏡で調べる「病理検査」で行われます。

40歳以上で卵巣の腫れが新しく見つかったら、一度は精密検査を 閉経前後に見つかった卵巣腫瘍は、若い世代に比べて悪性の割合が高めです。自覚症状がなくても、画像診断と腫瘍マーカー(CA125・CA19-9)をセットで受けておくと安心です。
医師のデスクに置かれた経腟超音波プローブと女性骨盤の解剖模型、問診票。卵巣がんの初期検査をイメージしたイメージカット

卵巣がんの初期症状|見逃しやすい7つのサイン

卵巣がんの初期症状は、どれも「ちょっとした不調」「他の病気でも起こること」ばかりです。そのため「更年期のせい」「食べすぎかな」「便秘かも」と見過ごされてしまい、受診が遅れがちになります。ここでは、特に40代以降の女性が覚えておきたい7つのサインを押さえておきましょう。

① お腹の張り・膨満感

食べていないのにお腹が張る・常にふくれた感じが取れない——これが卵巣がんでもっとも多い症状です。腫瘍の大きさそのものに加え、卵巣がんでは腹腔内に水(腹水)が溜まりやすく、お腹がせり出してくることがあります。体重は増えていないのにウエストだけ太くなってきた、スカートやデニムがきつくなってきた、という変化は要注意サインです。

② 下腹部の痛み・違和感

「なんとなく下腹部が痛い」「押すとしこりがある気がする」といった鈍い痛みや違和感が続くことがあります。卵巣嚢腫による茎捻転のような激しい痛みとは違い、じわじわと続く鈍痛が特徴です。2週間以上続く場合は、便秘や胃腸炎と決めつけずに婦人科を受診しましょう。

③ 頻尿・残尿感

卵巣は膀胱のすぐ後ろにあるため、腫瘍が大きくなると膀胱を圧迫して頻尿や残尿感を引き起こします。「最近トイレが近い」「夜中に何度も起きる」といった症状が続く場合は、膀胱炎の検査で異常がなくてもエコー検査を追加してもらう価値があります。

④ 食欲不振・少量で満腹になる

腹腔内に腫瘍や腹水が広がると、胃や腸を外側から圧迫するため、少し食べただけですぐに満腹になる・食欲が湧かないという症状が現れます。この「早期満腹感」は、卵巣がんの初期サインとして海外のガイドラインでも重視されている項目です。明らかな理由なく食事量が減ったり、体重が減ったりしてきたら注意が必要です。

⑤ 不正出血・おりものの異常

卵巣がん自体が直接不正出血を起こすことは多くありませんが、ホルモン産生型のがんや他の婦人科疾患を合併している場合に、生理以外の出血・茶色いおりもの・量の多いおりものが現れることがあります。不正出血が続く場合は、卵巣だけでなく子宮頸部・子宮体部の検査も同時に行うのが一般的です。

⑥ 急な体重減少・強い疲労感

進行した卵巣がんでは、栄養や水分が腹水にとられたり、腫瘍自体の影響で代謝が乱れたりするため、食事量は変わらないのに数ヶ月で5kg以上減ることがあります。だるさ・息切れ・めまい・貧血などが重なるときは、婦人科だけでなく内科でも一度血液検査を受けておくと安心です。

⑦ 腰痛・背中の痛み

骨盤の奥にある卵巣の腫瘍が後ろ側に広がると、腰痛・背中の重だるさとして感じられることがあります。整形外科で骨や筋肉の異常が見つからない慢性的な腰痛・坐骨神経痛のような痛みがあるときは、「もしかして卵巣・子宮かもしれない」と視野に入れておきましょう。

気になる症状が2週間以上続いたら、まずは婦人科へ
  • お腹の張り・膨満感がほぼ毎日ある
  • 下腹部の鈍痛・違和感が2週間以上続く
  • 食事量は変わらないのにスカートがきつい
  • 少し食べただけですぐ満腹になる
  • 頻尿・残尿感で膀胱炎の薬が効かない
  • 急な体重減少や強い疲労感がある
こうしたサインが重なるときは、市販薬や様子見で済ませず、婦人科でのエコー・内診・血液検査を受けるのが早期発見の近道です。

