「においが気になるけど、カンジダとは違う感じ……」「おりものが灰色がかっていて、魚くさいにおいがする」——そんな症状で不安を感じたことはありませんか?
これらは細菌性膣症(Bacterial Vaginosis)の典型的なサインです。細菌性膣症は腟の感染症のなかで最も頻度が高く、性活動がある女性の約20〜30%が経験するとされています。それにもかかわらず、「カンジダとどう違うの?」「病院に行くべき?」「放っておいても治る?」と疑問を持つ方がとても多い疾患です。
この記事では、助産師の視点から細菌性膣症の原因・症状・自然治癒の可能性・治療法・再発予防まで、正確にわかりやすく解説します。
細菌性膣症とは?カンジダ・クラミジアとの違い
細菌性膣症とは
細菌性膣症とは、腟内の細菌バランス(腟内フローラ)が崩れることで発症する状態です。健康な腟内は乳酸菌(ラクトバチルス)が優位で弱酸性(pH 3.8〜4.5)に保たれていますが、何らかの原因でこのバランスが崩れると、ガードネレラ菌などの嫌気性菌が異常増殖します。この菌の過剰増殖が細菌性膣症の本態です。
「炎症」ではなく「菌のバランスの乱れ」が主体であるため、腟内に強い炎症症状(腫れ・赤みなど)が出にくく、自覚症状が乏しいことが特徴です。
カンジダ・クラミジアとどう違う?
- 細菌性膣症:原因=嫌気性菌の増殖(菌バランスの乱れ)/においが強い(生臭い・魚くさい)/かゆみは少ない/おりものは灰色〜白で水っぽい
- カンジダ膣炎:原因=カンジダ菌(真菌)の増殖/においは少ない/かゆみが強い/おりものは白いカッテージチーズ状・酒粕状
- クラミジア感染症:原因=クラミジア菌(性感染症)/女性は無症状が多い/パートナーへの感染リスクあり/性交渉での感染が主
細菌性膣症は「においが主症状でかゆみが少ない」点がカンジダと見分ける重要なポイントです。一方でクラミジアは性感染症であり、パートナーへの感染リスクがあるため別のアプローチが必要です。
性感染症ではないの?
細菌性膣症は、厳密には性感染症(STI)には分類されません。性的な接触がなくても発症することがありますし、パートナーへの感染という概念も一般的な性感染症とは異なります。ただし、性行為によって腟内フローラが乱れることで発症するケースも多く、性活動との関連は否定できません。
原因と発症しやすいケース|腟内フローラが乱れる理由
細菌性膣症が起きるメカニズム
健康な腟内を守っているのは乳酸菌(ラクトバチルス属)です。乳酸菌は乳酸やH₂O₂(過酸化水素)を産生し、腟内を酸性に保つことで有害な菌の増殖を防いでいます。
このバランスが崩れると、通常は少量しか存在しないガードネレラ・バジナリスやマイコプラズマ、アナエロコッカスなどの嫌気性菌が一気に増殖します。これらの菌が産生するアミン類(プトレシン・カダベリン)が、細菌性膣症特有の魚くさいにおいの原因となります。
発症しやすい状況・ライフスタイル
- 腟内洗浄(ビデ・シャワー):腟の奥までシャワーを当てたり、ウォシュレットのビデで腟内を洗ったりすることは、乳酸菌を洗い流してしまう最大の原因の一つです
- 石鹸での腟内洗浄:石鹸はアルカリ性のため、腟内のpHを上げて乳酸菌の生育を妨げます
- 性行為:精液はpH 7〜8のアルカリ性のため、腟内を一時的にアルカリ性に傾けます。特に新しいパートナーとの性行為後に発症するケースが多い
- 抗生物質の服用:他の感染症治療で抗生物質を服用すると、腟内の乳酸菌も死滅することがある
- ホルモンバランスの変化:生理前・妊娠中・更年期はエストロゲンが低下し、腟内の乳酸菌が減りやすくなる
- 過度なストレス・疲労・睡眠不足:免疫力が下がることで菌バランスが崩れやすくなる
- タイトな下着・合成繊維の下着:ムレによってpH・細菌バランスが変化する
症状の特徴|においの変化・おりもの・自覚症状が少ない理由
細菌性膣症の主な症状
- においの変化(最も特徴的):生臭い・魚くさいにおい。特に性行為後や生理後に悪化することがある(精液・経血のアルカリ性がアミン産生を促すため)
- おりものの変化:灰白色〜薄い黄色で水っぽいおりもの。量が増えることもある
- かゆみ・痛みは少ない:カンジダのような強いかゆみや灼熱感は出にくい
- 排尿時の軽い違和感:ごく軽い不快感を覚える場合もある
なぜ自覚症状が出にくいのか
細菌性膣症の患者の約50%は無症状と言われています。炎症反応が主体ではなく「菌のバランスの乱れ」が病態の本質であるため、腫れ・赤み・強い痛みといった典型的な感染症の症状が出にくいのです。
そのため「においが少し気になる程度」で放置してしまい、気づかないまま慢性化・再発を繰り返すケースが多くあります。
細菌性膣症のにおいは「魚のような生臭さ」が特徴ですが、自分では判断が難しいこともあります。「いつもと何か違う」「パートナーから指摘された」「性行為後に特に気になる」という場合は、自己判断せず婦人科を受診することをおすすめします。においの自己評価は非常に主観的で、過度な不安を招くこともあります。
自然治癒はするのか?放置するとどうなるか