卵巣がんの原因とリスク要因

卵巣がんの原因は現時点で完全には解明されていませんが、いくつかのリスク要因が特定されています。もっとも大きいのは遺伝的な要因と、月経・妊娠・出産といったライフステージの要素です。

遺伝的要因|BRCA1/BRCA2遺伝子変異

卵巣がんのうち約10〜15%は遺伝性で、そのなかで最も多いのが「BRCA1/BRCA2」という遺伝子の変異によるものです。この変異を持つ女性は、生涯で卵巣がんを発症するリスクが20〜40%(一般人口の10〜20倍以上)に上がるとされ、乳がんのリスクも同時に高くなります。

家族や親族に卵巣がん・乳がん・膵臓がんの方が複数いる場合は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の可能性を視野に入れ、遺伝カウンセリング外来で相談する選択肢があります。BRCA変異が確認された場合は、卵巣がん予防のために両側卵巣・卵管摘出術(RRSO)や、経膣エコー・CA125による定期サーベイランスが検討されます。

年齢・閉経との関係

卵巣がんは50〜60代にピークがあり、加齢とともにリスクが上がる病気です。閉経後はエストロゲン分泌が低下する一方で、それまでに蓄積された卵巣表面の傷(排卵のたびに起こる微小な傷)ががん化のきっかけになる、という「卵巣上皮の繰り返し修復仮説」が広く受け入れられています。

月経歴・妊娠・出産歴

月経回数が多いほど卵巣がんのリスクは高くなるとされ、初経が早い・閉経が遅い・出産経験がない・授乳期間が短い女性はわずかに発症リスクが上がると報告されています。反対に、妊娠・出産を経験している期間や授乳期間、低用量ピルを服用している期間は排卵が止まるため、卵巣への負担が減り、卵巣がんリスクがやや低下することが分かっています。

ホルモン補充療法・肥満・生活習慣

更年期の症状を和らげるためのホルモン補充療法(HRT)について、長期にわたる使用でわずかに卵巣がんリスクが上昇するという報告もありますが、個別のメリット・デメリットを主治医と相談して決めるのが原則です。また、肥満(BMI30以上)・運動不足・喫煙も、他のがんと同じように卵巣がんのリスクにわずかながら関係するとされています。

子宮内膜症との関係

卵巣嚢腫のうちチョコレート嚢胞(子宮内膜症性嚢胞)は、まれながら悪性化して「明細胞がん」や「類内膜がん」といった卵巣がんに変化することがあります。悪性化の確率は1%未満と低いものの、40歳以上・10cm以上・長年経過観察されている嚢胞は、定期的なMRIフォローが推奨されます。

卵巣がんの種類とステージ

卵巣がんは組織のタイプ(組織型)と広がりの程度(ステージ)によって、治療方針や予後が大きく変わります。医師の説明を理解しやすくするためにも、おおまかな分類を知っておきましょう。

組織型|上皮性・胚細胞性・性索間質性

  • 上皮性卵巣がん(全体の約90%):卵巣表面の上皮や、近年注目されている卵管由来細胞から発生。漿液性がん・類内膜がん・明細胞がん・粘液性がんに細分類される。50代以降に多い
  • 胚細胞性腫瘍(全体の約5%):卵子のもとになる胚細胞から発生。10〜20代に多く見られ、抗がん剤がよく効くタイプが多い
  • 性索間質性腫瘍(全体の数%):卵巣を支える組織や、ホルモンを分泌する細胞から発生。ホルモン産生型で、不正出血や男性化症状を引き起こすこともある

このうち、もっとも一般的な上皮性卵巣がんのなかでも「高異型度漿液性がん」が最多で、卵巣がん全体の約半数を占めます。高異型度漿液性がんは進行が早い一方、抗がん剤(プラチナ製剤・タキサン系)や後述のPARP阻害薬が効きやすいタイプです。

ステージI〜IVの進行度

卵巣がんの進行度はFIGO分類に基づくステージで表されます。大まかに4段階です。

ステージ がんの広がり 5年生存率(目安)
ステージI がんが卵巣(または卵管)内にとどまる 約80〜90%
ステージII 骨盤内の他臓器(子宮・膀胱・直腸など)に広がる 約60〜70%
ステージIII 腹腔内(腹膜・大網)やリンパ節への転移がある 約30〜45%
ステージIV 肝臓・肺など離れた臓器への遠隔転移がある 約15〜25%

生存率は国立がん研究センターの全国がん登録データや日本婦人科腫瘍学会のガイドラインをもとにした大まかな目安です。実際の数値は、組織型・年齢・合併症・治療内容によって大きく変わります。

卵巣がんの検査・診断方法

卵巣がんの診断は、「内診・エコー → 腫瘍マーカー → MRI・CT → 手術での病理検査」という流れで進むのが一般的です。症状が軽い段階からでも受けられる検査ばかりで、特別な準備は必要ありません。

婦人科内診・経腟超音波検査(エコー)

婦人科で最初に行う基本検査です。内診で子宮や卵巣の大きさ・圧痛の有無を確認し、経腟プローブのエコーで卵巣のなかの腫瘍を直接観察します。腫瘍のサイズ・内部構造(袋状か、充実部分があるか)・血流の多さから、良性か悪性の疑いがあるかをかなりの精度で判断できます。検査自体はほぼ痛みがなく、数分で終わります。

腫瘍マーカー(CA125など)

卵巣がんで代表的な腫瘍マーカーは以下のとおりです。いずれも少量の血液を採るだけで測定できます。

  • CA125:上皮性卵巣がんでもっとも上昇しやすい。基準値は35U/mL以下が目安
  • CA19-9:粘液性がんや皮様嚢腫で上昇することがある
  • CEA:消化器がん由来との鑑別にも用いられる
  • HE4:CA125と組み合わせるROMAスコアで良性/悪性の判別に使われる

ただし、CA125は子宮内膜症・月経中・妊娠中・腹膜炎などの良性疾患でも上昇することがあります。数値だけを見て慌てず、画像所見と総合的に判断することが大切です。

MRI・CT・PET検査

エコーで悪性の疑いがあると判断されたら、骨盤MRIで腫瘍の性状(脂肪・血液・充実部分)を詳しく評価します。検査時間は30〜45分、3割負担で1〜2万円程度が目安です。腹腔内やリンパ節への広がりを見るには胸腹部CT、遠隔転移の有無を調べるにはPET-CTが用いられることがあります。

確定診断は手術での病理検査

画像診断と腫瘍マーカーだけでは「卵巣がんの疑いが強い」という段階までしか分かりません。確定診断は、手術で取り出した腫瘍組織を顕微鏡で調べる「病理検査」で行われます。卵巣がんでは、腹水をとったり、腹腔内を観察したりする「ステージングサージャリー(進行度決定手術)」が治療の最初のステップになります。

卵巣がん検診は「受けておけば安心」ではない 現時点では、CA125+経腟エコーによる卵巣がん検診の有効性は十分に証明されておらず、国の対策型検診には含まれていません。ただし、気になる症状があるときや、子宮頸がん検診のタイミングで卵巣エコーを追加してもらうことで、偶然に早期発見できるケースが増えているのも事実です。「検診任せ」ではなく、症状を感じたときに婦人科にアクセスすることが最も重要です。
デスクに置かれた婦人科の検査結果用紙と、ピンク色の手帳・ペン・観葉植物。卵巣がんの腫瘍マーカーや検査結果を確認するシーンをイメージ