細菌性膣症は自然に治ることがある
軽度の細菌性膣症は、腟内フローラが自然に回復することで症状が消えるケースがあります。特に、原因となった行動(腟内洗浄・新しいパートナーとの性行為など)をやめることで改善に向かうこともあります。
ただし、「自然治癒した」と感じても、実際には菌のバランスが完全に戻っていないまま潜在的に続いているケースも多く、再発を繰り返しやすい状態になることがあります。
放置するリスク
症状が軽くても放置することには、以下のようなリスクがあります。
- 骨盤内炎症性疾患(PID):菌が子宮・卵管・骨盤腹膜へ広がり、強い腹痛・発熱・不妊の原因になることがある
- 流早産リスクの上昇:妊娠中に細菌性膣症があると、早産・低出生体重児・流産のリスクが高まるとされている
- 他のSTIへの感染リスク上昇:腟内の防御機能が低下することで、クラミジア・淋菌・HIV等への感染リスクが上がる
- 慢性化・再発の繰り返し:治療せず放置すると腟内フローラの回復が難しくなる場合がある
「においが気になるだけ」「かゆくないから大丈夫」と判断せず、気になる症状があれば早めに受診することが大切です。特に妊娠中・妊活中の方は積極的に検査を受けることをおすすめします。
検査・診断方法|病院での流れ
どの科を受診すればいい?
婦人科(産婦人科)を受診してください。「においが気になる」「おりものの色・量が変わった」という主訴で問題ありません。センシティブなテーマですが、婦人科医・助産師は毎日このような相談を受けており、日常的な診察内容です。遠慮なく相談してください。
診断の方法
細菌性膣症の診断には、以下の「アムセル基準」が使われることが多いです。4項目中3項目以上が当てはまると細菌性膣症と診断されます。
- 均質な灰白色のおりものが腟壁に付着している
- 腟のpHが4.5より高い(弱酸性が保てていない)
- KOHテスト(腟分泌物に水酸化カリウムを加える)で魚臭いにおいが発生する(ホイッフテスト陽性)
- 顕微鏡検査でクルー細胞(細菌に覆われた上皮細胞)が確認される
内診(腟鏡診)とおりものの採取が行われますが、痛みはほとんどありません。診断は比較的短時間で行われます。
治療方法|抗生物質・市販薬が使えない理由
治療の基本は抗生物質
細菌性膣症の第一選択治療は抗生物質です。主に以下が使われます。
- メトロニダゾール(経口または腟内投与):嫌気性菌に強く効く抗菌薬。最も標準的な治療薬。
- クリンダマイシン(腟内クリームまたは経口):メトロニダゾールが使えない場合の代替薬。
治療期間は通常7〜10日間です。症状が消えても自己判断で途中でやめてしまうと再発しやすくなるため、処方された期間はきちんと服用・使用することが大切です。
市販薬では治療できない理由
「市販薬で治せないか」と考える方も多いですが、細菌性膣症の治療に必要なメトロニダゾールやクリンダマイシンは処方薬であり、ドラッグストアでは入手できません。
カンジダ用の市販薬(腟錠・クリーム)は、細菌性膣症には効果がないどころか、腟内環境をさらに乱すリスクがあります。「においが気になるからカンジダ薬を試してみた」という行為は逆効果になる可能性があるため注意が必要です。
乳酸菌(ラクトバチルス)を含むサプリメントやヨーグルトは、腟内フローラの回復を補助する可能性が研究されています。ただし現時点では補助的な役割にとどまり、抗生物質治療の代替にはなりません。医師の治療と並行して取り入れる分には問題ありません。
パートナーの治療は必要?
細菌性膣症は性感染症ではないため、原則としてパートナーの治療は推奨されていません。ただし性行為によって再発を繰り返す場合は、コンドームの使用が再発予防に有効です。
再発しやすい理由と予防策
なぜ細菌性膣症は再発しやすいのか
細菌性膣症は治療後の再発率が高く、3か月以内に約30%、1年以内に約50〜70%が再発するとされています。これは以下の理由によります。
- 抗生物質で嫌気性菌を除去しても、乳酸菌が完全に回復するまでに時間がかかる
- 再発のトリガー(腟内洗浄・性行為・ホルモン変動など)が続く
- biofilm(細菌が作る保護膜)が形成されると抗生物質が効きにくくなる
再発を防ぐための日常ケア
- 腟内をシャワー・ビデで洗わない(外陰部のみ、ぬるま湯か低刺激の専用ソープで洗う)
- 石鹸を腟の中に入れない
- 性行為後はシャワーを浴び、腟内のpH変化を早めに戻す意識を持つ
- コンドームを使用する(精液のアルカリ性による腟内pH変化を防ぐ)
- 通気性の良い綿素材の下着を選ぶ
- おりものシートは3〜4時間ごとに交換しムレを防ぐ
- 乳酸菌を含む食品(ヨーグルト・発酵食品)を日常的に取り入れる
- 睡眠・ストレス管理で免疫力を維持する
再発を繰り返す場合は、維持療法(週2回程度のメトロニダゾール腟内投与を数か月続けるなど)が検討されることもあります。再発が続くようであれば、婦人科で再発予防の相談をしてみてください。
よくある質問
Q 細菌性膣症かカンジダか、自分で見分ける方法はありますか?