卵巣がんの治療法

卵巣がんの治療は、手術と抗がん剤治療の組み合わせが基本です。ステージ・組織型・年齢・妊娠希望などによって、追加で分子標的薬やホルモン療法などが組み合わされます。

手術療法

卵巣がんが疑われる場合、最初に行われるのは両側卵巣・卵管・子宮・大網(たいもう)の切除を中心とした手術です。さらに、腹腔内に広がっている腫瘍を可能な限り取り除く「減量手術(デバルキング)」が行われ、同時に腹水の採取やリンパ節の郭清で進行度を確定します。

ステージの早い若い女性で、妊娠希望が強く、片側の卵巣だけに限局した低悪性度のがんの場合は、妊孕性温存手術(患側の卵巣・卵管のみを摘出し、子宮と反対側の卵巣を残す術式)が選択されることもあります。適応はかなり限定的ですが、選択肢の1つとして覚えておきましょう。

化学療法(抗がん剤)

上皮性卵巣がんでは、手術後の再発予防や、進行がんの縮小を目的にプラチナ製剤(カルボプラチン)とタキサン系薬剤(パクリタキセル)の併用療法が標準治療となっています。3週間おきに6サイクル程度、外来点滴や短期入院で行われることが多いです。脱毛・吐き気・しびれ・骨髄抑制などの副作用が出やすいですが、近年は制吐剤や副作用管理が大きく進歩しており、多くの人が日常生活を続けながら治療を受けられるようになっています。

分子標的薬・PARP阻害薬

近年の卵巣がん治療で最大の進歩といわれるのがPARP阻害薬(オラパリブ・ニラパリブなど)です。BRCA遺伝子変異や「相同組み換え修復欠損(HRD)」のあるがんでは、PARP阻害薬を維持療法として使うことで、再発までの期間を大きく延ばせることが臨床試験で示されています。

また、血管新生を抑えるベバシズマブといった分子標的薬も、抗がん剤との組み合わせで用いられています。分子標的薬の適応は、組織型・遺伝子情報・ステージによって細かく決まるため、主治医と治療計画を共有しながら決めていくことが大切です。

再発卵巣がんへの治療

卵巣がんは再発率が高いがんの一つで、ステージIIIでは約7〜8割が再発するとされています。再発後もPARP阻害薬・別のプラチナ製剤・ホルモン療法などで治療を長く続けることが可能になっており、「慢性疾患として付き合っていく」という考え方が現実的な選択肢になっています。

卵巣がんの生存率と予後

生存率は患者さんがもっとも気になる数字ですが、平均的な目安であって、個々の予後を正確に予測するものではないことを最初に押さえておきましょう。

ステージ別の5年生存率

国立がん研究センターの全国がん登録(2014〜2015年診断例)による全ステージ合計の5年相対生存率は、卵巣がんで約60%前後とされています。ステージ別ではおおむね次のようになります。

  • ステージI:約80〜90%
  • ステージII:約60〜70%
  • ステージIII:約30〜45%
  • ステージIV:約15〜25%

大きな傾向として、早い段階で発見・治療が開始されたほど生存率は高くなります。だからこそ、「少しの違和感」を見逃さない姿勢が予後を左右します。

再発リスクと対策

ステージIIIの卵巣がんでは再発率が高いことが知られていますが、近年はPARP阻害薬などによる維持療法で再発までの期間(無増悪生存期間)が延長されることが報告されています。治療後は、定期的なCA125測定・画像検査・婦人科診察を継続し、小さな再発の兆候を早くつかまえることが重要です。

治療と生活の両立

手術・抗がん剤・維持療法と聞くと「日常生活を諦める必要がある」と感じてしまう人もいますが、最近は仕事・家事・育児を続けながら外来で治療を受けるケースが増えています。脱毛・倦怠感・しびれといった副作用への対処法、医療用ウィッグ・補助具・サポートグループなど、生活の質(QOL)を支える選択肢も年々広がっています。医療ソーシャルワーカーや、がん相談支援センターの活用も視野に入れておきましょう。

早期発見のためにできること

卵巣がんは現時点で国の対策型検診が確立されていない以上、日常生活での「気づき」と、定期的な婦人科受診の2本柱で早期発見を目指すしかありません。難しい話ではなく、今日から実行できることばかりです。

定期的な婦人科受診の習慣化

20歳を過ぎたら、年1回は婦人科を受診する習慣をつくっておきましょう。子宮頸がん検診の機会に、経腟エコーや腹部エコーを追加してもらうだけでも、卵巣の異常は見つけやすくなります。35歳以上・家族歴あり・月経回数が多い・BMIが高いなどのリスクがある人は、半年に1回のエコーチェックも選択肢です。

セルフチェックのポイント

自分で卵巣を触って確認することはできませんが、体のサインに敏感になることは誰でもできます。次のようなことを普段から意識しておきましょう。

  • 体重は変わっていないのにウエスト周りだけ増えていないか
  • 食事量は変わらないのにすぐ満腹になったり、食後の膨満感が続いたりしていないか
  • 下腹部の張り・鈍痛・しこり感が2週間以上続いていないか
  • 頻尿や残尿感が膀胱炎の薬で改善しない状態が続いていないか
  • 生理周期・経血量・不正出血にこれまでと違う変化が出ていないか

当てはまるサインが3つ以上あるときや、2週間以上続くときは、「様子を見る」より婦人科を受診する判断をおすすめします。

BRCA遺伝子検査・遺伝カウンセリング

家族に卵巣がん・乳がん・膵臓がんの方が複数いる場合は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の可能性を視野に入れ、専門外来で遺伝カウンセリングを受ける選択肢があります。BRCA遺伝子検査は、乳がん既往者や一定の家族歴のある方では健康保険の適用になっており、未発症のリスク保有者に対しても、予防的な卵巣摘出術(RRSO)や定期サーベイランスが検討されます。

低用量ピル・妊娠・授乳とリスクの関係

低用量ピルを5年以上服用すると、卵巣がんのリスクが3〜5割低下するという疫学データが複数の国から報告されています。これは排卵を止めることで卵巣への負担が減るためと考えられています。ピルの目的は避妊や月経困難症の治療ですが、「長期的には卵巣がんリスクを下げる副次的な効果もある」と知っておくと、治療選択の一材料になります。詳しくは低用量ピルのカテゴリもあわせてご覧ください。

よくある質問Q&A

Q 卵巣がんは何人に1人がかかりますか?

A.国立がん研究センターの統計では、日本人女性が生涯で卵巣がんと診断される確率は約1.6%、おおよそ60人に1人とされています。年代別のピークは50〜60代ですが、20〜30代でも発症することがあるため、「自分には関係ない病気」と決めつけない姿勢が大切です。

Q 卵巣がんの前兆にはどんなものがありますか?

A.典型的な前兆として報告されているのは、お腹の張り・下腹部の鈍痛・早期満腹感・頻尿の4つです。これらの症状が2週間以上続く場合は、海外のガイドラインでも卵巣がんを想定した検査が推奨されています。ただし、更年期障害や胃腸トラブルでも似た症状が出るため、自己判断せず婦人科と内科の両方で評価してもらうのが安心です。

Q 卵巣がんはどこが痛くなりますか?

A.もっとも多いのは下腹部(おへそより下)の鈍痛や違和感です。腫瘍が大きくなると腰痛・背中の重だるさ・性交痛として感じられることもあります。痛みは片側だけに出ることも、お腹全体が張る感じとして出ることもあります。鋭い痛みより「じわじわ続く違和感」が特徴的です。

Q 卵巣嚢腫から卵巣がんになることはありますか?

A.大多数の卵巣嚢腫は良性のままで、がん化する確率は1〜2%未満です。ただし、40歳以上・10cm以上・急速に大きくなる・内部に充実部分がある嚢腫ではリスクがやや上がります。特にチョコレート嚢胞は、明細胞がん・類内膜がんへの悪性化が報告されているため、定期的なMRIフォローが推奨されます。

Q 卵巣がん検診は受けるべきですか?