A.完全に自己判断することは難しいですが、目安としては「かゆみが強い+白いカッテージチーズ状のおりもの+においは少ない→カンジダの可能性」「魚くさいにおいが主症状+灰白色の水っぽいおりもの+かゆみは少ない→細菌性膣症の可能性」と区別できます。ただし混合感染もあり得るため、自己判断で薬を購入するより、婦人科で正確な診断を受けることを強くおすすめします。誤った薬を使うと症状が悪化することもあります。
Q 生理のたびに細菌性膣症になるのですが、なぜですか?
A.経血(血液)はアルカリ性のため、生理中は腟内のpHが一時的に上がり、乳酸菌が減少して嫌気性菌が増えやすい状態になります。生理のたびに発症・悪化する場合は、生理用品をこまめに交換する・腟内環境を整える乳酸菌サプリを補助的に使うなどの対策に加え、婦人科で維持療法について相談することをおすすめします。
Q 妊娠中に細菌性膣症になりました。赤ちゃんへの影響はありますか?
A.妊娠中の細菌性膣症は、早産・低出生体重・羊水感染のリスクを高める可能性があるとされています。そのため妊娠中は特に早めの受診・治療が大切です。妊娠中に使える抗生物質は限られますが、産婦人科医が適切な薬を選んで処方しますので、症状に気づいたら迷わず受診してください。
Q 治療後、性行為はいつから再開できますか?
A.治療が完了し症状が消えてから再開するのが基本です。一般的には治療終了後(7〜10日間の投薬完了後)に医師の確認を得てから再開します。再発予防のためにコンドームを使用することも有効です。性行為後に再び症状が出るようであれば、婦人科に相談してください。
Q 腟内を清潔に保つためにビデを使うのはよくないのですか?
A.腟内にビデやシャワーを直接当てる「腟内洗浄」は、乳酸菌を洗い流し腟内フローラを乱す主要な原因のひとつです。腟には自浄作用があり、内部を人工的に洗う必要はありません。外陰部(腟の外側)をぬるま湯または低刺激のデリケートゾーン専用ソープで優しく洗うだけで十分です。「清潔にしたい」という気持ちは理解できますが、内部を洗いすぎることが逆効果になってしまいます。
Q 無症状でも治療は必要ですか?
A.非妊娠女性で無症状の場合、治療の必要性は医師の判断によります。一般的には症状のない方への積極的な治療は行われないことも多いですが、妊娠中・手術前・免疫が低下している場合は無症状でも治療が推奨されます。「検査で細菌性膣症と言われたけど症状はない」という場合は、担当医に治療の必要性について確認してみてください。
まとめ
細菌性膣症は、腟内の乳酸菌が減少して嫌気性菌が増殖することで起きる状態です。魚くさいにおいが特徴的ですが、無症状のことも多く、気づかないまま放置されがちです。
- 細菌性膣症は「腟内フローラの乱れ」が原因。かゆみが少なくにおいが主症状(カンジダとの違い)
- 腟内洗浄・石鹸での内部洗浄・性行為・抗生物質服用などがフローラを乱す主な原因
- 約50%は無症状だが、放置すると骨盤内炎症・流早産リスク・他のSTI感染リスクが上がる
- 自然治癒するケースもあるが、再発を繰り返しやすく、市販薬では治療できない
- 治療は処方の抗生物質(メトロニダゾール等)が基本。婦人科への受診が必須
- 再発率が高いため、腟内洗浄をやめる・コンドーム使用・乳酸菌摂取などの日常ケアが重要
「においが気になるだけで大したことはない」と思わず、気になる症状があれば婦人科に相談してください。細菌性膣症は適切な治療で改善できますし、日常的なケアで再発を防ぐことも十分可能です。
あなたの腟内環境は、あなたの全身の健康と深くつながっています。センシティブなテーマだからこそ、正しい知識を持って、自分の体と向き合っていきましょう。
参考文献
- 日本性感染症学会「性感染症 診断・治療ガイドライン 2021」
- 厚生労働省「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」(2024年)
- Amsel R, et al. "Nonspecific vaginitis: diagnostic criteria and microbial and epidemiologic associations." The American Journal of Medicine, 1983.
- Bradshaw CS, Sobel JD. "Current Treatment of Bacterial Vaginosis—Limitations and Need for Innovation." Journal of Infectious Diseases, 2016.
- Muzny CA, Schwebke JR. "Biofilms: An Underappreciated Mechanism of Treatment Failure and Recurrence in Vaginal Infections." Clinical Infectious Diseases, 2015.
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「腟感染症について」