A.現時点では、CA125と経腟エコーによる卵巣がん検診の死亡率減少効果は科学的に証明されておらず、国の対策型検診には含まれていません。ただし、子宮頸がん検診のついでに卵巣エコーを追加してもらう「オポチュニスティック検診」は、自覚症状のない早期がん発見に役立つケースもあります。家族歴や症状がある人は、主治医と相談しながら検査の頻度を決めましょう。

Q 低用量ピルは卵巣がん予防になりますか?

A.低用量ピルを5年以上服用すると卵巣がんのリスクが3〜5割下がるという疫学データが複数の国で確認されています。排卵を止めることで卵巣への負担が減るためと考えられています。ただし、ピルはあくまで避妊や月経困難症・子宮内膜症の治療として使われる薬であり、「卵巣がん予防のためだけ」に処方されるものではありません。服用の判断は、メリット・デメリットを主治医と相談したうえで決めてください。

Q 卵巣がんの治療中でも仕事は続けられますか?

A.治療内容や体調にもよりますが、近年は手術後の回復期間を経て、外来抗がん剤治療を続けながら仕事をしている人が多くいます。短時間勤務・在宅勤務・休職と復職を組み合わせる方法のほか、職場の産業医・医療ソーシャルワーカー・がん相談支援センターへの相談も活用できます。治療計画と仕事のスケジュールを早い段階から共有することが、両立のコツです。

まとめ|「少しの違和感」に気づけることが、予後を変える

卵巣がんは初期症状が乏しく、進行してから見つかることの多い病気ですが、近年は検査技術や治療選択肢が大きく広がり、ステージの早い段階で見つけられれば長期生存も十分に目指せるようになってきました。

もっとも大切なのは、「お腹の張り・下腹部の違和感・早期満腹感・頻尿が2週間以上続いたら婦人科を受診する」という、たった一つの行動習慣です。家族歴や月経歴でリスクが気になる人は、遺伝カウンセリングや低用量ピルといった予防的選択肢もあります。「サイレントキラー」を過度に恐れず、自分の体の声に耳を澄ます——それが、これからの時代のフェムケアのあり方です。

この記事のポイントまとめ
  • 卵巣がんは生涯で約60人に1人が発症する、決してまれではない病気
  • 初期症状は「お腹の張り・下腹部痛・頻尿・食欲不振」など曖昧で見逃されやすい
  • BRCA1/BRCA2遺伝子変異・閉経後・月経回数が多い人はリスクがやや高まる
  • 上皮性卵巣がんが全体の約90%。ステージI〜IVの進行度で治療方針と予後が決まる
  • 内診・エコー・腫瘍マーカー(CA125)・MRIで疑いを評価し、確定は手術病理検査
  • 標準治療は手術+プラチナ・タキサン併用療法。BRCA変異ではPARP阻害薬が有効
  • ステージIの5年生存率は80〜90%。早期発見が予後を大きく左右する
  • 気になる症状が2週間以上続いたら、自己判断せず婦人科へ。年1回の受診習慣が最強のセルフケア

この記事を書いた人

白石まい(助産師・フェムテックエキスパート)

産婦人科病院で13年間、助産師として延べ2,000件以上の分娩に立ち会う。生理・妊活・更年期など、女性のライフステージに寄り添った健康相談を得意とする。現在はフリーランス助産師として活動しながら、フェムテックエキスパートとして「女性が自分の体をもっと好きになれる社会」を目指してfemnoteで情報を発信中。

参考文献

  • 国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん」
  • 日本婦人科腫瘍学会「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン」
  • 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編」
  • 厚生労働省「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」
  • 日本HBOCコンソーシアム「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療ガイドライン」
  • 国立がん研究センター「全国がん登録 5年相対生存率(2014〜2015年診断例)」